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♯2 風紀ですか。⑩―終―

 必要な面子がそろったということで、俺は一通り説明を受けてアリーナへと場所を移動していた。


 審査と行っても形式的なものではなく、風紀委員という仕事柄ある程度の魔法力と武力が必要ということで、その腕を試すのだそうだ。要するに、生徒会の目前でケンカをしろという、なんとも奇妙なものなのだ。


 普通荒っぽいのって駄目なんじゃないのか?まぁ、特例ってことらしいけど。


 そういうことで今俺はステージから注がれる視線に居心地を悪くしながら、ケイと対峙している。注目されるのが苦手だと最近発覚した俺はもう既に冷汗だらだら。一方ケイはボーっとそこに突っ立っている。彼の自由さが表れている天パで、目が隠れていて前が見えているのか心配になるんだけど、大丈夫か?

 ケイは現副委員長。ならそれなりの腕の持ち主と思っていいはず。

 負けるのは嫌いだし、なんかもう全開で一かなぁって思っちゃってるんだよね。

 イ―ズと比べるとおかしくなりそうだ。あれは絶対規格外だから。騎士様だもの

 勝ち負けと行っても戦えるかをみるということで、勝敗を決めない制限時間制。

 相手を甘く見るのは大きな敗因につながる。俺は気持ちを引き締めた。


「制限時間は5分です。他にルールはありません。では……始め!」


 イズミさんの合図に合わせて、ケイの姿が消えた。


「なっ!?」


 魔法か!!ちょ、ずるくない!?

 俺魔法ちゃんと使えないんだよっ!?


 瞠目しているひまもなく、俺の眼前にはケイのもじゃもじゃ頭が見えた。

 蹴られる!

 ハッとして上にジャンプした。案の定足下を物すごいスピードの蹴りが通る。

 俺がよけたことに驚いたのか、ふっというケイの息遣いが聞こえた。

 俺は片足をクッションにして回し蹴りを繰り出す。ちょっと危ない策だが、何もせずに降りるというのは格好の的だ。

 ケイは俺の予想していた受け止めるということをせずに、屈んでよけた。そこから潜って俺の腹部へと拳を入れた。


「ッ……!」


 何とかずらしたが、脇腹を掠って鈍い痛みを残す。

 ――この体制は不利だ。

 咄嗟に判断して、距離を取った。

 最近イーズとばっかり手合わせしているせいか距離を取るのが癖になって来た。良くないんだけどな。気をつけるようにしよう。

 一旦とった距離を自分からまた詰める。

 体制さえ変えれば、自分からも入れられるはず。

 再度構えなおして俺を迎え撃つケイに、勢いのまま腕を振り上げる。

 それを今度は受け止めたケイはもう一度こぶしを握る。

 その動作を認めて、足に反動をつけて浮かせ、脇腹を狙って蹴りを入れた。

 入った……!

 ぱっと離された手に、わずかにバランスを崩すが、そこは慣れだ。研ぎ澄まされた感覚の中でその辺を修正するのはたやすい。

 ケイには俺の蹴りがしっかりと入っていたらしく、脇腹を押えて数歩下がった。慣れていないのかわずかに見開かれた目を俺に向ける。

 でもこの隙は俺にとっては都合がいい。そのままたたみかける様に蹴りと拳を繰り出して、よろめいた隙を持ち直す時間を与えない。全てよけられてしまっているが、俺に攻撃をするほどの余裕はないらしい。間一髪でよけては、距離を取りたいのか仕切りに後退を試みている。

 と、ケイがいきなり消えた。

 またか、とあたりを見回すも姿がどこにも見当たらない。透明人間になる魔法とかだったらそれずる過ぎるんだけど!?

 どこだ!?

 ふっと独特な息遣いが聞こえた。

 上か!!

 気づいた時にはもう遅い。重力を乗せた蹴りが俺の眼前に迫っていた。

 スーパーマンかっ!!なんてつっこんでいる暇なんてもちろん無く、俺は自己防衛反応で咄嗟に腕で防御を作る。


「っ!」


 吸収しきれない力に反動で飛ばされる。床に強く打ちうけた背が痛い。

 仰向けになった状態で瞑ってしまった瞳を開けると、なぜか視界いっぱいに黒いもじゃもじゃ。ダン、と音がして彼が腕を俺の顔の真横についた。俺は吃驚して防御のためクロスした腕をそのままに固まってしまった。

 ケイ、だよね……?何やってんの?こんな近くにいたら俺殴れるよ?


「五分経ちました。終了です」


 無機質な声が静寂に響く。緊迫した空気をサッと塗りかえるような声音に、今までの緊張が緩んだ。

 審査は終わり。


「ケイ、強いね。さすが」


 未だ俺の上に馬乗りになって微動だにしないケイに、思ったことをそのまま口に出す。

 それにピクリと肩を震わすと、ケイはいきなり俺に抱きついてきた。


「わっ!?」


 狼狽する俺にケイは肩口でまたふっと笑う。審査時と違い、いつものやんわりした空気をまとってきゅっと抱きしめてくる彼は、なんだかペットみたいでよしよしと頭を撫でた。殆ど無意識だったのだが。

 一分も無いくらいそうしてから、ケイはいきなり起き上がり、俺にすっと手を差し出す。俺は素直にそれに掴まって起き上がった。

 とん、と立ち上がり生徒会の面々のいるステージ上を見上げる。


 ……なんでしょうかこの空気は。妙に生ぬるいんですが。


 俺は意味が分からず首をかしげる。横目で隣にいるケイを見てみるが、普段のボーっとした感じを全開にしてただそこに立っていた。はっきり言ってあてにできない。さっきまでかなりキレのいい動きをしていた人物だとは到底思えないんだけど、人はみかけによらないものだ。

 まぁ、それは俺もか。イ―ズに言われたのはまだ記憶に新しい。


「イズミちゃーん、審査はぁ―?」

「……わかってます」


 いつの間にやら生ぬるい空気は薄れていた。

 判決を下される被告人とかってこんな気持ちなんだろうか。いや、そんな人生を左右するような大それたことではないんだけど。なんかものすごいドキドキする。

 イズミさんは生徒会長の元に面々を集め、意見の集約を行っているらしい。ちゃんとみんなの意見聞くんだね。

 ほどなくして密談がばらける。

 身軽な動きで生徒会長がステージから飛び降り、俺の目の前までやって来た。……不機嫌全開で。だから、なんでそんなに不機嫌。サナさんみたいに基本装備ってわけでもあるまいし。機嫌良いの見たことあるからね。え、なに、もしかしてあれがレアだったの??


「合格だ。お前は今から風紀委員の一人だ」

「は、はぁ……」


 そんな大仰にかつ不機嫌に言われても。

 歯切れの悪い返事を返す俺に会長は舌打ちを一つすると、さっさとアリーナから出て行った。

 ……今のはちょっと、俺も悪かったかな。俺のために来てくれてたわけだし、もっとちゃんとした受け答えをした方がよかったかな。もうすでにない後ろ姿を追ってアリーナの出入り口に目を向けた。

 今更社交性皆無な自分を恨んで自己嫌悪。でもくよくよしても仕方ないので、ちゃんと反省して次に生かせるように心の隅に止めておく。今まで俺はそうやって来た。


「タツミ!」


 声につられてステージの方に向き直る。見るとアセラが普段より朗らかな表情で駆けよって来た。レントが見たら怒られそうだ、俺が。


「すごいね!ケイと互角に戦うなんて!」


 二年生の中で一番強いんだよ、とアセラは嬉しそうに笑った。そんな彼の顔を見るのがうれしくて俺も笑顔になる。


「互角なんて……俺なんか最後に倒されちゃったし。……でも、ありがと」


 えへへ、と照れ隠しみたいに笑ってしまう。

 褒められ慣れてない日本人です。はい。


「それでは会長も帰ってしまいましたし、これで解散でいいですね?タツミは風紀委員長から活動について説明を受けるように」

「はい。ありがとうございました」


 さっきの後悔を生かして、ちゃんとみんなにお礼を言って頭を下げた。

 頭を上げるとケイが優しい目を細めて頭を撫でてくれた。それが心地よくて、なんだか嬉しくなった。

 誰かと関わるって、あったかいな。


第二話終了です。

さぁ、第三話はどうしようか。

いちゃいちゃさせたいな←


最近投稿が土日になってきたので、この際土日を投稿日としたいと思います。できない時も多々あると思いますが、大目に見てもらえると嬉しいです^^;

週一を最低限にできたらいいなと考えてます。

では。また来週に。

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