♯2 風紀ですか。⑨
俺達が教室につくと放課後の早い此処の学生は誰一人として教室にいなかった。皆部活やら委員会やらですぐに帰ってしまうんだ。まぁ、普段の俺のようにちゃっちゃと帰宅する奴もいるわけだけど。
そう言えば俺部活はいんなくっていいのかな?
ひとまず今日はアセラと共に生徒会室へ行かなければならないため、教室に置きっぱなしだった自分の荷物を取って解散した。
「ずいぶん早めに準備するんだな」
「そうだね。多分もう少しで新歓があるから急ぐんだよ。去年もそうだった」
一週間ぶりくらいに通る、二階の渡り廊下を2人してゆったりと歩く。
「しんかん?……あぁ、新入生歓迎か。今の時期にあるの?遅いな」
「うん。馴染んでからってことらしいよ」
「ほー」
ほどなくして重い両開きの扉の前に出て、アセラがノックもせずに開いた。さすがにお客さんでは無いのでノックは要らないのか。
「あっ!辰巳だいじょーぶだった?なんか爆発したって~」
そう言ってすぐによって来たのは、とてつもない美形さんであるクラウだった。どこで聞きつけたのか今日の一件を知っているらしい。
「あぁ。大丈夫。なんでしってんの?」
「そりゃーあれだけ火炎が立ち上ればどこからでも見えます。怪我が無くってよかったです」
「はっ、ちゃんと自分の魔力くらい制御しろよな」
「そんな責めないでよ。まともに授業受けたことないんだって」
「は?何まさかサボり?」
「そんなに成績いいんですか?そうは見えませんけど」
「わーお。辰巳って意外とやるね―。なに?ヤって……」
「うるせぇ」
俺が唖然としているしかなかったこの状況を一喝したのは、どっかりとソファーに腰をおろしていた生徒会長。前回とは違い不機嫌全開だ。
「なんのために集まったんだ?仕事だって溜まってんだからな、さっさとおわすぞ」
「……ディルの言うとおりですね。失礼しました」
「はぁ~い」
意外だ。
俺様っぽいから、ってか絶対そうだから仕事とかちゃんとしてないと思った。……まぁ参考資料が王道物って言うところでだいぶ失礼なんだけど。
「タツミ」
「あ、悪い」
生徒会長の元に移動を始めた面々の後を追って、アセラに促されるまま俺もソファーに座った。
三人はかけられる大きなソファーの一つに、生徒会長とイズミさん、サナさんが座り、もうひとつ同じサイズの物に、俺とアセラ、クラウが座る。対面式になっている二つのソファーの間には、透明な板のはめられた木製のブラウンの机がある。白いふかふかのソファーと相まって、生徒会室の家具は一つ一つが清楚なイメージを醸し出している。
あと二人、見覚えなのない顔がいるのだが、きっと紹介があるだろうと思うのでとりあえずおーけー(?)。
この場にいるだけはあって、二人ともきれいな顔をしている。いや、きれいとはちょっと違うかな。
身長が150あるのか疑わしい小柄な子はどう見てもショタだ。ウェーブのかかったきれいな栗毛はつぶらな青色の瞳にかかっていて、幼さを残した顔に良く合っている。もう一人の子は対照的に長身で男らしい顔つきをしている。あれだ、柔道とか剣道とかのキャプテンっぽい男らしさ。
彼らに気づかれないよう観察していると、靴の色に目がとまった。ん?もしかして、一年生?
この学校は学年を特定するのに内ズックを使う。制服が無いため、そこくらいしか統一されている部分が無いのだ。俺達二年生は青いラインが入っており、三年は赤、一年は緑だ。これは三年間通して同じ色、つまり卒業すると受け継がれる。顔に見覚えのない二人が履いていた靴には緑色のラインが入っていた。
このおっきい人年下かぁー。まぁ、俺の身長低いわけじゃないから、いいけどさ。背が高いって事へのあこがれはちゃんとあるわけなんだよね。
「あれぇ?一人たんなくない?」
クラウの声が小さな静寂を埋めた。
「使いに出しています。すぐに戻って来るでしょう」
大して気にする様子もなくイズミさんは普段どうり簡潔に答える。
いつもこんな感じなんだろうな。イズミさんのイメージが出会った当初と若干違ってきている気がする。
というか、あと一人俺の知らない人がいるんだな。
なんだか結局生徒会と完ぺきに知り合いになってしまっている。俺がその中に入るのは決定のようだから(センスが分からない)仕方ないんだろうけど。王道じみてるなー。
いや、仲良くなれるのはとっても嬉しいよ?今までほんとにこういうの経験してこなかったから。仲いい友達とか、なんかすっごいあったかいし。
「今回の新入りはこいつだけだな。さっさとはじめるぞ」
和んでいられるのもつかの間、けだるそうなバスの声がそう言った。
そんなに面倒なら集めなきゃいいのに。メールとかで、あ、ないか。でもそう言った術がないわけじゃないはず。この前イズミさん使ってたし。
特に意図せずに会長の顔を見つめていると、かなりきつい目で睨まれた。
あら、何かしたっけ?少なくとも俺は何かした覚えはないけど。
何?という意味を込めて眉をしかめると、どう取ったのか舌打ちを一つして視線を外された。
なんだってんだよ……、まぁ、いいや。
「今日はなんで集めたのぉー?」
「さっきからうるさいですよフィシル。理由くらいちゃんと話します」
おおう。出た黒いイズミさん。
かなりのマイペース(たぶん)なクラウもちょっと青い顔してる。イズミさんの横ではサナさんがクラウ睨んでるし。やっぱり最高権力彼でしょ、この生徒会って。
ちょっと失礼なことを考えていてもイズミさんはもちろん知らないので、さっきからおとなしくしている俺を見て薄く笑むと(めっちゃ綺麗)説明を始めた。
「このままタツミ君に生徒会執行部の役職をあてがうなら簡単なんですが、風紀委員長からの要望もありますし……そうなると私達が審査をしなくてはなりません――タツミ君の前いた学校では風紀委員についての審査はどう行っていましたか?」
いきなりの落とし穴。
「え、と……」
風紀委員自体が無かった、というのは失言にならないだろうか。
いや、なるかもな。なんか風紀委員はあたりまえって言う感じだもん。元の世界でもあったとこはあったんだろうし。俺の通ってるとこは無かったし、どっちにしろ審査は絶対にない。
どうしようどうしようそうしよう。
「……関わりが無かったので、良く分かりません」
どうだ、通じるか…!
ドキドキしながら反応を待っていると、皆意外な物を見たというような顔をしていた。でもそれも一瞬のことで、すぐにイズミさんはそうですか、と話を閉じてくれた。
良かった。
ないことではないようだ。
こういうときに異世界って大変だって思うんだよな。
まだ慣れてないな、俺。普通より馴染むのがだいぶ早いとは思うけど、それはそんなに大事なものがあっちに無いから。ゲーム持ってるし。母さんも父さんも、もうどこにもいないから。あ、でもお墓参りくらいしてあげたかったな。
この世界にいるといっつも二人が傍にいるような気になるのは、きっと二人が生粋の腐だったことが大きいと思うんだけど。だって二人の愛した世界にいるみたいで。どこかから物語として見ていてくれてるんじゃないかって……われながら厨二病みたいな発想だ。
おお、ずれてるずれてる。とりあえず話を戻すと、ダンテさんのご指名により風紀委員に入る予定の俺は生徒会に依って、なんか知らないけど審査を受ける、というところだな。つまり今日は俺のためだけに集まってくれたわけだ。
……なんか、すいません?
「では、審査の説明をし……」
「ただいま。間にあったかな?」
生徒会室の量扉の開く音がして、生徒会のもう一人のメンバーと風紀の二人が入って来た。お使いというのは2人を呼びに行くことだったようだ。
どうしてこうイケメンが多いんだろうか。シンプルなメガネの似合う彼は、くねる銀髪を後ろで少しだけまとめ、色っぽさが出ていた。顔だって、中性的だが整っている。背も高いし。ん?でも俺よりちょっと高いくらいだろうか、微妙かな?
彼は、俺を認めると一瞬だけ反応を示し、すぐにくすりと色っぽい笑みに変えた。その一瞬。見落としそうな反応だったが、彼は確かに少し驚いたようだった。俺は彼に会ったことはない。断言できる。
なら、なんだろう?
うーん、と心中で考えてみるが分からないものはいくら考えても分からない。
仕方が無いのでこの場では保留として、俺はその問題をほっぽりだした。
次で第二話が終わる予定。