表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄のライブ配信サバイバル:最底辺のクズ運営が、絶望のアイドルをプロデュースして世界を炎上させるまで  作者: 伝福 翠人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/12

第2話 同接10の絶望

気管支から血の味がする。


喉の奥に張り付く、乾いた砂の感触。


背後から迫る複数の咆哮。さっきの犬の化け物、レイス・ハウンドの群れ。


走る。ただひたすらに、赤黒い荒野を駆け抜ける。


フォロワー1。


足枷が外れた程度の筋力補正。陸上選手になれたわけじゃない。ただの運動不足な成人男性の、貧弱な肉体。


心臓が肋骨を突き破りそうなほど跳ねている。


足がもつれる。転倒。


膝を擦りむき、赤黒い土に顔を突っ込んだ。


痛い。熱い。


だが、立ち止まることは許されない。


手元のスマホ画面。数字が容赦なく現実を突きつける。


【同接:10人】


【同接:8人】


【同接:5人】


血の気が引いた。


怪物の牙よりも恐ろしい、無関心という名の暴力。


『ただ逃げてるだけかよ』


『絵面が地味』


『別枠いくわ』


弾幕が薄くなる。数字が減る。


連動して、視界の端の【残りヒート】の減少速度が跳ね上がった。


クソが。


飽きられたら終わり。ここはそういう世界だ。


かつて地下アイドルの運営をやっていた頃、見飽きるほど見てきた光景。


「推し」への熱が冷めたファンは、昨日までの熱狂が嘘のように去っていく。消費し尽くされ、ポイ捨てされる少女たち。


今度は俺が、使い捨てられる番か。


笑わせるな。


俺はコンテンツだ。お前らの時間を、感情を、一滴残らず搾り取ってやる。


カナタは立ち上がり、あえて群れから逃げる「安全な平地」のルートを外れた。


向かう先は、切り立った岩肌。足場が崩れ落ちそうな、すり鉢状の渓谷の縁。


「おい、どこ行くんだよ」


ドローンカメラを睨みつけ、血塗れの顔で笑う。


「ただのマラソン大会じゃつまんねえだろ? 特等席を用意してやるよ」


崩れやすい崖の縁を、わざとギリギリで駆け抜ける。


小石が谷底へ吸い込まれていく。一歩踏み外せば、数十メートル下へ真っ逆さま。死へのダイブ。


『え、そこ走るの?』


『落ちる落ちるww』


『バカじゃんコイツ』


数字が止まる。


【同接:6人】


【同接:9人】


喰いついた。


他人の危機は最高のエンターテインメント。命綱なしの綱渡り。


息が続かない。視界が白濁し始める。


それでも、カメラに向けた挑発的な視線は外さない。


「落ちて潰れるか、食い殺されるか。賭けろよ。……俺の命のチップは、もっと高いぜ?」


崖の崩落。


足元の岩が丸ごと剥がれ落ちる。


宙に浮く体。


『うおっ!?』


『マジで落ちた』


『やばいやばい!』


落下しながら、岩肌に突き出た木の根に、錆びた鉄パイプを全力で引っ掛ける。


ギギギッ、と肩の関節が嫌な音を立てた。


激痛。腕が引きちぎれそうな衝撃。


だが、落下は止まった。


谷底で、追ってきた怪物たちが忌々しそうに吠え上げている。


宙吊りのまま、カナタは息を荒らげてカメラを見上げた。


「……どうだ。いい絵、撮れたか?」


コメント欄が加速する。


『草』


『悪運つええ』


『ほらよ、見物料だ』


システム音声。


【ギフトを確認:シルバー・コイン(500円相当)】


【物資を転送します】


ドローンから光の粒子が溢れ、カナタの胸元へ落ちてきた。


片手でそれを受け止める。


透明なフィルムに包まれた、ただの「塩むすび」と、小さなペットボトルの水。


這い上がる筋力はない。


崖の中腹、鉄パイプ一本で宙吊りになりながら、カナタは包装を噛み千切り、泥だらけの指でおにぎりを口に押し込んだ。


しょっぱい。


血の味か、ただの塩味か、わからない。


【同接:12人】


【残りヒート:00:45:00】


数字が増える。寿命が延びる。


胃袋に炭水化物が落ち、震えていた手足にわずかな熱が戻る。


もっとだ。


もっと俺を見ろ。


この狂った地獄の底から、最高のエンタメを配信してやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ