STAGE1
私は格闘ゲームが好きです(前もこんな事書いたな・・・)。
異能力学園モノのつもりです。その異能が格闘ゲームキャラクターのような能力だったら、ということをヒントに考えました。
19☓☓年、7の月。
かつて世界が終末思想で騒がれていたあの頃。その人種は突如として世界中に姿を現した。
ある者は鉄をも砕く腕力を。ある者はビルを易易と飛び越える跳躍力を。車の突進力すらをも受け止める、強靭な鋼の肉体を持つ者も現れた。
所謂超人的な能力を持つ存在が、世の中に溢れ始めた。
その超人たちは、その力故に筋肉で膨れ上がっている訳でも、素肌が緑色をしている訳でもなく、ごく普通の姿をしていた。
ただ、その数は多種多様。
男女関係なく、子供や老人に至るまで。全人類の1割程度がその超人的な能力を開花させていた。
曰く、これから来る世界を揺るがすとてつもない戦いのためだとか、宇宙から飛来する異星人に対抗する手段だとか、様々な学者や研究者が色々な説を提唱した。
結論としては、世界はそんな危機に瀕すること無く、日常は普通に、緩やかに過ぎていった。
なので、その超人たちは特に世界の命運を揺るがす戦いに身を投じる、なんてこともない訳で。
それから数十余年。
超人たちの能力は、全く別の形で花開くことになる。
テニスコートほどの広さの長方形の枠内に、ふたりの影が対峙している。ひとりは制服姿の女子。もうひとりは男子だが、何故か柔道着を身に纏っている。
そのコートの周囲には、観客のように無数の学生服姿が群がっていた。
応援の熱気は凄まじく、顔を真っ赤に捺せながらこぶしを突き上げている者もいれば、旗代わりに学生服の上を振り回している者もいる。一体何のお祭りか、というくらいの熱狂がコートを取り囲んでいる。
熱狂の中心部。ふたりの生徒の名が飛び交うそのフィールドは興奮のるつぼと化していた。
『さあ!間もなく試合が始まろうとしています!』
コートの上空に円盤状の台座が浮遊し、そこに別の女子生徒が立ち、小指を立てたマイクに熱気に負けない言葉を投げつけている。
フライングディスク。通称FDと呼ばれる、撮影を兼ねたカメラ有する機械の、空飛ぶ円盤。そこに実況を担当する女子生徒が立ち、開戦までを盛り上げる。
FDからの眼下では。
男子は身長は180はあるだろうか。背丈だけでなく、身体も筋肉質の物で引き締まっている。柔道着を着込んでいるのは伊達ではなさそうだ。・・・これが普通の柔道の試合ならば、の話だ。
一方、女子生徒は、対峙する男子よりも遥かに背丈は小さい。言い過ぎではないのなら、感覚的には柔道着姿より半分に見える。
高校生にしては童顔。身長は150前後。下手をすれば小学生。いいとこ中学生。
腰の先、ヘタをすれば地面に刷り付きそうなくらいの長い髪を後ろで結い、束ねた房が竜の尻尾のように揺れている。
制服の上にパーカーを羽織り、スカートから覗く足には黒い布地で覆われている。
喧嘩にしては一見不利な体格差。試合としても、まるで勝利を捨てているような組み合わせだ。
『両者共期待の新星、1年生!まずは男子!』
フィールド上空に映し出されたホログラムのヴィジョンには、コートに立つ両者の写真と共に、データが羅列してある。
『1年2組、三杉浩司くん!柔道で慣らした生粋のパワーファイターだが、それが果たしてこのエクストリームファイトで通用するのかっ!』
次いでヴィジョン上のピントが女子生徒に合わさり。
『対するは1年1組、犬崎恋さん!その小さな身体に、どれだけの力が秘められているのか、見ものです!』
FDがフィールド上空に位置を構える。
『レディ』
電子音声がフィールドに響き渡り。ボルテージが1段階、上昇する。
「犬崎さぁん!頑張ってぇっ!」
外野から少女を呼ぶ声。だが、声の方に一瞥すること無く、前方の男子使徒を力強い目で見据え、構えている。
『さあ、一瞬の緊張!両生徒見合って・・・!』
空を回遊するFDから、実況の女子生徒のマイクを握る手が一際強まり。
『ファイト』
開戦の合図が鳴り響いたのと同時に、仕掛けたのは女子の方だった。
三杉はそれを迎え撃つかの如く、両の手を広げ、構える。
スカートを翻しながら、恋のハイキックが一閃。小柄で足もか細いが、鋭さと勢いによって加速したそれは、まともに喰らえばタダでは済まない鋭さで空を切る。しかし、三杉はそれをガードしようともしない。
緩やかに手の広げているのみ。それはおおよそ防御態勢とは思えない姿勢で。恋の足先が男子の目の前に届く瞬間。女子生徒の足の長さを超える腕が伸び、三杉の五指が蠢く。そして、相手の足首を容易く掴む。
いや、正確には掴んでいない。三杉の無骨な手のひらは、開いたままの形で恋の足首に吸い込まれるようにくっついた。
恋の見開かれる目。しかし、その逡巡もわずかの間。そのまま足を押し込もうとする。
だが、それよりも先に恋の身体が宙に浮く。地から足先が離れる浮遊感。
三杉は、その手に何も持っていないかのような軽やかさで片手で持ち上げられそうな小さな身体を操り、投げつけた。その手に持つのがまるで野球のボールかのように、恋の身体が放物線状を描き、宙を泳いだ。
あわや地面に激突、という瞬間、空中で恋の身体が回転し、ざざ、と砂を掻きながら着地。スニーカーが砂を噛む。その華麗な一連の動きに、周囲が簡単の声で満ちる。
恋はぐっ、と足を踏みしめ、反動で駆け出す。
三杉の胸元に向かって、先の蹴りに引けを取らない速度のパンチを打ち込む。
薄い笑顔を浮かべ、またもや三杉の手のひらがそれを受け止める。
攻撃の手応えが、雲を突くようにまるでない。逆に、接着剤でくっついたかのように離れない。
今度は、三杉はそのまま恋を後方へと引っ張り、そのまま投げ飛ばす。またもや恋はくるくると空中で猫のように回転し、勢いを殺しつつ、着地。
なかなかやるな、と言わんばかりに、三杉は笑って見せる。
『三杉くんのバトルスタイルは、柔道経験者であることを生かした数々の投げ技を使いこなす生粋の投げキャラ!そこへ相手の打撃を受け流す返し技も完備し、死角なし!これを犬崎さんはどう攻略するのかぁっ!』
自身の能力を解説されてなお、三杉は焦ること無く構えを見せ、恋を向かい受け立つ。
「実況と重複するが、俺の能力は相手に触れること無く捕縛する。まるで相手が俺に吸い込まれるようにな。これほど俺と相性のいい能力はねえだろ?」
そう言いながら、三杉は柔道家の名残らしい、襟元を正す動作。
「能力の解説、どーも」
女子生徒、犬崎恋は三杉の言葉に臆することなく、怯むこともなく構えを解かない。むしろ、闘志がみなぎるがごとく、口元に笑みを浮かべる。
「それだけじゃないぜ!」
三杉が吠えると、何を思ったか、自分の指を地面に突き立てた。文字通り、三杉の右手五本指が全て地面に沈みこんだのだ。
「いくぜっ!」
ずずっ。
小さな地鳴りを感じる。
「畳返しぃっ!」
三杉が高らかに叫ぶと、地面に亀裂が入る。突き立てた指を支点として、まさに畳のように、1畳分の地面がめくれ上がった。
「そりゃあっ!」
そして、それを思い切り引き上げると、巨大な土の板が宙を舞う。
緩やかな放物線を描その板は恋を襲うが、それを軽やかにバックステップで躱す。どごんっ、と音が響き、重量だと分かる板が砕ける。こんな物が直撃したら、普通の人間はタダでは済まないだろう。
「もう一丁!」
今度は左手の指を突き立てた三杉は、力任せにグラウンドを掘り起こす。先程同様、畳1畳分の土の板が飛んでくる。
恋は今度は引かず、あえて前方と突き進む。頭上に土の板を感じながら。
だが、三杉の姿を自分の射程圏内に追い詰めたと思った瞬間、恋の身体が宙に浮く。それが三杉により持ち上げられていたことに気付いた時には、もうすでに視界は空の色だった。
かと思えば、重力により下に引き寄せられる感覚。刹那。
「おごっ!」
恋の身体に凄まじい衝撃が走った。
上空に放り投げる巴投げからの、相手を追いかけるジャンプからの一本背負い。
「二段!ツバメ返しっ!」
高らかに技名を叫ぶ三杉。
恋は珍妙なうめき声を上げ、無様にも上半身を地面に埋めた。
うおおおおおっ!
外野の熱気がさらに加速する。
恋は、地面から」顔を引き抜くと、額に手を添えながら頭を振る。空中から数メートル下の地面に叩きつけられてなお、そんなダメージは無かったかのように立ち上がる。
「投げキャラなのに、飛び道具使いかよ」
恋は心底面倒くさそうに表情を歪めた。
「まだまだいくぜえっ!」
三杉は、3度目の畳返しを発動。グラウンドに、3つ目の長方形の穴が生まれる。このままではグラウンドは運動に適さない状態になるだろう。
「だったら!」
今度は恋が吠えた。恋と三杉までの距離は数メートルはある。ここでまた距離を詰めても、また返される可能性が高い。
三杉もそれが分かっているからこそ、緩やかな構えを崩さない。飛び道具を放ってからの対応に心血を注ぐ。
『三杉君!これは!『待ち』の体勢だあっ!』
実況が高らかと吠える。
だが、不思議と周囲からそのバトルスタイルを糾弾する声は飛んでこない。
恋が選択するのは、考え無しの突進ではない。
恋は振り上げたこぶしを。
「おらあっ!」
地面に突き立てた。
「ドッグ・ランっ!」
赤く、だが熱を放つ炎ではない。しかし、燃えるような緋色の波動が地面に膨れ上がる。
「っ!?」
ここで初めて三杉の顔に動揺が生まれた。
赤い波動がグラウンドを疾走する。まるで獲物を追いかける野生動物のような速度で。
コートの外の物見客も、恋の放った『必殺技』にボルテージが高まる。
これが、エクストリームファイトの真骨頂。
人知を超えた、技の応酬。
三杉の相手の体格に関係なく投げられる能力、地面の土を引き剥がす能力。
そして、犬崎恋の地を這う赤い波動。
『飛び道具には飛び道具!犬崎さんのドッグ・ランが炸裂ぅっ!』
実況の声と共に、赤い波動が疾走する。
三杉が初めて防御態勢を取る。
「ぐっ!」
ガードの上から、赤い光が食らいつく。
「もう一丁!」
先程のお返しと言わんばかりに、恋は2度目のドッグ・ランを放つ。獰猛さすら見える赤き輝きは、地面を突き進む。
今度は両手だ。三杉は十本の指で地面を引き剥がしにかかる。その速度をも増した動きで引き剥がした土は、もはや壁だ。
押し迫る赤光と衝突。土の壁が赤い光を受け止め、押し返す。畳1畳分ならば容易に砕けたであろう。質量の強まった土の壁が恋の側へと押し迫り、倒れて来る。壁の向こうで、三杉の勝ち誇ったような顔が見える。
『ああっと!犬崎さんの攻撃では、砕けない!』
大きく退くか、横に飛ぶか。このままでは土の壁に押しつぶされる。
恋が選んだのは、そのどれでもない行動。土の壁の全面が、圧迫感と共に押し迫るその時。
「うらあああっ!」
恋の絶叫と、渾身のパンチが飛び出す。そのか細い腕では、到底砕くどころか、押し返すことすら出来ないだろう。
「ドッグ・ファイトぉっ!!」
叫び、次いで左手でのパンチ。瞬時に右に戻る。そして、再度左のパンチへ。
目にも止まらぬ左右のこぶしでの連撃。比喩ではなく、目に見えぬほどの拳撃の嵐。
こぶしを打ち付けられる度、土の壁にその数と同じくくぼみが穿つ。
「うらあっ!」
ダメ押しの一撃で、壁は粉々に砕け散った。砕けた壁の向こう側に、驚愕に目を見開く三杉の顔が見えた。
それでも無数の人間の頭分のかけらがスローモーションのように空中に留まる中、恋は動く。
恋の振るった足先が、いびつな形の土塊のひとつを狙い澄まして、蹴り抜く。
弾丸のようなスピードを載せた土塊が、三杉に向かって飛んできた。
「うおっ!」
三杉の躱した土塊は遥か後方、観客席の方まで飛んでゆく。だが、それが観客に被害をもたらすことはなかった。
『あわや直撃!だが、セーフシールドに阻まれる!』
観客席を覆う薄い膜のようなものが土塊の直撃を阻んだ。
「あぶねっ!」
セーフシールドに直撃し、粉々に霧散した土塊に視線を奪われている間に、その行動が迂闊だと後悔した時には、もう遅かった。
視線を前に向ける。
相手の姿は視線の先にはない。
足元に殺気を感じ、目だけで見る。
そこには姿勢を大きく低くし、ニヤリと笑みを浮かべる少女が、腕を思いっきり後ろに引き絞りながら、子供っぽくも、爛々とした輝きをその目に宿していて。
それは、熱く、美しい。
少女の髪が大きくうねり、渦巻く。
ほんの数秒。その瞳に吸い込まれそうになった。囚われそうになった。
その逡巡が、三杉の思考を遅らせる。
恋の放ったボディブローが三杉の腹部に突き刺さる。
「・・・ぐっ、え」
180を超える長身の巨体が、浮く。そして一瞬、眼前に砂嵐が走り、意識が混濁する。
ありえない。
身長が自分に大きく満たない女子だぞ。
腕も、足も、恐ろしく細い。およそ格闘技には向かない体躯だ。
しかし、目はどんな相手だろうと打ち負かす戦士のそれだ。
体格差?なんだ、それは。そんな物がなにか障害になるのか?
そんな言葉さえ聞こえてくる。
パンチを振り抜き、その勢いのまま、赤い光を纏った回し蹴りが三杉に叩き込まれる。
先程の土塊と同じく、凄まじい速度で180の身体が宙を疾走し、地面に激突。バウンドを1回、2回。
グラウンドが砂煙を撒き散らし、目を白くさせた三杉は、首を曲げたまま動かなくなった。
空中のヴィジョンに、3カウントが表示される。それがゼロを示した瞬間。
『三杉くんの戦闘不能を確認!この瞬間、犬崎さんの勝利でぇす!』
それに呼応するように、観客席の見物客のテンションを燃え上がらせる。
恋は、勝利を誇示するように、片手を空へと突き上げた。
エクストリームファイトは、男でも女でも、子供でも老人でも。誰もが勝者となりうる可能性がある。
それが、誰もが平等に戦える、新時代のエンターテイメントである。




