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裏社会の魔王の血を引く俺、異世界転移して十人の妃と世界を無双する  作者: 十一 五


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第1巻 ―異世界転移と血の覚醒―

裏社会の魔王の血を引く俺、異世界転移して十人の妃と世界を無双する 第1巻 ―異世界転移と血の覚醒―

プロローグ 血は争えない


「お前のひいひいお爺さんはな、この地方で一番恐れられ、魔王と呼ばれたギャングの親分だったんだぞ」

十歳の誕生日、父はそう言って酒臭い息を吐いた。

僕――エリオット・ヴェンデルは、その日から自分の中に眠る「何か」を恐れるようになった。

鏡に映る自分の顔は、母譲りの整った顔立ちだ。栗色の髪、琥珀色の瞳、優しげな輪郭。誰が見ても「育ちの良い商人の息子」にしか見えない。

でも、僕は知っている。

カッとなると止まらなくなる自分を。友達が理不尽なことを言われているのを見ると、気づけば拳が相手の顔面に迫っていることを。そして何より――その瞬間、恐ろしいほど「気持ちいい」と感じてしまう自分を。

「エリオット様、お客様がお待ちですよ」

使用人のマリアの声で、僕は現実に引き戻される。今日も父の商会の仕事を手伝う一日が始まる。ヴェンデル商会は、この「グレイフォード辺境伯領」では中堅の商会だ。扱うのは織物と香辛料。地味だが堅実な商売。

僕は深呼吸して、「優しい商人の息子」の顔を作った。

この顔をしていれば、誰も僕の中の「獣」には気づかない。


第一章 魔王のいる世界

この世界には本物の「魔王」がいる。

正確に言えば、「七大魔王」と呼ばれる超越的存在が、それぞれ異なる大陸を支配している。僕たちが住むのは「ミッドガルド大陸」で、ここを統べるのは《停滞の魔王》アスタロト。

魔王は魔族であり、神と対立できる唯一の存在だ。世界の理の中に存在し、そこには一定の調和も必要とされるようで、あなた方が知っている空想上の魔王のように人間を滅ぼそうとはしない。ただ、「秩序を維持する」だけだ。

各地には魔王の代理人である「魔王代行」が存在し、人間の国々は彼らに税を納め、その庇護下で生活する。魔物の群れが街を襲えば、魔王代行が軍を派遣して鎮圧する。飢饉が起きれば、魔王の倉庫から穀物が配給される。さらに議会制の選挙もあれば、官公庁めいた組織も存在する。

魔王の中にも大魔王と魔王など等級があり、アスタロトは七大魔王の一柱だ。つまり、この大陸の頂点に立つ存在。

便利だ。安全だ。

でも、何かが欠けている。

「活気がないんだよな、この街」

僕は商会の二階の窓から、グレイフォードの街並みを眺めながら呟いた。

石畳の道、煉瓦造りの家々、行き交う人々。全てが「そこそこ」で「平均的」で「安定している」。誰も夢を語らない。誰も野心を抱かない。なぜなら――

「魔王様が全部決めてくれるからね」

横から声がした。振り返ると、幼馴染のリリアーナが呆れた顔で立っていた。

リリアーナ・ブルーフィールド。グレイフォード辺境伯の娘で、僕の婚約者候補の一人。青い髪に青い瞳、凛とした美貌を持つ彼女は、この街で唯一「つまらない」と公言する変わり者だ。

「お父様がまた嘆いてたわ。『税を納めれば何もしなくても領地は維持される。領主の仕事がない』って」

「辺境伯様も大変だな」

「あなたも大変でしょ? その顔」

リリアーナは僕の頬をつついた。

「また『良い子』の顔してる。疲れない?」

「……疲れるよ」

僕は素直に答えた。リリアーナには、嘘をついても無駄だ。

「でも、本性を出したら周りが怖がるだろ」

「あら、私は怖がらないわよ。むしろ、その方が面白い」

リリアーナはにっこり笑った。彼女の笑顔には、どこか危険な輝きがある。

「ねえ、エリオット。この街を出ましょう」

「は?」

「だって、つまらないじゃない。魔王様の庇護の下、何も変わらない毎日。私、飽きちゃった」

「どこに行くんだよ」

「《無法地帯》」

僕は息を飲んだ。

無法地帯――それは、魔王の支配が及ばない領域だ。大陸の辺境、山岳地帯、古代遺跡の周辺など、魔王代行の管理から漏れた場所。そこでは魔物が跋扈し、無法者が集まり、秩序が存在しない。

「危険すぎる」

「だから面白いのよ。それに、聞いたわ。最近、《無法地帯》の一つに『自由都市を作ろう』っていう動きがあるって」

「自由都市?」

「魔王の支配を受けず、人間が自分たちで統治する街。税も、法も、全部自分たちで決める。どう? ワクワクしない?」

僕の胸が高鳴った。

それは、僕が無意識に求めていたものかもしれない。「決められた枠」から出ること。「安全な檻」を破ること。そして――

自分の「血」を、解放すること。

「……考えさせてくれ」

「じゃあ、三日後。返事を聞くわ」

リリアーナは颯爽と部屋を出て行った。

僕は再び窓の外を見た。夕陽に染まる街。変わらない、変わらない街。

「ひいひいお爺さんは、魔王と呼ばれたギャングの大親分だった」

父の言葉が蘇る。

もしかして、僕の血は、こんな「停滞」には耐えられないのかもしれない。


第二章 出発

三日後、僕は決断した。

「行こう、リリアーナ」

「決まりね」

彼女は満面の笑みで頷いた。

準備は意外と簡単だった。父は「若いうちに世界を見てこい」と快く送り出してくれた。母は心配しておろおろし、また生命の危機も当たり前のようにあるため神に祈り、僕の顔を見ると泣いていたが、最後には笑顔で「無事に帰ってきてね」と言ってくれた。

「母さん、必ず帰ってくるから」

僕は母を抱きしめた。母の涙が、僕の肩を濡らす。

「エリオット……あなたは優しい子。でも、時々、怖い目をする。それが、心配で……」

「大丈夫だよ。ガルヴァンさんもいるし、リリアーナもいる」

「そうね……二人なら、きっと……」

母は震える手で、僕に小さな護符を渡した。

「これを持って行きなさい。神様が、あなたを守ってくださる」

「ありがとう、母さん」

僕は護符を首にかけた。

そして、出発の日。

「待ってくれ、エリオット」

声をかけてきたのは、商会の護衛を務めるガルヴァンだった。三十代半ば、傷だらけの顔に無精髭、筋骨隆々とした体躯。元傭兵で、訳あって父に雇われた男だ。

「俺も連れて行ってくれ」

「なんでだよ」

「お前の親父さんに恩がある。それに……」

ガルヴァンは僕の目を見た。

「お前、目が危ねえ。誰かが見張ってねえと、何しでかすか分かんねえ」

僕は苦笑した。やはり、バレていたか。

「頼む。お前の『暴走』を止められるのは俺くらいだ」

「……分かった。頼むよ、ガルヴァン」

こうして、僕たちは三人になった。

馬車に乗り込み、グレイフォードを出発する。街門をくぐる瞬間、僕は振り返った。生まれ育った街。安全で、平穏で、退屈な街。

「さよなら」

僕は小さく呟いた。


旅は順調だった。《無法地帯》への道は危険だと聞いていたが、ガルヴァンの剣技と、リリアーナの魔法(彼女は水魔法の使い手だった)のおかげで、魔物の襲撃も難なく退けられた。

「リリアーナ、すごいな。そんなに魔法が使えたなんて」

僕が感心すると、彼女は得意げに胸を張った。

「当然よ。辺境伯の娘ですもの。幼い頃から魔法の英才教育を受けてるわ」

「でも、なんで街では使わなかったんだ?」

「使う必要がなかったからよ。あんな退屈な街で、魔法を使う機会なんて」

リリアーナは空を見上げた。

「でも、ここは違う。ここでは、私の力が必要とされる」

彼女の瞳が、輝いていた。

そして、五日目。

「見えたぞ、《ヴァルハラ渓谷》だ」

ガルヴァンが指差した先には、巨大な渓谷が広がっていた。切り立った崖、その谷底に点在する廃墟。かつては栄えた都市だったらしいが、百年前の魔物大発生で滅び、以来《無法地帯》となっていた。

「ここに、自由都市を?」

「ええ。情報によれば、既に数百人が集まっているそうよ」

僕たちは渓谷に降りた。

確かに、人の気配がある。廃墟の中にテントが張られ、焚き火が焚かれている。だが、その雰囲気は――

「野盗の集まりじゃねえか」

ガルヴァンが呟いた。

その通りだった。集まっているのは、無法者、逃亡犯、魔王の支配を嫌う反逆者たち。彼らの目には、欲望と狂気が渦巻いていた。

「おい、新入りか」

ガラの悪い男が近づいてきた。

「ここは《自由都市ヴァルハラ》の建設予定地だ。参加するなら、まず『入会金』を払ってもらおうか」

「入会金?」

「お嬢ちゃんをこっちに渡せば、大歓迎してやるよ」

男はリリアーナを舐めるように見た。

僕の中で、何かが弾けた。

「――断る」

「あ?」

「断るって言ったんだ。耳が悪いのか、それとも頭が悪いのか」

僕は一歩前に出た。男の顔が歪む。

「ガキが生意気な――」

男の拳が飛んできた。

僕は避けなかった。いや、避けなかったのではない。避ける必要を感じなかった。

拳が僕の頬に当たる直前、僕の右手が男の顎を捉えていた。

「がっ――!」

男が吹っ飛ぶ。周囲がざわめく。

僕は自分の拳を見た。震えている。興奮で。喜びで。

「あ……ああ……」

ダメだ。止まらない。

僕は男に歩み寄った。男は恐怖に顔を歪ませている。

「や、やめろ――」

「エリオット!」

ガルヴァンが僕の肩を掴んだ。

「落ち着け。殺すな」

「……っ」

僕は深呼吸した。震えが収まる。

「悪い……つい……」

「分かってる。だが、ここでやりすぎるな」

ガルヴァンは周囲を睨んだ。野盗たちは、警戒の目でこちらを見ている。

「どうやら、ここは『自由都市』じゃなく『無法都市』のようだな」

リリアーナが冷めた声で言った。

「エリオット、ここは引きましょう。別の場所を探しましょう」

「……いや」

僕は顔を上げた。

「ここにしよう」

「え?」

「ここに、僕たちの街を作ろう。本当の『自由都市』を」

僕は宣言した。

「ルールは僕たちが作る。秩序も、正義も、僕たちが決める。魔王の支配も、こいつらの無法も、どっちも要らない」

リリアーナとガルヴァンは顔を見合わせた。

そして――

「面白い」

リリアーナが笑った。

「やってやりましょう、エリオット」

「仕方ねえな。付き合ってやるよ」

ガルヴァンも肩をすくめた。

こうして、僕たちの戦いが始まった。


第三章 街づくりの始まり

「まず、ここを制圧する」

僕たちは廃墟の中心にある、かつて市庁舎だったと思われる建物を占拠した。石造りの立派な建物だが、窓は割れ、壁には蔦が這い、百年の放置の痕跡が刻まれている。

「エリオット、本気なの?」

リリアーナが聞いた。

「本気だよ。ここを、僕たちの街にする」

「でも、あの野盗たち、数百人いるのよ。僕たちは三人」

「数じゃない」

僕は窓の外を見た。

「『意志』の問題だ。あいつらには、統一された意志がない。ただ、魔王の支配から逃げてきただけ。でも、僕たちには『目的』がある」

「自由都市を作る、という目的?」

「そう。それが、僕たちの強みだ」

僕は二人を見た。

「リリアーナ、ガルヴァン。力を貸してくれ」

「当然よ」

「おう」

二人は頷いた。


「おい、何のつもりだ!」

野盗のリーダー格と思われる男が怒鳴り込んできた。髭面の大男で、両手に斧を持っている。

「《自由都市ヴァルハラ》の建国を宣言する」

僕は真っ直ぐに男を見た。

「ただし、ここは『無法』の街じゃない。『法と秩序』がある街だ。従えない者は出て行ってもらう」

「ガキが何を――」

男が剣を抜いた。

ガルヴァンが間に入る。

「俺が相手だ」

「元傭兵か。だが、一人で俺たちを――」

「一人じゃないわよ」

リリアーナが魔法陣を展開した。

「《水の檻》」

瞬時に、男の周囲に水の壁が出現した。

「なっ――!」

水の壁は、男を完全に包囲している。動けば、溺れる。

「選択肢を与えるわ。一つ、この街のルールに従う。二つ、今すぐ出て行く。三つ、力尽くで叩き出される。どれがいい?」

リリアーナの声は冷たかった。

男は歯噛みしたが、最終的には剣を降ろした。

「……分かった。だが、お前らの『ルール』が気に食わなかったら、すぐに出て行くからな」

「結構よ」

水の檻が消える。男は不満げに去って行った。

こうして、最初の住人(?)を獲得した。


次に、僕たちは「法」を作った。

大きな石板に、太い炭で文字を刻む。街の中心に設置し、誰もが見られるようにした。

《ヴァルハラ自由都市 基本法》

殺人、強盗、強姦は厳禁。違反者は追放。

争いは「決闘裁判」で解決する。第三者の立会いの下、戦うか、賠償金を支払うかを選ぶ。

街への貢献度に応じて「市民権」を与える。市民権があれば、住居と食料が保証される。

街の運営は「評議会」で決定する。評議会のメンバーは市民の選挙で選ばれる。

シンプルだが、明確なルールだ。

「これで秩序が生まれる」

リリアーナが満足げに頷いた。

だが、予想通り反発も起きた。

「なんで俺たちが『貢献』しなきゃならねえんだ!」

「ここは自由都市だろ! 好き勝手やらせろ!」

野盗たちが騒ぎ出した。

僕は立ち上がった。

「好き勝手やりたいなら、別の場所でやれ」

「あ?」

「ここは『自由都市』だ。だが、『自由』は『無責任』じゃない。自分の行動に責任を持つ。それが自由だ」

「綺麗事抜かすな!」

一人が襲いかかってきた。

僕は避けずに受け止めた。そして――

「ガルヴァン、止めなくていい」

「……マジか」

「こいつには、分からせないといけない」

僕は男の腕を掴み、投げ飛ばした。男が地面に叩きつけられる。

「うぐっ――」

「まだ分からないか?」

僕はゆっくりと近づいた。

「ここは僕の街だ。僕のルールに従えないなら、力尽くで追い出す。それだけだ」

男は恐怖に震えながら、頷いた。

「わ、分かった……従う……」

「よろしい」

僕は笑顔を作った。だが、その笑顔は――自分でも分かる――祖先の笑顔だった。

魔王と呼ばれたギャングの笑顔。


それから一ヶ月。

街は少しずつ形になっていった。

廃墟を修復し、住居を作り、畑を耕し、井戸を掘った。僕の商人としての知識が役立った。物々交換の市場を開設し、通貨の代わりに「貢献ポイント」を導入した。働けば働くほどポイントが貯まり、食料や道具と交換できる。

「意外とマトモになってきたな」

ガルヴァンが感心したように呟いた。

「でも、まだ人手が足りないわ」

リリアーナが指摘した。

「今いるのは五十人程度。街を維持するには、最低でも二百人は必要よ」

「どうすれば人が集まる?」

「『安全』を売りにしましょう」

リリアーナの提案だった。

「《無法地帯》でありながら、秩序がある街。そこに魅力を感じる人は必ずいるわ」

「なるほど」

僕たちは近隣の街に使者を送り、宣伝を始めた。

「《ヴァルハラ自由都市》――魔王の支配なき、人間の、人間による、人間のための街」

すると、予想以上に反応があった。

魔王の支配に疑問を持つ者。 税に苦しむ農民。 自由を求める商人。 冒険を求める若者。

様々な人々が、続々と集まってきた。

そして、その中に「彼女」もいた。


第四章 最初の愛人

彼女の名は、セレスティア。

銀髪に紫の瞳、妖艶な美貌を持つ女性だった。年齢は二十代半ば。職業は――

「娼婦です」

彼女は臆面もなく言った。

「《魔王領》で娼館を営んでいましたが、税が高すぎて。ここなら、自由に商売ができると聞いて来ました」

僕は戸惑った。娼婦。それは、僕が今まで関わったことのない世界だ。

「あの、娼館を開くのは構いませんが、ルールは守ってください」

「もちろん。強要はしません。病気の管理も徹底します。それに――」

セレスティアは僕を見て、微笑んだ。

「あなたが望むなら、私も『商品』として提供しますよ」

「え?」

「あなた、綺麗な顔をしてるけど、目が獣のようね。きっと、抑圧されてる」

彼女の指が、僕の頬を撫でた。

「解放してあげましょうか?」

僕の心臓が激しく鳴った。

「わ、私は――」

「無理しなくていいのよ。ここは『自由都市』でしょう?」

セレスティアは僕の耳元で囁いた。

「自分の欲望に、正直になりなさい」


その夜、僕はセレスティアの部屋にいた。

廃墟を改装した小さな部屋。だが、彼女の手で、温かみのある空間になっていた。

「緊張してるの?」

「当たり前だろ……初めてなんだ……」

「可愛いわね」

セレスティアは僕を抱き寄せた。

「いい? セックスは『征服』じゃない。『共有』よ。お互いの快楽を分かち合うの」

彼女の手が、僕の服を脱がせていく。

「あなたの中の『獣』を恐れなくていい。私が受け止めてあげる」

そして――

僕は、初めて「解放」された。

自分の欲望に。自分の暴力性に。自分の「血」に。

セレスティアの体を抱きながら、僕は泣いた。

「ああ……ああ……」

「いいのよ。泣いていいのよ」

セレスティアは僕の頭を撫でた。

「あなたは、今まで一人で戦ってきたのね。『良い子』を演じて、自分を押し殺して」

「……うん」

「でも、もう大丈夫。ここでは、あなたはあなたでいられる」

その言葉が、僕を救った。


翌朝、僕は別人のようだった。

「顔つきが変わったな」

ガルヴァンが笑った。

「ようやく『男』になったか」

「うるさい」

僕は赤面した。

リリアーナは複雑な表情をしていたが、何も言わなかった。ただ、僕の手をぎゅっと握りしめた。

「エリオット」

「なに?」

「あなたが、幸せならいいの」

彼女は微笑んだ。だが、その瞳には、少しだけ寂しさが宿っていた。

そして、セレスティアは僕の「愛人」の一人となった。


第五章 拡大と試練

それから半年。

《ヴァルハラ自由都市》の人口は三百人を超えた。

農業、工業、商業、全てが軌道に乗り始めた。僕の商会の経験が活きた。近隣の街との交易ルートを確立し、特産品(廃墟から発掘した古代の工芸品)を売り出した。

街の評議会も機能し始めた。ガルヴァンは防衛隊長に、リリアーナは教育担当に、セレスティアは歓楽街の管理者になった。

そして、新たな仲間も増えた。

一人目は、ドワーフの鍛冶師、グリムドール。

「魔王の支配下では、良い武器が作れん。ここなら、自由に鍛冶ができる!」

彼の作る武器と防具は、街の防衛力を大幅に向上させた。

二人目は、エルフの錬金術師、アリエル。

「魔王は錬金術を禁じている。でも、私は研究を続けたいの」

彼女の薬と魔道具は、街の生活水準を向上させた。

そして三人目は――

「よお、エリオット。久しぶりだな」

見覚えのある顔だった。

「……ジェイク?」

ジェイク・マクレガー。僕の幼馴染の一人で、かつて一緒に悪戯をした仲だ。だが、五年前に家族と共に街を出て行ったはずだ。

「お前、どうして……」

「お前が面白いことしてるって聞いてな。俺も混ぜてくれよ」

ジェイクは盗賊だった。正確には、元盗賊。魔王領で盗賊団を組んでいたが、仲間に裏切られて追われる身になったらしい。

「盗賊なんて……」

「心配すんな。もう足は洗った。だが、『情報収集』と『潜入』のスキルは一流だぜ」

確かに、街にはスパイ網が必要だった。魔王代行が僕たちの街をどう見ているか、近隣の勢力の動向は――情報は生命線だ。

「……分かった。お前を『情報局長』に任命する」

「任せとけ」

ジェイクはニヤリと笑った。


だが、平穏は長く続かなかった。

「エリオット様、大変です!」

ある日、見張りが血相を変えて飛び込んできた。

「魔物の大群が、街に向かっています!」

「なに?」

僕たちは城壁(廃墟を改造して作った)に駆け上がった。

地平線の向こうから、黒い波が押し寄せてくる。ゴブリン、オーク、ワイバーン――数百体のゴブリンを中心に、千を超える魔物の群れ。

「くそっ、なんでこんな大群が……」

ガルヴァンが呻いた。

「魔王代行の軍はどこだ?」

「来ません」

リリアーナが冷静に答えた。

「ここは《無法地帯》。魔王の庇護外。つまり、僕たちは『見捨てられた』のよ」

「そんな……」

住民たちがパニックに陥り始めた。

「逃げよう!」

「街を捨てるんだ!」

僕は叫んだ。

「待て! 逃げるな!」

「でも、エリオット様、相手は千を超える――」

「戦うんだ」

僕は拳を握りしめた。

「ここは僕たちの街だ。僕たちが血と汗を流して作った街だ。魔物なんかに、渡してたまるか」

リリアーナが僕の肩に手を置いた。

「無茶よ。僕たちの戦力は百人程度。しかも、訓練された兵士じゃない」

「でも――」

「でも、やるしかないわね」

彼女は微笑んだ。

「私たちは『自由』を選んだのだから。自分の選択に、責任を持ちましょう」

ガルヴァンも剣を抜いた。

「派手にやろうぜ、エリオット」

セレスティアも弓を手に取った。

「あら、私も戦えるのよ? 元は森の狩人だったんだから」

グリムドールが斧を掲げた。

「ドワーフを舐めるな! 一人で百匹は倒してやる!」

アリエルが魔法陣を描いた。

「私の錬金爆弾、試してみたかったのよね」

ジェイクが短剣を回した。

「情報戦だけじゃつまんねえしな」

僕は涙が出そうになった。

みんな、僕のために戦ってくれる。

「ありがとう……みんな……」

「礼はいいから、作戦を立てろ」

ガルヴァンが促した。

僕は頭を切り替えた。商人の思考で。戦略を練る。

「まず、城壁で敵の侵入を防ぐ。アリエル、城壁の外に爆弾を設置してくれ」

「了解」

「リリアーナ、魔法で敵の動きを遅らせて。水の壁で分断する」

「分かったわ」

「ガルヴァン、グリムドール、セレスティア、前線を頼む」

「おう」

「ジェイク、お前は遊撃。敵の指揮官らしき魔物を狙ってくれ」

「任せろ」

「そして、僕は――」

僕は剣を抜いた。父の商会に飾ってあった、祖先の形見の剣。

「先陣を切る」

「え?」

リリアーナが驚いた。

「エリオット、あなたは指揮官よ。前線に出るなんて――」

「みんなに戦えって言うなら、僕も戦う」

僕は真っ直ぐに彼女を見た。

「それに……もう、我慢できない」

僕の中の「獣」が、咆哮を上げていた。

「行くぞ、みんな!」


第六章 血の洗礼

城門が開く。

僕は駆け出した。

魔物の群れが迫る。数百体のゴブリンの群れ。牙を剥き、武器を振りかざし、殺意を剥き出しにして。

「ギャアアアア!」

僕は笑った。

「来いよ、化け物ども!」

剣を振るう。ゴブリンの首が飛ぶ。血が飛び散る。

「もっとだ! もっと来い!」

僕は踊るように戦った。父から学んだ剣技じゃない。誰にも教わっていない、本能の剣技。

「ははは! ははははは!」

僕の中の「血」が、歓喜していた。

祖先からの「血」が。

魔王と呼ばれたギャングの親分の「血」が。

「これだ……これが俺だ!」

後ろから、ガルヴァンの声。

「エリオット、調子に乗るな!」

「うるさい! 楽しいんだよ!」

僕は更に踏み込んだ。オークの群れに突入する。

「エリオット、危ない!」

リリアーナの水魔法が、僕を守る。

「ありがとう、リリアーナ!」

僕は振り向いて笑った。

彼女の顔が引き攣っている。そりゃそうだ。僕は今、血まみれで、狂ったように笑っている。

「ごめん……でも、止まらない……」

「いいわ、好きにやりなさい! 私が守るから!」

リリアーナも覚悟を決めたようだ。

彼女の魔法が、戦場を支配する。水の刃、氷の槍、霧の壁。

「さすが辺境伯の娘!」

僕は再び前を向いた。

そして――

「あれが、指揮官か」

戦場の中央に、一際大きな魔物がいた。

《オーガロード》。オーガの上位種で、知能が高く、魔物を統率する能力を持つ。

「ジェイク、援護してくれ!」

「おう!」

ジェイクの短剣が、オーガロードの側近を次々と倒していく。

僕は駆けた。

オーガロードが気づく。

「グオオオオ!」

巨大な棍棒が振り下ろされる。

僕は避けなかった。

「セレスティア!」

「分かってるわ!」

彼女の矢が、オーガロードの目に突き刺さる。

「ギャアアア!」

オーガロードが怯む。

その隙に、僕は跳んだ。

剣を、喉元に。

「終わりだ」

剣が、肉を裂く。

オーガロードが崩れ落ちる。

そして――

魔物たちが、動きを止めた。

指揮官を失った群れは、統率を失い、逃げ始めた。

「やった……勝った……」

僕は膝をついた。

全身が痛い。だが、心は――

「最高だ……」

僕は笑った。


戦いの後、街は沸いた。

「勝利だ!」

「僕たちは魔物の大群を退けたんだ!」

住民たちが抱き合い、泣き、笑い、祝った。

「エリオット様!」

「エリオット様、万歳!」

僕の名が連呼される。

僕は恥ずかしくなって、逃げようとした。

だが、リリアーナに捕まった。

「逃げないの。あなたはこの街の『英雄』なんだから」

「英雄なんかじゃない……ただの、粗暴な――」

「それでいいのよ」

リリアーナは僕を抱きしめた。

「あなたの『粗暴さ』が、この街を守ったのよ」

僕は彼女の肩に顔を埋めた。

「リリアーナ……」

「泣いていいのよ」

僕は泣いた。

子供みたいに、声を上げて。


第七章 愛人たちの増加

戦いの後、街は急速に成長した。

「《魔物を退けた自由都市》の噂が広まっているわ」

リリアーナが報告した。

「各地から、移住希望者が殺到しているそうよ」

人口は半年で千人を突破した。

そして、僕の周りにも「変化」が起きた。

「エリオット様、お疲れ様です」

ある日、僕の部屋に若い女性が入ってきた。

名はミレーユ。農民の娘で、戦いの後に移住してきた。金髪碧眼、素朴な美少女だ。

「あの、これ、差し入れです」

彼女は手作りのパイを差し出した。

「ありがとう。でも、僕に直接持ってこなくても――」

「私、エリオット様にお仕えしたいんです」

ミレーユは真剣な目で言った。

「私の家族は、《魔王領》で税に苦しんでいました。でも、この街に来て、初めて『自由』を知りました。それを与えてくれたエリオット様に、恩返しがしたいんです」

「恩返しって……」

「何でもします。掃除、洗濯、料理、そして――」

ミレーユは頬を赤らめた。

「夜の、お世話も……」

僕は戸惑った。

「君、まだ若いだろ……」

「十八歳です。もう大人です」

「でも――」

「エリオット様は、私を拒むんですか?」

ミレーユの瞳が潤む。

「私、エリオット様のお役に立てないなら……生きている意味が……」

「待って待って! そんな極端な!」

僕は慌てた。

「分かった、分かったから。君の『お世話』、受け入れるよ」

「本当ですか!」

ミレーユは笑顔で抱きついてきた。

こうして、僕の二人目の愛人が誕生した。


さらに、三人目も現れた。

「エリオット殿、お話があります」

彼女の名は、イザベラ。元は近隣の小領主の娘だったが、魔王代行の圧政に耐えかねて、領地を捨てて逃げてきた。

黒髪に赤い瞳、冷たい美貌を持つ女性だ。

「私を、あなたの配下にしてください」

「配下?」

「私には、政治と外交の知識があります。この街が更に発展するには、周辺国との関係を構築する必要がある。私にそれをやらせてください」

確かに、街が大きくなれば、外交は避けられない。

「分かった。君を『外交官』に任命する」

「ありがとうございます」

イザベラは膝をついた。

「そして、もう一つ」

「なに?」

「私を、あなたの女にしてください」

僕は目を丸くした。

「な、なんで?」

「あなたは、この街の『王』になる器です。ならば、私はその『后』になりたい」

イザベラは僕を見上げた。

「私には、もう帰る場所がない。ならば、あなたに全てを捧げます」

僕は悩んだ。

だが、彼女の目には、嘘がなかった。

「……分かった。君を、受け入れよう」

「感謝します」

イザベラは僕の手に口づけた。


夜、僕はリリアーナに呼び出された。

「エリオット、話があるの」

彼女の表情は、珍しく硬かった。

「最近、あなたの周りに女性が増えてるわね」

「あ、ああ……」

「私、別に嫉妬してるわけじゃないのよ」

リリアーナは溜息をついた。

「むしろ、予想通りよ。あなたは『王』になる。王には、複数の后が必要」

「え?」

「政治的な理由もあるし、後継者を確保する意味もある。それに――」

リリアーナは僕を見た。

「あなたの『血』は、一人の女性では満たされないでしょう?」

僕は何も言えなかった。

図星だったから。

「だから、いいのよ。好きにしなさい」

「リリアーナ……」

「でも、一つだけ約束して」

彼女は僕の手を握った。

「私を、一番に愛してね」

僕は頷いた。

「当たり前だ。君は僕の最初の仲間で、最高のパートナーだ」

「ありがとう」

リリアーナは微笑んだ。

そして――

「今夜は、私があなたを独占するわ」

彼女は僕を押し倒した。


第八章 国家の萌芽

それから二年。

《ヴァルハラ自由都市》は、もはや「街」ではなく「都市国家」と呼ぶべき規模になっていた。

人口は約五千人。 農業生産は自給自足を達成。 工業製品(武器、防具、魔道具)の輸出も始まった。

そして、周辺の小村落が次々と「保護」を求めてきた。

「エリオット様、《グリーンヒル村》が《ヴァルハラ》への編入を希望しています」

イザベラが報告した。

「魔物の襲撃に耐えきれず、また魔王代行の税も払えないそうです」

「受け入れよう」

僕は即答した。

「ただし、条件を付ける。『ヴァルハラの法』に従うこと。そして、『貢献』をすること」

「了解しました」

こうして、僕たちの「領土」は拡大し始めた。


だが、問題も起きた。

「エリオット、魔王代行から書状が届いたわ」

リリアーナが深刻な顔で言った。

「《停滞の魔王》アスタロトの代行、《静寂の侯爵》ヴァレンシュタインからよ」

書状を読む。

『《ヴァルハラ自由都市》の指導者、エリオット・ヴェンデル殿へ。

貴殿の統治する都市が、魔王領の秩序を乱している。

直ちに《ヴァルハラ》を放棄し、魔王の支配下に入ることを求める。

これを拒む場合、貴殿は『反逆者』と見なし、武力行使も辞さない。

《静寂の侯爵》ヴァレンシュタイン』

僕は書状を破り捨てた。

「拒否だ」

「でも、エリオット、魔王代行の軍は――」

「分かってる。だが、ここで屈したら、僕たちの『自由』は終わる」

僕は評議会を招集した。

「みんな、聞いてくれ。魔王代行が、僕たちに服従を要求している」

評議員たちがざわめく。

「どうする? 従うのか?」

「従えば、この街は魔王の支配下に戻る。税を払い、自由を失う」

「でも、戦えば――」

「全滅するかもしれない。だが――」

僕は全員を見回した。

「僕は戦う。この街の『自由』を守るために。だが、君たちを巻き込むつもりはない。逃げたい者は逃げてくれ」

しばらく、沈黙が流れた。

そして――

「馬鹿なことを言うな」

ガルヴァンが立ち上がった。

「俺たちは、お前と一緒に戦う」

「俺たちの街だ。簡単に渡せるか」

グリムドールも頷いた。

「私も、研究を続けたいもの」

アリエルも笑った。

「僕たちは、自由を選んだんです」

ミレーユが言った。

「その責任を、果たします」

次々と、住民たちが立ち上がった。

僕は涙を堪えた。

「みんな……ありがとう」


第九章 独立戦争

魔王代行の軍が来た。

三千の兵。重装備の騎士、魔法使い、攻城兵器。

対する僕たちは、千人の民兵と冒険者。

「勝てるのか?」

誰もが不安を抱いていた。

だが、僕は確信していた。

「勝てる」

「なんで言い切れるんだよ」

ジェイクが聞いた。

「だって、僕たちは『自由』のために戦ってる。あいつらは『命令』で戦ってる。その差は、大きい」

僕は剣を抜いた。

「それに――僕たちには、『切り札』がある」

「切り札?」

「アリエル、例の『アレ』、完成したか?」

「ええ、ばっちりよ」

アリエルがニヤリと笑った。

「《魔導爆弾マークⅡ》。爆発範囲は半径百メートル。これを十発、用意したわ」

「十分だ」

僕は作戦を告げた。


戦いは、夜に始まった。

魔王代行の軍が、城壁に迫る。

「攻撃開始!」

魔法の砲撃が、城壁を揺るがす。

だが、僕たちは動じなかった。

「リリアーナ、結界を」

「任せて」

リリアーナが魔法陣を展開した。

「《水鏡の結界》」

城壁全体が、水の膜で覆われる。魔法攻撃が、弾かれる。

「なに?」

敵が戸惑う。

その隙に――

「ジェイク、行け」

「おう」

ジェイクと配下の盗賊団が、闇に紛れて敵陣に潜入した。

そして――

「爆弾、設置完了」

ジェイクの声が、通信魔道具から聞こえた。

「起爆しろ」

「了解」

次の瞬間――

「ドオオオオン!」

敵陣が、炎に包まれた。

魔導爆弾が、連鎖爆発を起こす。

「ぎゃああああ!」

兵士たちが逃げ惑う。

「今だ、突撃!」

僕は城門を開けた。

民兵と冒険者が、一斉に飛び出す。

「うおおおお!」

混乱した敵陣に、僕たちは切り込んだ。

僕は先頭で戦った。

剣を振るい、敵を斬り、蹴り、殴る。

「来い! 来い! もっと来い!」

僕の中の「獣」が、完全に目覚めていた。

だが――

「エリオット、後ろ!」

リリアーナの叫び。

振り向くと、巨大な騎士が迫っていた。

赤い鎧を着る《静寂の騎士》。ヴァレンシュタインの親衛隊長だ。

「反逆者、エリオット・ヴェンデル。貴様を討つ」

騎士の剣が、振り下ろされる。

僕は受け止めた。

だが、力負けする。

「くそっ――」

「エリオット!」

セレスティアの矢が飛ぶ。だが、騎士の鎧に弾かれる。

「無駄だ」

騎士が僕を押し込む。

このままでは――

「どけ、エリオット!」

ガルヴァンが割って入った。

「お前の相手は、俺だ」

「傭兵風情が」

騎士とガルヴァンが激突する。

僕は立ち上がり、周囲を見た。

戦況は――拮抗している。だが、長引けば不利だ。

「司令官を叩く」

僕は決断した。

「ジェイク、敵の司令部はどこだ」

「後方、天幕の中だ」

「行く」

僕は駆けた。

敵兵を掻き分け、斬り伏せ、踏み越えて。

そして――

「《静寂の侯爵》ヴァレンシュタイン!」

僕は天幕に飛び込んだ。

中には、黒いローブを纏った男がいた。

「ほう、貴様が反逆者か」

侯爵は冷たく笑った。

「若いな。だが、その目は――」

「うるさい」

僕は剣を構えた。

「お前を倒せば、この戦いは終わる」

「できるかな?」

侯爵が指を鳴らした。

瞬間、僕の体が動かなくなった。

「なっ――」

「《停滞の魔法》。時を止める魔法だ」

侯爵が近づいてくる。

「貴様は勇敢だ。だが、愚かだ。魔王の支配に逆らうなど――」

「黙れ」

僕は声を絞り出した。

「お前たちの『秩序』は、『檻』だ。人間を家畜にする、檻だ」

「家畜で何が悪い。安全で、平穏で、幸福だろう」

「つまらない」

僕は笑った。

「僕は、そんな人生、御免だ」

そして――

僕の中で、何かが弾けた。

「がああああああ!」

時が、動き出す。

「なに?」

侯爵が驚愕する。

「《停滞の魔法》を、破った?」

「祖先の血が、教えてくれた」

僕は剣を振るった。

「『檻』は、壊すものだって」

剣が、侯爵の胸を貫いた。

「……ぐっ……」

侯爵が崩れ落ちる。

「馬鹿な……人間如きが……魔王の代行を……」

「人間だから、勝てたんだよ」

僕は剣を抜いた。

「僕たちは、『自由』のために戦ってる。お前たちには、それがない」

侯爵は、何かを言おうとしたが――

そのまま、息絶えた。


司令官を失った魔王代行の軍は、総崩れとなった。

「勝った……勝ったんだ……」

兵士たちが歓声を上げた。

「エリオット様、万歳!」

「《自由都市》万歳!」

僕は疲労で膝をついた。

リリアーナが駆け寄ってくる。

「エリオット、無事!」

「ああ……なんとか……」

僕は笑った。

「やったよ、リリアーナ。僕たち、魔王代行に勝った」

「ええ、勝ったわ」

リリアーナは僕を抱きしめた。

「あなたは、英雄よ」


第十章 王への道

戦いの後、《ヴァルハラ》は独立を宣言した。

「《ヴァルハラ自由国》の建国を宣言する」

僕は、集まった住民たちの前で告げた。

「この国は、魔王の支配を受けない。人間が、人間のために、人間の手で統治する国だ」

歓声が湧き上がる。

「そして、僕――エリオット・ヴェンデルを、初代国王に推薦します」

イザベラが宣言した。

「賛成の者は、手を挙げて」

全員が、手を挙げた。

「反対の者は?」

誰もいない。

「では、決定です。エリオット・ヴェンデル、あなたは《ヴァルハラ自由国》の国王です」

僕は戸惑った。

「でも、僕はまだ二十歳だぞ……」

「年齢は関係ありません」

リリアーナが言った。

「あなたは、この国を作った。この国を守った。だから、この国を治める資格がある」

「……分かった」

僕は覚悟を決めた。

「僕は、《ヴァルハラ自由国》の国王、エリオット一世となる」

そして、戴冠式が行われた。


王になった僕は、忙しくなった。

国家の統治、法の整備、軍の編成、外交、経済――全てに関わらなければならない。

だが、僕には優秀な仲間たちがいた。

リリアーナは「宰相」に。 イザベラは「外務大臣」に。 ガルヴァンは「国防大臣」に。 ジェイクは「情報大臣」に。 グリムドールは「工業大臣」に。 アリエルは「科学大臣」に。

そして、セレスティアとミレーユは、僕の「后」として、宮廷を支えた。

「あなた、働きすぎよ」

ある夜、セレスティアが僕の部屋を訪れた。

「たまには、休まないと」

「でも、やることが多すぎて……」

「それでも、体を壊したら元も子もないでしょう」

セレスティアは僕をベッドに押し倒した。

「今夜は、私があなたを癒してあげる」

「ありがとう、セレスティア」

僕は彼女を抱きしめた。

「君がいてくれて、本当に助かってる」

「当然よ。私はあなたの女なんだから」

彼女は微笑んだ。


また別の日、ミレーユが手作りの料理を持ってきた。

「エリオット様、お夕食です」

「ありがとう、ミレーユ」

僕は料理を口にした。

「美味しい」

「本当ですか! 嬉しいです!」

ミレーユは満面の笑みだった。

「エリオット様、私、もっとお役に立ちたいんです」

「十分、役に立ってるよ」

「でも、私、リリアーナ様やイザベラ様みたいに賢くないし……」

「そんなことない」

僕は彼女の頭を撫でた。

「君の優しさが、僕を支えてくれてるんだ」

「エリオット様……」

ミレーユは涙を流した。

「私、エリオット様のために、一生尽くします」

「ありがとう」


そして、三年が経った。

《ヴァルハラ自由国》の人口は二万人を超え、領土は周辺八つの街を含むまでに拡大した。

他の《無法地帯》からも、「自由国家を作りたい」という動きが生まれ始めた。

魔王の支配は、少しずつ、揺らぎ始めていた。


第十一章 新たなる愛人と脅威

国王としての地位が安定した頃、僕の周りに更なる変化が訪れた。

「エリオット陛下、お初にお目にかかります」

謁見の間に現れたのは、異国の衣装を纏った褐色肌の美女だった。

名は、ファティマ。砂漠のアルザハラの王女だという。

「《アルザハラ》も、魔王の支配に苦しんでいます。どうか、同盟を」

「同盟?」

「ええ。《ヴァルハラ》と《アルザハラ》が手を組めば、魔王に対抗できる勢力になるわ」

僕は考えた。

砂漠の国との同盟。確かに、地政学的に重要だ。

「分かった。同盟を結ぼう」

「ありがとうございます」

ファティマは微笑んだ。

「そして、もう一つ」

「なに?」

「私を、あなたの妻にしてください」

僕は驚いた。

「なんで?」

「同盟を強固にするためです。政略結婚、とも言いますが――」

ファティマは僕を見つめた。

「私は、あなたに惹かれています。魔王に立ち向かう勇気、民を愛する心、そして――」

彼女は僕の手を取った。

「その目に宿る、野生の輝き」

僕は戸惑った。

だが、彼女の瞳には、嘘がなかった。

「……分かった。君を、妻として迎えよう」

こうして、僕の四人目の妻(愛人)が誕生した。


だが、平穏は長く続かなかった。

「エリオット陛下、大変です!」

ジェイクが血相を変えて飛び込んできた。

「《停滞の魔王》アスタロトが、直接軍を派遣するそうです」

「なに?」

「規模は……五万」

僕は息を飲んだ。

五万。僕たちの全戦力は、せいぜい五千。

「勝てるのか……?」

「正面からじゃ、無理だな」

ガルヴァンが渋い顔をした。

「籠城戦も、物資が持たない」

「どうする、エリオット?」

リリアーナが聞いた。

僕は考えた。考えて、考えて――

「僕一人が、魔王のもとへ行く」

「待って!」

リリアーナが叫んだ。

「それは、自殺行為よ!」

「でも、他に方法がない」

僕は彼女を見た。

「リリアーナ、もし僕が帰ってこなかったら、君が国を継いでくれ」

「そんな……」

「頼む」

僕は、彼女を、そしてみんなを抱きしめた。

「みんな、今まで、ありがとう」


第十二章 魔王との対面

僕は単独で、魔王の城へ向かった。

《停滞の城》。そこは、時が止まったような、静寂に包まれた場所だった。

城の周囲には、灰色の霧が漂い、全ての音が吸い込まれるようだった。生物の気配がない。鳥も、虫も、風さえも。

「よく来たな、エリオット・ヴェンデル」

玉座に座るのは、《停滞の魔王》アスタロト。

美しい、中性的な容貌。だが、その瞳には、無限の時間が宿っているようだった。

「貴様は、我が秩序を乱した」

「それが、何か?」

僕は臆さなかった。

「あんたの『秩序』は、人間を家畜にしてるだけだ」

「家畜で何が悪い」

アスタロトは冷たく言った。

「人間は愚かだ。自由を与えれば、争い、殺し合い、滅ぶ。ならば、我が支配下で、平穏に生きる方が幸せではないか」

「つまらない」

僕は言い返した。

「人間は、自由がなければ生きられない。争いもある、失敗もある、でも――それでも、自分で選んだ道を歩きたいんだ」

「愚かだな」

「愚かでも、それが人間だ」

僕は剣を抜いた。

「あんたを倒す。そして、人間の自由を取り戻す」

「ふふ……」

アスタロトが笑った。

「面白い。貴様の中の『血』が、叫んでいるな」

「え?」

「貴様の先祖――『血塗れのヴェンデル』。我も知っている。かつて、我に反逆しようとした男だ」

僕は驚愕した。

「先祖が……魔王に?」

「だが、力及ばず、敗れた。その血が、貴様に流れているのか」

アスタロトが立ち上がる。

「ならば、貴様の『挑戦』、受けて立とう」

瞬間、世界が静止した。

「《完全停滞》」

僕の体が、動かない。時間が、止まっている。

「これが、我が力だ。時を止め、全てを『停滞』させる」

アスタロトが近づいてくる。

「貴様も、ここで止まれ。永遠に」

ダメだ。このままでは――

「がああああああ!」

僕は叫んだ。

逆撫でされて昂った血が、沸騰する。

「檻は、壊す! 鎖は、断つ! それが、ヴェンデルの血だ!」

時が、動き出す。

「なに?」

アスタロトが驚く。

「二度目か。人間が我が《停滞》を破るのは」

僕は剣を振るった。

だが――

「遅い」

アスタロトの手が、僕の剣を掴んだ。

「貴様は確かに、並の人間ではない。だが、我には遠く及ばぬ」

そして、僕は吹っ飛ばされた。

「ぐはっ――」

壁に叩きつけられる。

「これで、終わりだ」

アスタロトが手を翳す。

魔力が、収束する。

死ぬ――

その瞬間。

「エリオット!」

声が響いた。

リリアーナ、ガルヴァン、イザベラ、セレスティア、ミレーユ、ファティマ、ジェイク、グリムドール、アリエル――

みんなが、城に飛び込んできた。

「なんで……」

「馬鹿ね、あなた一人で行かせるわけないでしょう」

リリアーナが涙を流しながら笑った。

「僕たちは、仲間でしょう」

ガルヴァンも笑った。

「一緒に、戦います」

みんなが、剣を、魔法を、武器を構えた。

僕は泣きそうになった。

「みんな……ありがとう……」

「さあ、魔王を倒しましょう」

リリアーナが手を差し伸べた。

僕はその手を取った。

そして――

「行くぞ、みんな!」

僕たちは、魔王に挑んだ。


第十三章 血の限界

戦いは、熾烈を極めた。

魔王の力は、圧倒的だった。

「《停滞の牢獄》」

アスタロトが指を鳴らすと、ガルヴァンの動きが止まる。

「くそっ――動けねえ!」

「《時の逆行》」

アリエルが投げた錬金爆弾が、投げる前の状態に戻る。

「なに?」

「貴様らの攻撃は、我には届かぬ」

アスタロトは余裕の表情だった。

だが、僕たちは諦めなかった。

何度倒されても、立ち上がった。

仲間が傷つけば、庇い合った。

「エリオット、私の魔力を!」

リリアーナが僕に魔力を注ぐ。

「イザベラ、あなたも!」

「了解!」

四人の后たちが、僕に魔力を送り込む。

「これが、僕たちの絆だ!」

僕は再び剣を握った。

「今だ、エリオット!」

リリアーナの魔法が、魔王の動きを一瞬止めた。

「終わりだ、アスタロト!」

僕は剣を振り下ろした。

祖先から受け継いだ、ヴェンデルの血の全てを込めて。

「《血の断罪》!」

剣が、魔王の胸を――

「浅い」

アスタロトは、剣を指で止めた。

「なっ――」

「良い攻撃だった。だが、まだ足りぬ」

アスタロトが手を振るう。

僕たちは全員、吹き飛ばされた。そこに、アスタロトが召喚した巨大な魔王騎乗竜の魔物も2匹現れた。

「がはっ――」

もう、限界だ。魔力も、体力も、全て使い果たした。

「これまでか……」

僕は立ち上がろうとしたが、体が動かない。

「エリオット……ごめんなさい……」

リリアーナが泣いている。

「いや、君のせいじゃない」

僕は笑った。

「僕が、弱かっただけだ」

アスタロトが近づいてくる。

「貴様らは良く戦った。その勇気を称えよう」

「だが、ここで終わりだ」

アスタロトが手を翳す。

終わる――

その時。

「待て、アスタロト」

新たな声が響いた。

城の奥から、光が溢れ出す。

そして、現れたのは――

一人の老人。

白い髭、白い髪、だが、その瞳には力強い意志が宿っていた。

「貴様は……」

アスタロトが初めて、驚きの表情を見せた。

「《賢者》グランドマスター……なぜ貴様がここに」

「久しぶりだな、アスタロト。お前の『停滞』も、相変わらずだ」

老人――グランドマスターは、僕たちを見た。

「若者たち、よく頑張った。だが、今はここまでだ」

「あなたは……」

「私は、かつて七大魔王と戦った《賢者》だ。今は隠遁の身だが――」

グランドマスターは杖を構えた。

「この若者たちの『意志』を見て、再び動く時が来たと悟った」

「《賢者》風情が、我に勝てると思うか」

「勝てるかどうかは、やってみなければ分からん」

グランドマスターが杖を振るう。

「《時空の断絶》」

瞬間、城全体が光に包まれた。

「貴様――」

「若者たちよ、今のうちに逃げろ。魔王との戦いは、まだ早い」

「でも――」

「良いから行け! お前たちには、まだやるべきことがある!」

グランドマスターが叫んだ。

「この世界を変えるのは、お前たちだ。魔王を倒すのも、お前たちだ。だが、今じゃない」

「分かった……」

僕は仲間たちを連れて、城から逃げ出した。

後ろで、魔王と賢者の戦いが始まる。

光と闇が激突し、城が揺れる。

「グランドマスター……」

僕は振り返った。

「必ず、戻ってくる。必ず、魔王を倒す」


エピローグ 始まりの終わり

《ヴァルハラ自由国》に戻った僕たちは、深い無力感に襲われた。

「負けた……」

ガルヴァンが呟いた。

「いや、生きて帰れただけマシだ」

ジェイクが言った。

「でも、次はどうする? 魔王は、また軍を送ってくるぞ」

「その前に、僕たちは強くなる」

僕は拳を握りしめた。

「もっと強く。もっと賢く。そして――」

僕は仲間たちを見た。

「もっと、仲間を増やす」

「仲間?」

「そう。七大魔王に対抗するには、僕たち一国では無理だ。他の国々と同盟を結び、共に戦う仲間を増やす」

イザベラが頷いた。

「その通りです。私も、各国への外交を強化します」

「アリエル、君は更なる兵器の開発を」

「了解よ」

「グリムドール、武器の量産を」

「任せとけ」

「ジェイク、各国の情報を集めてくれ。特に、魔王に反感を持つ勢力を」

「おう」

「ガルヴァン、軍の訓練を強化してくれ」

「当然だ」

そして、リリアーナ。

「君は、僕の側で、僕を支えてくれ」

「当たり前でしょう」

彼女は微笑んだ。

「私たちの戦いは、まだ始まったばかりよ」

僕は窓の外を見た。

街には、人々の笑顔が溢れている。

自由を手に入れた人々の、輝く笑顔。

「そうだ。まだ、始まったばかりだ」

僕は決意を新たにした。

「七大魔王を倒す。そして、この世界を、本当の『自由』で満たす」


その夜、僕は城の屋上に立った。

星空が美しい。

「爺さん」

僕は呟いた。

「俺、まだ負けてないよ。魔王には勝てなかったけど、諦めてない」

風が吹く。

「俺の血は、『停滞』を許さない。『檻』を許さない。だから――」

僕は拳を握りしめた。

「必ず、勝つ。必ず、自由を勝ち取る」

背後から、足音。

振り返ると、リリアーナが立っていた。

「一人で何してるの?」

「ちょっと、考え事」

「そう」

彼女は僕の隣に立った。

「エリオット、私たち、これからどうなるのかしら」

「分からない。でも――」

僕は彼女の手を握った。

「君がいる限り、僕は戦える」

「馬鹿ね」

リリアーナは涙を流しながら笑った。

「私も、あなたがいる限り、戦えるわ」

二人で、星空を見上げた。

遠い、遠い星々。

そこには、まだ見ぬ世界が広がっている。

そして、僕たちの戦いも、まだ続いていく。


《第1巻 完》


次巻予告

《停滞の魔王》アスタロトとの戦いに敗れたエリオットたち。だが、彼らは諦めない。

新たな仲間を求めて、エリオットは大陸を巡る旅に出る。

そこで出会うのは――

《炎の女王》《氷の騎士》《影の暗殺者》

そして、七大魔王の一柱、《破壊の魔王》バルバトスの脅威。

エリオットの「血」が、更なる覚醒を遂げる!

《第2巻 炎と氷の盟約》――近日公開!

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