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第14話 妖精の涙

第14話 妖精の涙


傷ついた少女・葵の前に現れたのは、妖精族の守護者サラ。


彼女は葵の心の奥にある深い悲しみを感じ取り、特別な料理を作る決意をする。


そこに込められたのは、ただの料理ではない。


妖精族に受け継がれる秘術と、誰かを救いたいという温かな願いだった。


そして、伝説の香油「妖精の涙」が導くものとは――。

「おい……!


あの奥のテーブルを見てみろよ!」


店内にいた客の一人が、驚いた表情で隣の客に声をかけた。


「いつも気丈で、俺たちを励ましてくれるサラさんが……泣いているぞ!」


「本当だ……。


あの少女はいったい誰なんだ?


王族か貴族の令嬢なのか?


なんだか普通の子供とは違う雰囲気がある……」


「それに隣にいる少年は、確かヨーデルさんの息子のラックだよな?


以前見た時とは、何か雰囲気が違う気がする……」


客たちは、自然とサラ、葵、そしてラックの三人へ視線を向けていた。


ただの少女と少年――。


本来なら、誰も気に留めることのない光景のはずだった。


しかし、この店では違った。


なぜなら、女将サラが料理を作る相手には、いつも特別な意味があるからだ。


これまで、この店で同じ料理が出されたことは一度もなかった。


訪れる人の心や体の状態を感じ取り、その人に本当に必要な料理を提供する。


それがサラの店の評判であり、多くの人々を救ってきた理由だった。


料理を食べた者たちは、不思議な温かさに包まれ、失っていた希望や生きる力を取り戻していったのだ。


そんなサラが、今、一人の少女のために涙を流している。


店内の誰もが、その理由を知りたいと思っていた。


「葵ちゃん。


あなたに出す料理は、少し時間がかかるの。


しばらく待っていてね」


そう言うと、サラは厨房の奥へ向かった。


そして夫であるカムイに声をかける。


「カムイ……。


例の香油を準備して」


「……サラ。


例の香油を使うのか?」


カムイは驚いた表情を見せた。


「分かっているのか?


あれは……妖精族に伝わる大切なものだ。


もう二度と手に入らないほど貴重なものだぞ」


「分かっているわ」


サラは静かに頷いた。


「でも……私は今日のために、預言者アブラハ様から使命を与えられていたような気がするの」


「……そうか」


カムイは妻の決意を感じ取り、深く頷いた。


「ならば、俺も最高の料理を作ろう」


サラは厳選した食材と、特別な香油をカムイへ渡した。


そして――。


妖精族に伝わる最高位の秘術。


料理に生命の力を込める、特別な調理が始まった。


サラは店の外にある大きな竈を開いた。


すると、焼き上がった料理の香りが店内いっぱいに広がった。


その瞬間、客たちは息を呑んだ。


「……なんだ、この香りは……」


「心が……温かくなる……」


サラは満面の笑みで料理を運んできた。


すると、自然と客たちは葵たちの周りに集まっていった。


「これは……!」


一人の客が驚きの声をあげた。


「ガデム地方に伝わる伝統料理……パサラ料理だ!」


「しかも……これは妖精族の最高位の料理じゃないか!」


料理を見ただけで、涙を流す者までいた。


それほどまでに、その料理には特別な力が宿っていた。


サラが葵に用意した料理。


それは、店で出せる最高の料理――


**妖精族の秘伝料理『パサラ料理』**だった。


使用された食材は、どれも普通ではない。


肉には、ガデム祭りの前に王都から取り寄せた最高級のデム肉。


そして……。


料理の決め手となる香油。


その名は――


『妖精の涙』


であった。


妖精の涙は、王族でさえ簡単には手に入れることができない伝説の香料。


小瓶の中に、わずか一滴しか入っていないにもかかわらず、その価値は銀貨三枚にも及ぶ。


伝説では、この香油には生命力を高め、寿命を延ばす力があると言われていた。


今から二千年前。


初代巫女に仕えた妖精族が流した涙が、後世に残されたものだという。


かつてある王が、この香油を手に入れたところ、百八十歳まで生きたという伝説も残っていた。


もちろん、それが本当なのかは誰にも分からない。


しかし――。


この香油が特別な力を持つことだけは、妖精族の間では知られていた。


「サラ……」


ヨーデルは驚きを隠せなかった。


(この妖精の涙は……。


預言者アブラハ様から授かった、サラ一族の家宝のはず……)


なぜ、それほど大切なものを葵のために使うのか。


ヨーデルには理解できなかった。


しかし、サラの瞳には迷いがなかった。


「いいのよ」


サラは優しく微笑む。


「私は……葵ちゃんに幸せになってほしいの」


サラは葵の手を握りながら、静かに語りかけた。


「葵ちゃん。


今日あなたに出会って、不思議な感覚を覚えたの。


あなたは、とても心が澄んでいる。


そして……特別な加護を受けているように感じるわ」


サラは遠い昔を思い出すように続けた。


「私の先祖は、大陸エデンで初代巫女様に仕えた妖精族だと言われているの」


(もしかしたら……)


サラは心の中で思った。


(この子は……)


葵の前に置かれた、伝説のパサラ料理。


いつもなら遠慮してしまう葵だったが――。


この時だけは、不思議と自然に手が伸びた。


小さなスプーンを手に取り、料理を口へ運ぶ。


「……」


しばらく黙った後、葵は小さな声で呟いた。


「不思議な味……。


でも……とても美味しい」


肉料理の味も素晴らしかった。


しかし、それ以上に――。


料理に込められた優しさと温かさが、葵の心を包み込んでいく。


まるで、長い間閉ざされていた心の扉が、少しずつ開いていくようだった。


そして――。


すべてを食べ終えた葵は、静かに目を閉じた。


深い眠りへと導かれるように……。

第14話では、サラという人物の本当の力と優しさが明らかになります。


これまで傷つくことに耐え続けてきた葵。


しかし彼女の魂は決して汚れてはいませんでした。


それを見抜いたサラは、葵を「守るべき存在」として受け入れます。


一方で、ラックもまた葵との出会いによって少しずつ変化しています。


誰かを思いやる心。


誰かのために行動する勇気。


その小さな変化が、やがて大きな運命へと繋がっていきます。


次回――。


「妖精の涙」に込められた本当の力が、葵の中で新たな奇跡を起こし始めます。

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