逃げたロボット
森の間を隊列を組み走る3台の巨大なトラック。
荷台には赤茶色にコーティングされた2メートル以上はあるロボット達が乗っている。
小さな村の手前で先頭を行くトラックが静かに止まる。
荷台から次々と降りるロボット達。
リーダーらしき角の付いたロボットがトラックから降りると指で指示を出す。
指示に従いガシャン、ガシャンと音を鳴らしながら赤茶色のロボット達が村へと進む。
村の中心にある小さな教会へと辿り着く1台のロボット。
右肩には880と白いペンキで番号が書かれている。
教会の中には怯え、震え、声の出ない数人の子供達がいる。
彼らを守ろうと880号の前に立ち塞がる神父。
(――。)
構えていた銃を降ろす880号。
そこに現れる140と肩に書かれた上官らしきロボット。
「ナニヲシテイル、880ゴウ。」
そう言うと右手の銃を子供達に向けると、銃から火がゴォーッと吐き出る。
火に包まれる子供達。
立ちすくむ880号。
「ツギノマチニ、シングンスルゾ。」
そう880号に言うと教会を後にする140号。
バチバチと燃え盛る村を後にする880号。
880号が振り返ると、ガラガラと音を立て崩れ去る教会――
ギィーッ。
ダイニングの古びた椅子を引く中年男性。
中年男性がテーブルの前に座る14歳ほどの娘に話しかける。
「ニーナ、食事にしようか?」
母親らしき女性が温かそうなスープをテーブルに並べ始めると、食器がカタカタと音を鳴らし震え始める。
ガシャン、ガシャンと音が近づく。
窓越しに赤茶色の脚が見えると、ニーナの腕を掴み慌てて裏口へと駆け出す父トマス。
裏口から出ると、狭い路地裏を走り抜けるトマス達。
「もう少しで大通りだ。」
父トマスが後ろを走るニーナに声をかける。
その時だった――
トマス達の前に立ち塞がる赤茶色のロボット。
ロボットの目が赤く光ると、右手の銃がトマス夫妻を打ち抜く。
(そんな……。)
青ざめ、立ちすくむニーナに銃口を向けるロボット。
少し後ずさりすると、反対側へと走り出すニーナ。
ロボットが放った銃弾がニーナを掠める。
路地裏を走り抜け、反対側の大通りに出ようとするニーナの前に現れるロボット。
その肩には880と書かれている。
ニーナに伸びる880の右腕。
「嫌……。」
嫌がるニーナを肩に抱えると町を走り去る880――
嫌がるニーナを抱え町から抜け出す880。
町を抜け近くの森へと逃げ込むと、880がそっとニーナを肩から降ろす。
腰を落とし、怯えるニーナ。
「父さん、母さん……。」
灰色の空が青白く光るとゴロゴロと音が鳴る。
880の赤茶色のボディとニーナの長いブラウンの髪に降り注ぐ大粒の雨。
後ずさりするニーナに880の大きな手が伸びる。
「嫌、死にたくない!!」
目を閉じ、身をすくめるニーナを濡らす大粒の雨。
死を覚悟したニーナを濡らす大粒の雨が止む。
(……。)
ゆっくりと目を開けるニーナ。
ニーナのグリーンの瞳に映る880の赤茶色の大きな手。
「雨を避けてくれているの?」
唖然とした顔のニーナに降り注ぐ大粒の雨を弾く880の大きな手。
赤茶色の右手を前に出し佇む880。
ザーッという雨音だけが二人を包む――
ポトン、ポトン。
880の右手から流れ落ちる雨の滴。
雨上がりの明るい光が二人を照らす。
「いたぞ!!ロボットだ!!」
ニーナが声のする方を見ると、麻で出来たベージュの服を着て銃を構えた二人の男性の姿が見える。
「そこのロボ野郎、その子を離せ!!」
浅黒い肌の若い男性が880に銃を向ける。
ガシャン、ガシャンと足音を鳴らし、880が銃を構える男性達へと歩を進める。
若い男性に近づく880――
「来るんじゃねぇ!!」
焦りの見える若い男性が銃の引き金を引こうとした時だった。
ギギキという音と共に880の両手が上がる。
880の行動に驚く若い男性。
「お願い、止めて!!」
思わず手を広げ、880と男性達の間に立つニーナ。
様子を見ていた年老いた男性が若い男性の銃に手をかける。
「どうやら戦う意思はないようだ。」
「しかし隊長……。」
戸惑う若い男性。
「彼らは、もはや我ら人類と変わらんよ。」
首を横に振るとうつむき銃を下ろす若い男性――
日が暮れた森の中。
暗闇の中、若い男性がオレンジの火花を散らす焚き火に薪をくべる。
焚き火の前に座るニーナ達にパイプから甘い煙を吐くと年配の男性が話しかける。
「ニーナと言ったかな?お前さん達、これからどうする?」
(……。)
言葉に詰まるニーナ。
若い男性がニーナに話しかける。
「ここより西なら戦火に包まれていないはずだ。」
焚き火の光に赤茶色のボディが照らされていた880。
キィと音を鳴らし首を西に向け立ち上がる。
880を見上げる年配の男性。
「そうか、西へ向かうか。ならば、これを持っていくがいい。」
そう言うと食料が入ったリュックをニーナに渡す年配の男性。
「もう少しで、この争いも終わる。それまで生き延びるんだな。」
年配の男性の言葉に頷くと、880を見上げるニーナ。
ニーナを見るとチカッと880の目が光る。
880がニーナを肩に担ぐと、880の頭部に手を回すニーナ。
朝日が二人の背を照らすと、西へと影が伸びてゆく――
町の広場に巨大なトラックが並んでいる。
番号順に次々とトラックに乗り込むロボット達。
「878、879……。」
数を数える130号が140を見る。
「140ゴウ、880ドコイッタ?」
「シレイカン、マサカ、アノヤロウ……。」
140の赤い目が激しく光る――
ガシャン、ガシャン。
沈みゆく太陽が廃墟の中を歩く880を照らす。
廃墟の中に小さな噴水のある広場を見つけると、疲労の見えるニーナを肩から降ろす880。
ニーナが靴を揃えて脱ぎ、スカートの裾をつまむと小さな噴水に足を浸す。
チャプチャプと音を鳴らし、ニーナが噴水の中心へと歩いてゆく。
傾いた噴水から溢れ出る水で口を潤すニーナ。
その様子を見つめると、880が瓦礫に腰を落とす。
噴水から出ると靴を持ち、裸足のニーナが880の右肩に掛かったリュックに手を伸ばす。
リュックの中からフルーツの缶詰を取り出すと、中身をつまみ口に運ぶニーナ。
フルーツを食べ終わると、ニーナが小さなあくびをする。
「眠くなってきちゃった。」
880に寄りかかり眠りにつくニーナ――
ブロロロロ。
爆音を撒き散らし廃墟の中を走る巨大なグリーンのジープ。
肩に230、330と白いペイントがある2体のロボットがジープに乗っている。
330号がジープに取り付けられたモニターを見る。
「センサーニ、ハンノウガアル。」
モニターの端で点滅する880を示すマークがどんどんと中心へと近づく――
ニーナを見守る880の頭部のセンサーが何かを捉える。
880の異変に気づき目が覚めるニーナ。
ニーナ達の背後に近づく車のエンジン音。
エンジンの音が止まると、ガシャン、ガシャンと金属の音がする。
立ち上がるとニーナをじっと見つめる880。
「ダイジョウブ。ココデ、カクレテテ。」
そう言うと880が音のする方へ歩いて行く。
「ニゲラレナイゾ。」
右手に銃を構えた230がロボット特有の籠もった声で880に話す。
お手上げとばかりに両手を上げる880。
「ハハハ、アキラメタカ、ツイテコイ。」
振り返りジープに向かう230と330の後ろを着いてゆく880。
「コレデ、オレタチモ、ショウシンダナ。」
230がふざけたように頭部を指差し330に話す。
背後を歩く880の赤い目がキラッと光ると230の頭部が吹き飛ぶ。
ガラガラと音を鳴らし230の頭部が転がると、230の赤茶色のボディが膝から崩れる。
巨大な金属の塊がズドンと大きな音を立て倒れると茶色いオイルが地面に広がる。
230の横にいた330が880に銃口を向ける。
「ロボ!!」
ニーナが手を伸ばし叫ぶ――
880が330の顔面を掴むと、ジープのボンネットに押し当てる。
330の銃がタタタタタンと火を放つ。
誰もいない上空に放たれる330の弾丸。
330の銃から力無く音が消え去る。
880が振り向くと、880に駆け寄り抱きつくニーナ。
真っ赤な夕日が2人を照らす――
ニーナを右肩に乗せ、ガシャン、ガシャンと薄暗い森の中を歩く880。
ニーナが森にこぼれる明るい光を指差すと、880の赤茶色の脚が素早く動く。
薄暗い森を抜け出した2人に降り注ぐ、明るく輝く太陽の光。
2人の目の前に広がる荒涼とした大地。
遙か先の丘の上に白い鐘塔のある小さな村が見える――
丘の上の小さな村を目指し、880が急な坂道を登る。
坂道を登り切り村の入り口に着く2人。
2人を見ると唖然とする村人達。
「……ロボット。戦争は終わったんじゃ?」
中年女性が手に持っていた籠を落とすと、コロコロと地面に転がる真っ赤な林檎。
「村長様、大変だ!!」
茶色い髪の若い男性が大声を出し、慌てて村の奥へと走り出す。
ゆっくりとニーナを肩から降ろす880。
ニーナが怯える村人達に話しかける。
「私達は――」
村人達に話しかけようとするニーナ。
ニーナ達を避けるように次々と逃げ出す村人達。
ざわめく村人達をかき分けるように現れる長く白い顎髭を蓄えた初老の男性。
茶色い髪の若い男性が初老の男性に話しかける。
「村長様、どうなさいます?」
村長が険しい顔でニーナ達を見る。
ガシャン、ガシャン――
880がニーナに背を向け村の外へと歩き始める。
「ロボ……。」
ニーナが880を追いかけようと、右手を伸ばした時だった。
「おい、あれを見ろ!!」
村の入り口で銃を持つ黒髪の若い男性が何かを指差す。
男性が指差す先には土煙を撒き散らし、村へと走り寄る新手のジープが見える。
別の若い男性が双眼鏡を覗くと、肩に140と白いペイントが入ったロボットが後部座席で腕を組んでいる。
「こいつら……。」
茶色い髪の若い男性がニーナを睨む。
「そんな……。」
愕然とし、両手で顔を覆うと膝から崩れ落ちるようにへたり込むニーナ。
880の赤い目が140を捉えると走り出す。
一気に坂道を下る880。
880を見つけると村の手前でジープを止める140。
ジープから降りる140と部下らしき560。
向かい合う880と140達――
140に殴りかかろうとする880の右手を560が両手で掴むと、140のパンチが880の頭部にヒットする。
ガツンという鈍い音と共に880の左の頭部にへこみが入る。
そのまま後ろに倒れる880に泥まみれの右脚を乗せると880の左手を引っ張る140。
880の左手がギィーッと悲鳴を上げる。
ギ、ギ、ギィーッ。
880のちぎり取られた左手が宙を舞う――
丘の上から880の戦いを見守る村人達。
茶色い髪の若い男性が小声で呟く。
「あいつ、まさか……。」
村長を見る黒い髪の若い男性。
「村長様、どうします?」
白い顎髭を右手で触ると村人達に命令をする村長。
「あのロボットを守れ!!」
黒い髪の若い男性が狙いを定め560の頭部を打ち抜く。
ズシンと仰向けに倒れる560。
倒れた560を見る140に次々と降り注ぐ銃弾。
頭部を守る140の両手がカツン、カツンと銃弾を弾くとオレンジ色の火花が飛び散る。
後ずさりする140の頭部に立ち上がった880の渾身のパンチが決まる。
頭部が斜めにゆがむと倒れる140。
シューと音を鳴ると140の赤い目から光が消える――
ガシャン、ガシャンと音を鳴らし、ニーナの前に現れる880。
立ち上がり880に抱きつくニーナ。
「スマナイ……。キミヲ、マモレナイ……。」
880の左手からポロポロと部品が落ちる。
村人達が2人を見守る中、村長がしわがれた声で話しかける。
村への立ち入りを認めよう――
洗濯物の入った籠を持つと、880の元へと向かうニーナ。
籠の上には真っ赤な林檎が乗っている。
「ロボ、右手を上げて。」
880が右手を上げると、ニーナが次々と洗濯物をかけていく。
「お隣のおばさんが林檎をくれたんだよ。」
洗濯物をかけ終わると、880に背もたれし真っ赤な林檎をかじるニーナ。
ニーナの満面の笑みを見ると話す880。
「ネムクナッテキタヨ……。」
うつむき無言になるニーナ。
少し間を置くと、ニーナが青い空を見つめ口を開く。
ありがとう、ロボ――




