♯2 風紀ですか。①
お久しぶりです。
やっと生徒会と接触です。
「入るぞ」
この階の扉はどれも教室のそれとは違い、元の世界で言う洋式のドアになっている。だが、銀のドアノブが着いているようなタイプではなく、少しおしゃれな装飾の施された木製の取っ手だ。
ダンテさんはノックもせずに思いきりドアを開けた。ノックをするという習慣は無いんだろうか。
「風紀委員長。どうしたんで・・・だれです?」
先ほどの風紀委員室の2倍はあるだろう大きな部屋に、執務用だろう机が何個か置かれており、そのひとつに腰かけている、淡い水色の髪の少年が見ていた紙から目を離し、こちらに視線を向けた。柔らかな空気をまとった彼はダンテさんをみて驚き、俺を見て目を細める。
訝しんでいるとみていいかな。ちょっと心外なんだが、まぁ、この場所には不釣り合いだろうから気にしない。
さすが生徒会と言ったところか、綺麗な人だ。美形と言うよりは美人だと思う。長い髪の毛はいい感じに跳ねてるし、コバルトブルーの瞳はうっすらと開いていて吸い込まれるような不思議な感覚に陥る。それに何より、色が白い。
ってか俺、こっち来てから人の顔がん見するようになったな。皆きれいなんだよ―、しょうが無いよな。うらやましいうらやましい。
「転入生だ。生徒会で学校案内をすると聞いたんだが」
「あー、そうだでしたね。さっき、兄さんが迎えに行って、いなかったって言って探しに行って……まだ戻ってないんですけど?」
「ちょっといろいろあってな。風紀で預かってた。サナに連絡取れるか」
「魔法使用の許可をくれるんでしたら」
「許す」
机が並んだ横に広く取ったゆとりのあるスペースに、どっしりと置かれた深紅のソファーにダンテさんは俺の手を引いてぼふっと腰かけた。引きずられて俺も落ちるように座り込む。
良くは分からないが、魔法使用の許可をもらったらしい美人さんは、手のひらの上に楕円形の何かを浮かび上がらせ、それに向かって話しかけていた。
…魔法が無い世界だったら痛い人なんだけど、この世界ではこれもきっと当たり前なんだろうな。さっきの会話の内容から推測するに、彼の兄に連絡を取っているのだろう。あの楕円形の空間は携帯電話の様なものだろうか。素手でやっているところを見るとそれほど高度なものではなさそうだ。
と、美形さんが楕円形を握り消してこちらに柔らかな笑みを向けた。
「すぐ戻って来るそうです。ちょっとキレ気味のようですから、気をつけてください」
「いつもだろう」
いつもキレてるお兄さんなのか。こんなに穏やかな人の兄なのに。兄弟って似ないんだな。
美形さんは絹糸のように柔らかい微笑みを浮かべると、俺を足のつま先から頭のてっぺんまでねめまわした。俺はと言うと、そんな美形さんを凝視している。この人なんか柔らかくって好きだ。ゲームの羊を思い出す。ここで笑った奴、羊のもこもこは神だ!綿だからな!
「僕はイズミ・テラ―といいます。タツミ・セガワ君ですね。よろしくお願いします」
彼は目をすっと細めた素敵なお顔で俺にそう言った。
と、そのほとんど同時。
バン、と酷い音がして両開きの扉が開いた。どうやら彼のお兄さんのご登場のようだ。
眉間に堀の深い皺をいく本も寄せて、イズミさんと同じ色の瞳をこれでもかと言うほどつり上げている。くせっ毛らしい髪は肩の上くらいで踊っていた。
と、彼の焦点が俺に止まり、わずかに見開かれたあと、不機嫌さが増す。
俺なんもしてないですよね。俺個人はなんも悪いことしてないです。
「てめぇか、転入生は。ちゃんと待ってられねぇのか?あ゛?」
えええ、たんか切られても困る。はっきりいって俺は悪くない。普通に待っていたかったさ!すべての責任は変態どもだ!!
平然と顔色一つ変えずに黙っている俺に、お兄さんは再度怒鳴ろうと口を開けかけて、
「来い」
ダンテさんに連れていかれた。
とはいっても部屋の片隅で、こそこそ話しているだけだが。たぶんさっきのことだろう。俺に聞こえないよう話してくれる辺り、あの人は本当に優しい。思い出したくない記憶であることは確かだから。
ほどなくして二人がこちらに戻ってきた。
お兄さんの顔は先程よりはやわらかい。それでもきつめだと言うことは変わらないが。ちなみに彼も美人さんだ。さすが生徒会。
「……すまない」
「へ?」
明らかに自分に向けられた謝罪の言葉に、意味がわからなくて首をかしげる。
「俺がもっと早く向かえば避けられた事態だ」
……それはもっともだ。
確かに変態どもより早く来てくれればあんな目に遭うこともなかった。
ここで今、日本人特有の‘かまわないよ’的なニュアンスを持った言葉をはくのは変な誤解をされそうだから言えないし、だからといって攻めるわけにもいかない。でも、黙っているのは失礼だろう。
俺はたっぷり二分ほど考えて、口にした。
「俺もそう思います」
俺の発した言葉に驚いているのが伝わる。
やっぱ率直に行っちゃうとこういう反応だよね。予想は出来た。
俺は続ける。
「でも、そんなこと言われても困ります。一番の原因はこんな下らないことを考えたあいつらにあるんですから」
言い切ってから、ちょっとおかしいかな、と冷や汗を流す。人付き合いのあまりなかった俺にとって、うまい言葉を探すのは箸で大豆をつまむくらい難しかった。
誰かに自分の意見を伝えるのなんて両親が死んで以来だから、一カ月ぶりくらいか。そんなに長くないな。まぁ、学校じゃ皆無だけど。そう考えたら俺すごくない?
なんて冷汗の伝う背中を無視して自分を称賛していると、ダンテさんがにやにやしているのが目に留まる。なんだ。そんなにおかしいか。俺はむすっと顔を歪めた。
「……あぁ、わかった。では、取り消そう」
最後の方ではにかんだお兄さんの顔は、眉間のしわはあってもどことなくイズミさんの笑顔に似ていた。
誤字脱字等ありましたらお知らせください。
生徒会、とりあえず二人出しました。
どうしてもキャラが典型になってしまいますね。
よくある感じに。
それに表現も似通ったものを使ってしまう……
まだまだです(^^;
感想、評価等頂けると幸いです。