4 罪人ルクシアの護送
「さっさと乗るんだ、偽聖女!」
雲ひとつない晴天の日、ルクシアは馬車にひとりで乗せられた。
馬車といっても荷台に牢屋を乗せたかのような、逃げられないように作られた護送馬車だ。
同室の金髪女性はいったいどんな罪を犯していたのかは、結局聞かずじまいであった。
ゲームのルクシアならば遠慮なく聞いたのだろうが、現在のルクシアには無理だった。
見せしめ的な目的もあるだろう、護送馬車に乗せられている人間は歩道からもよく見える。
ぼさぼさの髪で薄汚れた麻服のルクシアを見た人たちは、怒りの言葉、心ない言葉、卑猥な言葉、侮辱する言葉をルクシアに投げつけ、嘲笑った。
護送馬車が沿道に停まった。
人々は「おおー!」と感嘆の声をあげている。
ルクシアが前方を見ると、道の真ん中を王家の旗を掲げた白馬の騎士たちが先導し、レイナード王太子とその婚約者ソフィアを乗せた婚礼の馬車が進んでいた。
「いやはや凄いねえ、まさにアルセイン王国の栄光を象徴する行進ってやつだ」
護送馬車の近くにいた男性が言うように、その行進は優雅さと威厳が見事に合わさっていた。
屋根も幌もない馬車は金と白で華やかに装飾されている。玉座のような座席にこれから大聖堂で永遠の愛を誓う2人が並んで座り、沿道の民たちがその姿を見守っている。
王太子の馬車は護送馬車の横を通り過ぎる。
その瞬間、自分を見ていた王太子とソフィア……2人とルクシアは目が合った。
軽蔑の目で自分を見ていた王太子の隣に座っているソフィアの唇がわずかに上がるのを、ルクシアは見逃さなかった。
──あれが「真の聖女」の笑み?
ほんの一瞬だったがわかった。それはまさに“邪悪な勝者の笑み”だった。
ルクシアは完全に悟った……ソフィア黒幕説は正しかったということに。
──ああ、そっか、あの男は本物の愚か者なんだ。
元のルクシアが愛していた王太子は、無知で天然ぶった性悪女に簡単に騙される、愛の言葉だけ上手なただの軽薄な男。
自分は濡れ衣を着せられ断罪されてしまったが、あんな男と結婚しなくて済んだのは、それはそれで良かったのかもしれない……ルクシアはそう、思うことにした。
王太子の馬車が去り、護送馬車はまた動きはじめた。
ルクシアは気になることがあったのでAIと話すことにした。
AIのことはモグと呼んでいた。
《モグ。この馬車はどこに向かってるか分かる? 逃亡や妨害防止のためと言われて教えてもらえなかった》
《魔法紙に記された記録によると、マリット村という場所が目的地のようです》
《魔法紙って? ゲームには出てきてないけど》
《ノベルゲーム『ラピスガーデンの聖女』の公式HPにも攻略サイトにも魔法紙に関する記述は発見できませんでした。魔法紙に書かれた情報は特殊な魔道具を使いどこからでもアクセスできます。本来はアクセスには番号……URL的なモノが必要ですが、ワタシは自由にこの世界にある全ての魔法紙の情報を調べられます》
魔法紙はインターネットと少し似ていた。
そういえばゲーム中に「ちょっと助けにくる時間が早すぎない? どうやって連絡したんだろう?」と思ったイベントがあったが、もしかしたら魔法紙を使っていたのかもしれないとルクシアは思った。
《マリット村までは、どのくらい時間かかるの?》
《道の脇に見える杭や並木に注目してください。一定間隔で並んでいるため、通過速度から移動距離の推定が可能です》
ルクシアは言われた通りに外を眺めた。
その視点の高さは自分を罵倒する人々と目が合い、あまり気分のよいものではなかった。
《魔法紙の地図により目的地までの直線距離は約210キロメートル。地形補正を加味し、実際の走行距離はおよそ230キロメートルに及ぶと推定されます。使用馬車の平均巡航速度を基に、標準的な休憩・宿泊を含めた所要日数はおよそ5日間となります》
この振動がひどい馬車に5日間も乗るのかとゲンナリするルクシアだったが、MOGのおかげで自分がどこに向かっていて、どのくらいかかるのかが判明して多少気が楽になった。
──あーそれにしても、あんな男を子供の頃からずっと想い続けて、最後は自殺しちゃうなんて……私ってバカみたいだわ。
──え? あれ?
王太子とソフィアのふたりと目が会った時から、彼女には妙な感覚があった。
──もしかして、元のルクシアの意識が……記憶が……私に混ざってきてる?
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