第1話 追放と再出発
レミリアは灰色の闇のヒーラーとして、今日もダンジョンの入口に立っていた。
薄暗い洞窟の空気は冷たく、湿った土の匂いが鼻をつく。
彼女は小さな手で杖を握り、仲間たちの戦いを見守った。
「ガバス、行くぞ!」
リーダーの声が響き、剣を振るう音が洞窟に反響する。
ルドルフの盾が光を反射し、メルーが炎の魔法を放つ。
アレシアは影のように敵の背後に回り、鋭い短剣を振り下ろす。
レミリアは杖を構え、「ヒール!」と呪文を唱える。
だが、回復魔法は小さく、仲間の傷をほんの少し癒すに過ぎなかった。
彼女は心の中でため息をつく。
「これじゃ……私、役に立たない……」
日本から異世界に転生したとき、レミリアは自分のスキルを理解していた。
「ヒール」は回復魔法で、「倍率」は次の魔法の威力を増幅する。
しかし、この世界の魔力の扱い方や戦闘の速度に慣れていなかったため、
思った通りの効果を出せないでいた。
敵の攻撃がルドルフの盾に跳ね返され、アレシアが身をかがめる。
メルーの魔法が炸裂するが、倒しきれない敵が一体残った。
「レミリア、回復!」ガバスの声に振り返るが、
呪文を唱えても小さな光が仲間をかすめるだけだった。
その時、ガバスが剣を置き、眉をひそめた。
「もういい、レミリア。君はここでは役に立たない。」
レミリアは言葉を失った。
「え、でも……」
言葉が喉の奥で詰まる。仲間の視線が重く、体が震える。
「君は追放だ。明日の朝までに荷物をまとめろ。」
ルドルフがうなずき、メルーも無言で同意した。
アレシアだけが、少しだけ目を伏せていた。
レミリアは震える手で杖を握り直す。
夜が明けるまで、洞窟の中で一人静かに涙を流した。
しかし、涙と同時に決意も湧き上がる。
「私は……まだ諦めない。」
スキルはまだ使いこなせていない。仲間に認められる方法も、力を証明する方法もある。
翌朝、レミリアは荷物をまとめ、灰色の闇の拠点を後にした。
隣町の冒険者ギルドを目指す道は、石畳の道が続く小さな村を抜け、
広い森を越えていく険しい道のりだった。
ギルドに到着すると、受付の女性が目を細めて見た。
「新人か。ヒーラーは需要があるが、戦力になるかは別だぞ」
レミリアは小さくうなずき、冒険者登録用紙に名前を書いた。
「レミリア・ミナト……よろしくお願いします」
受付は紙を確認すると、薄く微笑んで登録を完了させた。
しかし、ギルド内の噂はすぐに耳に入る。
「ヒールが弱いヒーラーがFランクから始めるらしいよ」
「仲間に入れてもらえないだろうね」
その言葉に、レミリアの胸は少し痛むが、決して屈しなかった。
「わたしは……必ず強くなる」
杖を握り直し、ギルドの広間で声に出す。
小さな身体に力を込め、未来の冒険を想像する。
「次は……必ず仲間を守るんだ」
村の外では、朝日が森を照らし始める。
光に包まれた道を、レミリアは一歩ずつ進む。
まだ弱く、孤独だが、それでも歩みを止めない。
異世界で生き抜くため、そして自分だけの力を見つけるために。
杖の先に小さな光を灯す。
それは、彼女の小さな希望の光でもあり、これからの冒険の始まりを告げる光だった。
レミリアの物語は、ここから本格的に動き出す――。




