10 流刑の村に到着
護送馬車は川沿いの小さな村に到着した。
「ご馳走させて欲しい」とロレンツォが言い、この夜は村の食堂で食事をとることになった。
本当なら許されてはいないのだが「最後くらい、まともなものを食べてもいいだろう」と御者のオリバーが許可してくれた。
明日は王都を出発してから5日目……目的地に到着する予定日だった。
ルクシアは、MOGの情報によってマリット村に行くことはわかっている。
しかしその村は辺境にあるというだけで、それ以上は何もわからなかった。
マリット村で自分にはどんな生活が待っているのか……オリバーはそれなりに知っているはずだが言葉を濁すその雰囲気から、ルクシアはなんとなく察した。
──2人とも、そこでお別れなのね。
暖かい料理をルクシアはゆっくりと味わいながら食べた。
スプーンを口に運ぶたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられるようだった。
ロレンツォは目が合うとにっこりと微笑んでくれて、ルクシアは涙が出そうになるが必死に堪えた。
翌日の午後……護送馬車が、ゆっくりと最後の坂を下った。
開けた視界の先には、どんよりとしたくもり空の下、寂れた村がひっそりとそこにあった。
マリット村だ。
辺境とは聞いていたものの、ルクシアが想像していた以上だった。
畑は一応耕されているようだが、あちこちに廃屋が点在している。
人が住んでいる建物も、屋根に穴があいていたり、壁の一部が崩れていたりするものばかりだ。
中心部には村役所とおぼしき建物があり、その前に立つ数人の男たちが護送馬車を見つめていた。
「……あれが“番人”だ。罪人の管理と記録を担当してる。もし脱走なんてしようものなら……」
番人を見ながら話す御者のオリバーは、その先は黙ってしまった。
ロレンツォは、眉をひそめて村を見渡している。
「……率直に申し上げて、暮らしやすい場所とは言えませんね」
馬車が停まり、ルクシアが地に足を下ろした瞬間、背筋にひんやりとした風が吹き抜けた。
番人の男が帳面を持って近づいてきて手続きが淡々と行われる。
村の南端にある「罪人居住区」が、これからルクシアが暮らす場所だとわかった。
ルクシアの家まで同行しようとロレンツォが一歩を踏み出そうとしたとき、番人の男が静かに言った。
「申し訳ありません。ここから先、外部の方の立ち入りは許可されていません」
ルクシアは振り返って、少しだけ笑った。
「……ありがとうございました。偶然知り合っただけなのにここまで来てくださって。あの……心細さがかなり紛れましたわ。それでは……」
「ルクシア様……お伝えしたいことがあります」
ロレンツォが「罪人居住区」に踏み入ろうとするルクシアの足を止めた。
その後ろでは、オリバーがそっぽを向いて煙草をくゆらせている。
「僕はあなたが罪人には見えない。短い期間でしたがあなたとご一緒してそう思いました。もちろん冤罪だって証拠があるわけじゃない。でもね、僕の目はこれまで、僕を裏切ったことがないんですよ」
そう言われたルクシアは嬉しかった……そう、彼女は冤罪だ。
しかしそれを証明することなんてできなかった。
「栗原凛奈がやったゲームの記憶とネットの考察でソフィアが仕組んだ罠に気がついた」なんて話をしたら、頭がおかしくなったと思われてしまうだけなのをルクシアはわかっていた。
「ルクシア様。僕はあなたをここにずっと置いておくつもりなどありません。けれど今はその時ではありません…………時がくれば、きっとあなたを迎えに来る者が現れるでしょう」
ロレンツォは、優しげに目を細めた。
「それが僕であると願っても、構いませんか?」
ロレンツォはその場限りの“ぬか喜び”させる言葉を使う人間ではないのを、ルクシアはよく知っている。
しかし王家が決定したことに対し、誰も何もできるはずがない。
ましてや彼は、香料商を営む家の息子だった……。
ルクシアは自信ありげにも見える彼の真意が掴めなかった。
ロレンツォに何かを言いたかったが、言葉が頭の中でぐるぐると回り、まとまらない。
そして番人に肩を叩かれた……もう時間だった。
「では……いってきます」
ルクシアは一人、足元の泥を踏みしめながら、居住区の中へと歩き出した。
背筋を伸ばして気丈に振る舞ってはいたが、その肩はほんの少しだけ、震えていた。
次回は、王太子視点の回となります。




