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♯2 風紀ですか。⑤

あけましておめでとうございます。

今年もどうぞ温かい目で、

よろしくおねがいします。

「なぁ、タツミ―、相似の条件ってなんだっけ?」

「ん?どれ?あー……これなら一辺とその両端の角の奴が使えるから、こうやって順序立てて……」

「……ふー。これでいいのか?」

「そうそう、多分それで合ってるよ」

「え、ちょ。タツミん俺もヘルプ―ぅげっ!?」

「レントの浮気者」

「そんなぁぁぁ!!アセラン分かんないって昨日俺の部屋(・・・・)で言ってたじゃん!!そうじゃなかったらアセラン一番だから―ミーの中でぇ―」

「……わかったよ」

「ありがと―!アセランだいすきー。タツみんこれ―」

「はいはい、これはねー……」


 傾きかけた日が差し込む無人の教室に、俺とナザ、アセラ、レントの四人は教材を広げて向かい合っていた。

 本日は職員会議があるとかで、生徒は午前授業で帰宅する。ただ、帰宅は強制ではないので、こうやって残っていてもいいのである。


「おー!ありがとー……たつみん、頭いいよねー。もしかして国立の中学行ってたの―?」


 答えと照らし合わせて丸をつけたレントが、教材を片づけながら言った。

 もうやめるんですか。俺も疲れたからいいけどね。


「いや?」


 国立の中学とかあるのか、とひそかに感嘆する。

 ……日本にもあったかな?俺田舎者だから知らないや。


「確かに辰巳は頭いいよね。数学とか外国語とかの五教科は特に。魔工も結構いいし」


 アセラもレントの意を酌んでか、そそくさと教材をしまいだす。

 ナザもそれに倣ったので俺も倣うことにして、ミニ勉強会は自然終了した。


「魔工はそんな良くないよ。授業分を何とかしてるだけで、基礎が無いから・・・・・」


 ん?これって失言か。やばいやばい。スル―してくれ!!


「基礎?基礎無くってあれだけとれるとかないだろ」


 ガタガタと、合わせていた机を元の位置に戻して、ナザが呆れ気味にこぼした。


「え?そうか」


 ちょっととぼけた様にして、この話題を終わらせる。

 スル―じゃないけど何とかなった!!

 ナザありがとう!

 失言には今後気をつける事にしよう。


「ねー腹へんなーい?」


 帰り支度を済まし、時計の方へ眼を向けると、11時半を回っている。健全な少年としては、今まで腹が鳴らない方が奇跡ともいえる時間である。

 まぁ、レントやナザはちょこちょこつまんでいたようだが。

 俺はもともと少食なので後一時間は持ちそうだ。


「あー……減った」

「僕も」


 でも、皆がそう言うなら半人前くらいは食べきれる空き具合でもある。


「じゃぁどっか行く?」

「食堂行ってみないか?」


 俺の問いにそう答えたのはナザ。

 食堂。あったんだ。

 いや、あったな。案内してもらった時通ったはず。

 かすかに興味がわいた俺とは反対に、レントはあからさまに非難の声を上げた。

 何?そんなにまずいの?

 なんとなくナザに視線を向けると、頭をかきながら、呆れたようにため息をついた。矛先はレントの様で、ちょっとほっとする。


「辰巳は行ったことないだろ。俺達も好んであそこいかねぇから」

「あーー、そういうことね。じゃー試しに行ってみるー?」

「え」


 レントがナザに同意したが、アセラは乗り気ではないらしく、まぁいいよ、と渋々承諾した。

 ほんとおいしくないんだろうか。

 でもそれが逆に興味をそそられるという、俺へんかな?


「じゃ、そういうことで」


 話がまとまったところで、俺たちは荷物を持って教室を出た。



「だから、嫌だったんだ」


 どこから沸いて出たのかという雑踏の中、俺たちは人ごみに足止めを食っていた。


「え?何、なんでこんな人いんの?」


 なんかセールとか?いや、食堂にセールってなんだ。


「あー、今日だっけ?」

「そうか、忘れてた」

「え?え?だから何」


 しみじみとする二人に完ぺきに置いてかれた。

 なんやねん。なんで関西弁やねん。

 三人だけで事情を呑み込まないで!


「あー悪い悪い。多分ランキングの候補者掲載してんだ。だよな?」

「うん」


 俺が不服なまなざしを向けていることに気づいたナザが、生徒会であるアセラに確認を求めた。

 ナザは優しいな。

 いや、みんな優しいけどね?


「そろそろランキングがあるって言ったでしょ?それの候補者の顔写真が張ってあるの。現役の生徒会執行部も一から選挙だから張ってある。――全生徒から選ぶには人数が多いし、知らない顔とかもあるだろうから公平を期して、クラスから何人でもいいから出すことになってるんだ。集計、管理するのは選挙管理委員会だから、そこでも篩にかけて、ふさわしいと判断された生徒の写真を張りだすんだよ。それで、自分がいいと思った人に投票する。一人持ち票は2。投票はしなくてもいいことになってるけど、張り出された人以外はだいたいするね」


 一通り説明してくれたアセラは、最後に分かった?と首をかしげてきたので、頷いてお礼を言った。


 ランキングか。

 あんまり興味ないから投票しなくてもいいかな?

 別にばれないだろうし。

 アセラの写真あるかな?

 こんな可愛い顔してるんだから(本人に言ったら怒られそうだな)ないわけないか。

 食堂正面にたかる生徒達を横目に見ながら、申しわけ程度に空いた隙間から中に入っていくナザ達について行った。

 その後方、


「あーよかった。今年もちゃんと俺の写真あるじゃーん。なかったらどーしよーかと思ったぁ―」

「お前が無いってことはないだろ」

「そうですね、あなたは一応(・・)ランキングトップなんですから」

「んー、入ればそれでいーんだけどね―」


 聞き覚えのある声に、俺はちらりとそちらに目を向けた。


 そしてすぐに戻した。


 生徒会の三人――イズミさん、サナさん、クラウ――が、キャーキャーと騒ぎ出す生徒を制止しながら、掲示を眺めていた。彼らの周りには、まるで結界でもあるかのように空白になっていた。

 一応面識のある俺としては、今の状況で会うのは好ましくない。

 悪目だちはいい結果を生まないというのは、たくさんのアレ(・・)な小説を読んで学んだことの一つだ。(人生経験と言えないのはまともな人間関係を気づけたことが無いからだが、そこは、まぁ気にしない)

 とりあえず、見つからないように小走りに少し距離のあいてしまったナザの後を追いかけた。

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