♯2 風紀ですか。⑥
今回は6話で終われませんでした。
「……おいしい」
「まぁ、味は悪くないからな、ここ」
正面の混雑の割に閑散とした食堂の隅に席を取り、俺達は昼食を取っていた。学校の食堂らしく食券製で、いくつも並んでいる自販機から好きなものを選んでカウンターのおばちゃんに渡した。ちょっと怖そうなおばさんだったけど、几帳面に箸まで添えて渡してくれた。俺はオムライスを頼んだから使わないような気がするんだけど。
そしてそのオムライスをほおばってみての感想が、初めの一言。
おいしいんなら何でここに来ないんだろう?値段も500鈴(りん/この世界のお金の単位で、日本の500円と同じ)とそんなに高いわけではなかったし。
俺が不思議そうな眼を向けているのに気づいたようで、ナザがあれだよと食堂の中心あたりに親指を向けた。
……あれ、あー、あれですか。
分かる気もする。五月蠅そうだ。何せ彼ら生徒会はランキングに入っているからこそ生徒会で、もてちゃって憧れられちゃうからこそ上位に入っているんだから。
なるほど、生徒会は食堂を使うのか。全員ではないにしろ騒がれるだろうな。
なんという王道。そして俺の思考回路が怖い。腐ってないのに……。
俺の目線の先で決して黄色くない歓声を浴びているのは、さっき見つけたあの三人。
ナザの言うところ、やはり日常的に利用しているらしい。
彼らを目的に食堂へ足を運ぶ生徒もいるらしいが、ナザ達は特に興味もないため(レントとアセラはあれだし)ただ五月蠅い食堂は好んで使わないそうだ。
そんな話をしながら黙々と食べていると、どうもむずかゆいような感覚がして、周りをそれとなく窺った。
やっぱり、なんだかちらほらとこっちに視線を向けてくる奴がいるな。
そんなに五月蠅くしてはいないんだけど。なんだろうか。
「なんか、見られてない?」
声をひそませてナザに問うと、周りを窺った後そうだな、といって不思議そうな顔をした。多分俺と同じようなことを考えているんだろう。
そしてなぜか俺の顔をおまじまじと見つめた。
なんでしょうか?なんかついてますか?
「あー、わかった。仕方ねぇな、こりゃ」
「は?」
ポンポン、と俺の肩を叩いてわらう。
「お前、たぶん張り出されてんだろうよ。前に写真。ま―お前はランキングはいるだろうし、さっき確認すればよかったな」
「……は?なんで俺が……ってか見られてるのって俺ってこと??」
ないない!ってかヤダ!俺の経験値なめるなよ!人に注目されたり前に出たりしたことなんて小学生ん時だけなんだぞ!うわ、なんか急に恥ずかしくなってきた。みんなよー。
「そう言えば辰巳の写真僕見たよ。結構既に票集まってたみたい」
「だろうね―、タツミん美人だも―ん」
「え、ちょ、はぁ?!」
あ、ヤベ、おっきな声出しちゃった。
自分で自分の声に吃驚して、周りを窺うとナザ達はなんか笑ってるし他の生徒はこっち見てるし……。
はずかしー。
かぁっと顔に熱が集まるのを感じて、思わず顔を伏せた。
「おまっ、……どうしたよ?おい?タツミ?」
ちょっと焦ったようなナザの声聞こえて、余計に恥ずかしくなった。
「……見られるの、慣れてなくて……ごめん」
「……食べ終わったし、帰ろうか?」
「そーだねー、そのほうがよさそー」
アセラとレントも心配させちゃったみたいで今度はすごく申し訳ない。
でもその提案は願ってもないので、頷いて返事をした。
少しづつ熱くなった顔も冷えてきたような気がする。あぁあ、良かった。
こんなことになるとは思わなかった。まさか俺がこんなになるなんて。
「あれー?辰巳……とアセラ?クラス一緒だったんだね―レントとナザも久しぶりー」
落ち着きかけていた俺に追い打ちをかけるように、聞こえてきたセリフは、たぶん、喧騒を連れてくる人物。
なんてこった。
俺は何とか心をなだめて、正面を向いた。
案の定こっちを向いて笑っているのはクラウとイズミさんとサナさん。それも俺の座っている内側の席の方に立ってらっしゃる。さっきせっかく気づかれなかったのに。
「久しぶりだな。先輩方もお久しぶりです」
「お久―」
「こんにちは。すいませんが僕達はもう帰るので」
ナザ達も知り合いだったのか。
まだうっすらと熱の残る頬が五月蠅い。アセラが助け船をまた出してくれたのでそれに乗って帰りたい。
「え―帰っちゃうの??っていうか辰巳どうかした?なんかかわいー!」
「は?わっ?!」
「なっ」
なななな、なに!?なんでいきなり抱きつかれてんの!俺!
状況と世界で考えて、完ぺきに友情とみていいのか不安になるんだけど……?俺の構えすぎか?
だってその前にかわいーって、いや俺は断じて可愛くないぞ。男だからな。だからなんで抱きつくの!?クラウ!?
「く、クラウ?離して」
「えーやだ。辰巳かわい―」
はぁ?
もう駄目だ。混乱がさっきの恥ずかしさを乗り越えた。
意味分かんない。
この人目ぇ大丈夫かな?
もう呆れつつ抵抗をやめて抱きつかれていると、上からはぁとため息が聞こえた。
目を向けてみるとイズミさんが頭を抱えている。その横には般若が…って怖さ倍増なんだけどサナさんどうしたの!?
「すいません。騒ぎに巻き込んでしまいましたね。ちょっとタツミ君に用があったものですから」
「用事?タツミに?」
「はい。タツミ君。今日の放課後生徒会室に来てもらえますか?」
「……どうしてですか?」
以前行った時はえらい目に会いかけた。生徒会長のせいで。またあの人の我儘だったら断ってしまいたい。
「新規生徒会について、風紀委員長からの指名もありますし、その辺を織り込んだ話し合いを」
「まだランキング終わってないよね?もう決めちゃうの?」
生徒会の事情を知っているのだろう、アセラが疑問符を浮かべている。
「タツミ君以外にメンバーの変更はなさそうですので。もちろんあなたも来て下さいね。今日は部外者は立ち入らないように」
あ、レントたちアセラにくっついてってたんだ。今の一言で分かった。すごい勇気だな。
……ひとまず、妙な理由ではないようだから(俺が生徒会とかないと思うんだけどな)断る理由もない。
俺はクラウにはがいじめにされたまま首を縦に振った。
三人と別れた後、俺に向けられた視線は既に生徒会の彼らに向けられるものと大差なかった。
彼らの視線はかゆいし、なんでそんな瞳を向けられるのか、もう仕方ないから強制的に納得することにした。
きっとこの世界と俺の美人への感覚はずれているんだ。
俺はもう食堂には来ないと誓った。
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プロフィールを少し詳しくなるよう編集しました。