表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

『桜川、白妙の梨 〜過ぎゆく季節と、止まらぬ流れ〜』第2話:運命の歯車

偶然の故障が、隠されていた過去の扉を叩きます。

ある午後のことだ。商店街を歩いていた僕は、古い店と店の間に、天へ伸びるような不思議な階段を見つけた。茶と白の配色に誘われ三階まで登ってみると、そこには小さな英語教室があった。

「こんな場所があったのか……」

 新しい街の表情を見つけた心地よさに浸りながら階段を降りると、前方にあの赤い自転車が止まっているのが見えた。  しゃがみこんでチェーンを覗き込み、困り果てているのは――『ピョコさん』だった。

「こんにちは。どうかしたの?」 「あ、こんにちは……。あの、チェーンが切れちゃって」

 僕は友人の鈴木に連絡を入れ、修理を頼んでやった。  高級なサイクリングバイクに乗って現れた鈴木が手際よく作業を進める間、彼女は少し改まった様子で僕に向き直った。

「あの……。私の名前は、尾島沙織といいます。よろしくお願いします」 「僕は片瀬俊夫です。こちらこそ、よろしく」

 作業を終えたあと、三人でガラス張りのオープンカフェに入った。  コーラとチーズケーキを前にした沙織さんは、陸上部であることや、将来は医学部を目指していることを話してくれた。  僕は、彼女の顔をじっと見つめていた。  丸顔に、意志の強そうな濃い眉。話を聞くとき、瞬きをせずに相手を見つめ、節目ごとに小さく頷く仕草。

(誰かに、似ている……)

「尾島さん。お母さんは、音楽の先生をしていませんか?」 「えっ……はい。母は絵里子と言います。どうして……」

 その瞬間、心臓が大きく波打った。十三年。一度も忘れたことのない名前。  僕は震える指先で名刺を差し出した。

「お母さんに、電話をほしいと伝えてもらえるかな。昔、一緒に演奏をしていた者だと」


忘れもしない「絵里子」という名前。俊夫の心臓の鼓動が聞こえてくるような幕切れです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ