♯1 転入ですか。⑥―終―
「すまないな。転校初日から」
「いえ…助けていただいてありがとうございました」
あのあと、風紀委員長こと、ダンテ・アルベールさんが襲って来た奴らの生徒手帳を預かって追い返し、俺を魔法で回復してくれた。因みに回復魔法は“媒体魔法”に含まれる高度なものだ。
そして襲われた経緯を話し、学校案内をされる予定で生徒会と約束があると知ると、俺を生徒会室のある特別教室棟(同じ建物)三階の風紀委員室に案内した。落ち着いたら生徒会室に行こうということだった。
生徒会室とは部屋を二、三個挟んだだけの距離だが、そこにはまだ役員が残っているらしい。外はもう真っ暗なのにご苦労なこった。・・・まぁ俺への用事も含まれるんだろうけど。
「・・・」
「・・・」
無言。
風紀委員長のダンテさんは無口な人なんだろうか・・・。さっきとは別の意味で冷汗流れそうだ。あー、嫌なことを・・・。
委員長と言うからには先輩なんだろうし、こちらから話しかけるのは何となく憚られる。かといってこの空気は気まずい。
ダンテさんは何かを考えているのか腕を組み、斜め後ろを凝視しながら、俺との間に置かれたガラス製の机に片足のかかとを乗せている。風紀は行儀とか、正す側じゃないんだろうか。
とりあえず、この方も相当美形。つり目と限りなく黒に近いグレーの短髪とそれよりわずかに薄めの 瞳。男らしさの感じられる精悍な顔立ちの美形だ。
「タツミと言ったか」
「……はい」
長く感じた沈黙を破ったのはダンテさんだった。
ゆるぎないグレーの瞳が俺をとらえる。
「…あまり思い出したくないかもしれんが、先ほどのことで聞きたいことがある」
「・・・はい」
「一人伸びていただろう?あれは、あいつらでもめたのか?それとも、お前か?」
ぎくり、と心臓か縮まった気がした。
咄嗟に手(足?)が出てしまったが、今まで面倒なことが嫌だったため表だってああいった力をふるったことは無いのだ。町の深いところまでは踏み入らないように気をつけていたし、うわさを聞きつけて勝負を挑んで来た奴らには、これ以上広めないようにと釘を刺してきた。俺はあんまり目立つのは好きじゃない。
しかし、なら、こっちではどうだろう。
目立つなとは言われた。だが、魔法もまともに使えない俺にとって、暴力ともいえてしまうこの力は必要ないと言えるだろうか。あって困ることは無いにしても、それを人に明かす必要はあるだろうか。人に明かして、何か困ることはあるのだろうか。逆にさっきの様な事を起こさせないような、抑制力になってくれはしないだろうか。
ぐちゃぐちゃと憶測が頭の中で飛び交って、ダンテさんが訝しげにこちらを見ているのに気付かなかった。
「どうした?…やはり、思い出したくないことだったか」
「あ、すみません…あの、どうしてそんなこと聞くんですか?実行犯の一人、と言うことではないんですか?」
「それ自体に変わりはない。しっかり処罰する。ただこの質問は今度のランキングの結果と合わせての参考だ」
「参考、ですか?」
意外すぎる言葉に、反射的にキーワードを反復した。
一体どういう風に参考になるというのだろう。
「十中八九、次のランキングにお前は入るだろうからな。もし、あれをやったのがお前だとしたら、風 紀に入ってもらおうかと思ったんだ。だから別に無理して思い出す必要はない。不本意だが、あいつらに聞くこともできるしな」
ランキング云々は、本当にどうして俺がそう言われるのか甚だ疑問なので触れないとして、確かに、あいつらに聞けばごまかしようもないんだと、今気づいた。俺が二度蹴りしたの絶対気づいてるだろうし。あんな暗闇でも。
なら、やっぱりヘタに隠すより全開で行ってしまった方が楽なんじゃないか?
そう結論付けた俺はダンテさんをまっすぐ見据えた。俺の意思をくみ取ったようにダンテさんも俺を見る。
「俺です。一人のしたのは。どうせ確認するなら話さない意味がないので」
俺がそう言うとやはりか、とつぶやいてダンテさんは口を三日月形に歪めた。にや―という効果音が一番しっくりくるような笑い方だ。俺はと言うと、その笑い方でちょっと冷汗をかいている。
「どうやって?」
「どうって、蹴ってですが」
「一発?」
「急所を入れて、二発」
「あの暗闇で?」
「…目が慣れていたので」
「ふーん」
なんなんだ!?何がしたい!俺が混乱してきたぞ!
元の世界では俺は目立たない地味なやつで通してたから、ケンカなんて大それたことやってる感じは出ないようにしてたし。体育でさえあんまり得意じゃない感じにしてたから、まぁ、実際力は無いんだけどね。テクニックを磨いたから。いろいろ、空手とかの教室に通っていたことも両親しか知らないし。だからこうやって誰かにこういった話するのって初めてなんだよね。だって絶対、なんか気づいてますよって顔してるもんこの人。何にって?俺も分かんない。あーやばい。ほら混乱してる。ヤバいこと口走らないようにしないと――殺気?
「!?」
バシッ
「ほーぅ…」
咄嗟に左腕で防いだのはダンテさんのキレのある蹴り。受け止めた腕に反動がジンジンと響く。この人本気で蹴ったろ。これ、受け止めなかったら顔面直撃で痣じゃ済まないぞ。
「受け止めたか」
「・・・だから、なんですか」
にんまりと、先ほどと変わらない笑みを見せながらも、鋭く光る眼光に、睨み返す気持ちで視線を向けた。
この人は一体何がしたいんだ。
「やはり、風紀委員に入ってもらおうかと思ってな」
「…転校生なんですが」
「そんなのは関係ない。様は魔法を使わなくとも相手を無抵抗に出来るだけの力量だ。お前ほどの奴はそういない。幸い、お前は見目がいいからな」
「……見目云々はあなたに言われても嬉しくありませんね。風紀委員と言うのは…魔法を、取り締まるんですか?」
「あたりまえだろう」
しらねぇよ。
異世界人なめんな。
あ、ちょっとキレてた。腕まだジンジンするんだよ。あなたの足は平気そうですね。そして美形は平凡にそういうことやめて欲しいね。この際ぼこりたくなるから。
ダンテさんは再び腰を落ち着けると、貼り付けていた笑みを崩した。
「そろそろ生徒会室に行くか?」
「あ、はい」
忘れてた。そう言えば学校案内されなくちゃいけないんだった。
もう外は真っ暗だ。あまり遅くなるとイ―ズが心配するんじゃないだろうか。いや、この腕輪をしてさえいればどこにいるかはわかるし、学校の敷地内なら心配することもないか。
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