♯3 魔法修行ですか。③
次が長くなりそうなので今回は短めです。
地面に出来た水たまりが、俺の意思に従って空へ水柱を立てる。ジュッと鋭い音と共に舞い上がったそれは、全体を空中に投げだしてアメーバのように漂いながら俺の眼前で停止した。
「凍」
刹那、漂っていた水は一本の槍を型取り轟と疾風を巻き起こす。収まった風の中、俺の手元にあるのは氷の槍。氷槍と呼ばれるらしい。
RPGだとこういった類の物には大抵凝ったデザインがしてあったりするが、現実はそんなことは無く氷柱状だ。持つところだけが凹んでいて握りやすくなっている。
「メリッサ先生。どうでしょうか?」
俺は後方で単元の成果を見ていた彼女を振り返った。大岩にハンカチを敷いて上品に腰をおろし、テストの様子を見ていたメリッサ先生は、持ち前の色気をふんだんに載せた微笑を俺に向けた。
「満点よ。ただ、欲を言うと第三工程も言霊なしでやって欲しかったかしら?もう一週間ほどあれば低級の物は出来そうね」
払った金髪が靡いて金粉が降ったような錯覚に陥る。
最近美形さんにばかり見入っていたが、やはり美人さんはまた一味違うな。なんていうか、うん、女の人って素敵だ。
色気に押されて一泊遅れた返事を返すと、メリッサ先生は今日はこれまで!と元気よく言って転移魔法で帰ってしまった。
イ―ズにメリッサ先生との修行を宣告されてから早一週間。本格化してきた内容に、俺のチート能力がどんどん顕わになってきている。嫌だったチート能力だが、修行スピードは速くすむしメリッサ先生は嬉しそうなので、案外良かったかなと思えてきてしまう。
一週間ずっと低級魔法をやり続け、レパートリーを増やしているところだ。今のところ、始めにやった『炎弾』を始め主となる種族ごとに一つずつ。攻撃魔法である『雷撃』『氷槍』『疾風』、そして幻術である『闇夜』『光源』。一工程で済む日常魔法である『加速』は、数多ある日常魔法の中で唯一教えてもらった。他は全て三工程か二工程で終了する魔法だ。とりあえず戦闘に有効そうな物から教えてくれているようだ。俺は二工程までの物ならすべて思うだけで工程を終わらせることが出来るまでに成長した。
魔法には完全に発動するまでにいくつかの工程がある。この辺は魔法工学の方でもやっている。今発動させた『氷槍』で言うと、撒いた水を空中に浮かせるのが第一工程。そして空中で漂うのが第二工程。ここから命令を変えれば他の魔法にすることもできる。第三工程は凍らせて槍の形を取らせること。ここが難関で、俺は命令を口にして言霊としないと完了することが出来ない。
まぁ、チートなことに変わりは無いのだが。
メリッサ先生によると、軽く授業を追い越すほどの上達ぶりらしい。しかしこれはあくまで授業の範囲であって、一般の生徒たちは生活の中で使う魔法を多数習得している。また、攻撃などの戦闘向けの魔法を使う機会が無いというのも理由だそうだ。
修業を始めてから実技の授業にも出る様になった。ヘライン先生やナザ達からはあの爆発はなんだったんだと問われるほどの変貌ぶり。俺ってば成長したなー。チートなだけだけど。今だけ神様ありがとう!
「辰巳。飯にするぞ」
「はーい」
風紀委員の見回りを終えてから帰って来るため最近は帰りが比較的遅くなっている。それに加えて修行もしているので時刻は優に夕食時を超えていた。