♯3 魔法修行ですか。②
女性登場。
花が出ますねーやっぱり^^
いつも組み手をしているあの空間には、今日は違う風景が作られている。
ごつごつと尖った岩が障害物として地から突き出す、所謂岩肌のフィールド。コンクリートボックスに近かった今までの空間とは違い土埃の舞う中で、2人開けた場所に立っていた。
「そう、意識を集中させるんだ……無理にではなく自然にそれだけを浮かべろ」
俺は言われたとおりに昼間と同じ、小さな炎を想像する。あまり強く考えすぎず、イメージを一瞬頭に浮かべるだけでいい。
ぽうっと俺が突き出していた掌に光がともった。
テラテラと光るそれは紛れもなく炎。掌に熱さは感じなかった。
「成功、した」
感激に涙がこみ上げそうになるのをグッと堪えて、イ―ズの方を見ると嬉しそうに頷いてくれた。
やった!成功だ!!
「よし、じゃぁ次はそれを岩山にぶつけてみろ」
「はっ!?」
「ほら、集中切らすと散るぞ」
「えっ」
言われて炎弾を確認するも揺らめくだけで消える兆しはない。騙されたとじと目で彼を睨んでみたが、微笑まれてしまっては効き目もありゃしない。俺が虚しくなっただけ。
「ぶつけるって、投げればいいの?」
「いや、まぁ間違ってはいないけど。投げるというよりは飛ばすのに近い」
イ―ズは自らも手のひらの上に炎弾を作り出し、木の葉を吹き飛ばすかのように息を吹きかけた。
すると炎弾が弾かれたように岩に向かって突進していく。俺の鋭い感覚がなかったら何が起こったのか分からないだろう程のスピードを持って、破裂音と共に大岩を微塵に砕いた。
唖然としてそれを見つめる俺に、彼はふっと笑って今度は辰巳の番だと俺を促した。
まだ手のひらで揺れている炎を見て、これがあんな威力を生むのかと息をのむ。
息を吹きかければいいんだよな。……よし。
俺は意を決して揺らめく炎に顔を近づけた。
ふっ、と息を吹きかける。
……。
動かないんだけど。
平然と掌の中で揺れる炎をじっと見つめ、その視線をイ―ズへと移行した。イ―ズは困ったように微笑して頭を掻いている。
はいはい。分かってますよ。普通はちゃんと出来ちゃうんでしょ。いいもん俺ぶきっちょだもん。
「まぁ、初めてだし。練習すればできるから」
イ―ズよ、こういうときのそのセリフは追いうちにしかならなかったりするんだよ。
はぁ、と大きなため息が無意識に出る。
なんでこいつ飛ばないかな。飛べよ、飛べ!
――びゅっ
「……え?」
何が起こったのか分からなかった。
唯一すぐに認識できたのは、俺の掌の上の炎弾が消え、狙っていた大岩が跡形もなく消え去っているということ。破片も残さず、塵がどこからか吹く風に舞っている。
「……辰巳」
俺より先に立ち直ったイ―ズが俺の元へ歩み寄って来た。俺は茫然としたまま彼を見上げる。
「思ったか?命令、みたいな。そういうこと」
「命令……した、な。……それが?」
「原因って言うか。言霊、みたいな役割を果たしたんだ。高等な魔法使いになるとそういうことが出来るようになる。……あくまで、熟練の末に得られる物のはずだが」
顎に手をあて考え出したイ―ズには申し訳ないが俺の頭は全然追いついちゃいない。
これはあれか?再度チート設定か?いらないって言ったじゃん!人並に出来ているのが一番いいんだよ!大変な思いしないし無難だし。普通って案外難しいんだけどその分かなり嬉しい立場だから!普通にいたこと無いんだけどさ!その分そういうことが分かったりしなかったり、なんかずれてきたぞ。
「イ―ズ、結局俺は成功したのしてないの?」
「大成功と言っても過言じゃないよ。これでちゃんと練習すればいきなり魔法使いレベルだよ」
嬉々として言うイ―ズにこちらとしては項垂れたい。
普通レベルでいいから早めに出来て欲しかった。
とりあえず魔法自体は使えるわけなので練習はすることにしようと思う。イ―ズが言っていたように、自分の身を少しでも自分で守れるようにしたいという理由が大きい。再確認した自分の立ち位置は全く好ましいものではないが、立ち向かう以外に術は無いのだ。打破するためにもこの世界に見合った力がいる。
「じゃぁ、もう一回してみるか」
努めて明るくはなったその言葉に、俺は覚悟を持って頷いた。
そのとき、
「あら?なにしてるの?」
聞き覚えのない女性の声にびくりとして、声のした方――この空間の出入り口を振り返った。
「妃殿下!なぜここへ?」
妃殿下?あぁ!
ヴァラン陛下の奥さん(♀)だ。金髪カールのグラマラスな美女こと、メリッサさん(名前を覚えていた俺に拍手)。
なぜここにいるのだろうか?此処を用意してくれたのはヴァラン陛下ではあるが、妃ともなるお方が訪れる目的が無い。
ともあれ絶世の美女、目のやり場に困って自然と目をそらす形になる。久しぶりに女の人を見た。なんていうか、男子校って花が無いんだよな。まぁ、アセラみたいなかわいい子もいるに入るんだけど所詮男だし。ハスキーだし。
なんとなく視線を感じて彼女の方を一瞥すると、目が離せなくなった。
ふっと笑んだその顔はとてつもなく妖艶で、世の男を全て虜にしてしまいそうだ。
頬が赤くなるのを感じて恥ずかしさに顔を伏せた。フフっという笑い声が聞こえて、どうにも気まずくなる。
「可愛いのね―。ふふ。センサス、わたくしはただヴァランから買い物のついでに見ておいでと言われただけよ。ところで『空創紙』なんか使って何してるの?」
グラマラスな体型を見せつけるようなフィットしたワンピース姿で、綺麗な花飾りのついたベレー帽をかぶっている。首にはファーを巻いていかにもお金持って言った感じの格好をしているのだが、やっぱりそれくらいじゃないと美貌に負けてしまう。異世界独特の文様に近い模様の入ったプリーツスカートを揺らして腕を組む。
そしての沈黙。どうやら聞く姿勢に入ったようだ。イ―ズが観念したように洗いざらい話しだした。その間俺は何もすることが無いので、休憩も兼ねて大岩の一つに腰を下ろす。
かたい大岩の肌をげしげしとけっぽっていると、あらかた話が終わったようでイ―ズが俺を呼んだ。
「辰巳。魔法の修行は妃殿下が見てくださるそうだ。高等な魔法使いでいらっしゃる」
「またそんな堅い言葉で!ここはお城じゃないのよ?」
「そんなこと言われましても……」
「幼馴染の仲じゃない!ほら、さっきみたいに普通に!」
「……わかったよ。辰巳、明日から妃殿下が来て教えてくれるから、学校終わったら一時間魔法の特訓だからな」
「……へ?」
はい?
妃殿下が、つまりメリッサさんが魔法講師?って言うかイ―ズとメリッサさんって幼馴染なの?それをヴァラン陛下に取られちゃった感じ?あれ、まさかの三角関係。昼ドラか!いやそんな話じゃなくて、 え?まじで?メリッサさん教えてくれんの?
気の抜けた返事をしてしまったことを誰が責められようか!だってあれだ、美女なんだよ!?俺きれいな人全般に弱いんだからね!?最近判明したけど。
茫然として二人を見上げていると、嫌かしら?とメリッサさんに甘い声で問われた。
「そ、そんなことぜんっぜんありません!」
しどろもどろになりながら全力で首を振ると、可愛いわねぇ―とくすくす笑われる。大人だな、なんて思って赤くなる頬を無視した。
「よろしくおねがいします!」
「はい。わたくしのことは、そーねぇ、メリッサ先生とでも呼んで?先生って呼ばれてみたかったのよ」
フフっと楽しそうに笑うメリッサ先生は、なんだか可愛らしかった。
素敵な人だ。薔薇が似合うだろうなぁ……少女マンガのような発想だ。
話がまとまったところでメリッサ先生は帰り、俺達は土埃の舞う空間から引き揚げた。




