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賢者?の贈り物

あれは結婚して間もない夏の夕暮れだった。

外は急に暗くなって黒く雲が垂れ込み、今にも土砂降りの雨が降り出しそうな気配だった。

僕が窓から空を見ていると妻から着信があった。

「お疲れ様。今、駅なんだけど何か買って帰るものあるかな?」

帰宅ラッシュなのだろう。妻の携帯から駅の雑踏が聞こえる。

「お疲れ様。買って帰るものは、・・・あ、いや、いいや、大丈夫。まっすぐ帰ってきて。」

僕は電話をしながら部屋のカーテンを引いた。

食料品や日用雑貨のストックは十分あったし、玄関の足元灯が先週から切れていたが、替えの電球は、また週末に買いに行けばいい。

僕は夕飯の支度を始め、気がつくと外は激しい雨が降っていた。

妻はまだ帰宅しない、駅からならとっくに着いているはずなのに。

妻は事象から思考を伸ばしていくことが非常に得意な反面、少し行動が突飛なところがある。

そんな妻の心配をしているとインターホンが鳴った。

僕が急いで玄関に出ると、そこには、鼻血を出し、ガラス片が入ったビニール袋を持った、ずぶ濡れの妻が立っていた。

とりあえず、熱いシャワーを浴びてもらい、鼻血の治療をした後、事情を聞くと、こういうことだった。

夫が「まっすぐ帰ってきて」と言ったのは、私が夕立に降られることを心配しているから。それは分かる。

では「大丈夫」と言うのは、何が「大丈夫」なんだろう?

「何か」がなくても大丈夫、きっとそういう意味だ。

では「何が」ないのか?

「まっすぐ帰ってきて」は寄り道をしなくていいという意味だから、駅と自宅の間にあり、少し寄り道をすることになる施設はドラッグストアで、あそこには、わずかに家電類も置いてある。

そういえば、玄関の足元灯が先週から切れていた。きっと「何か」は電球だ。

そう思考を伸ばし、電球を購入したあと、豪雨に打たれ、ダイナミックにこけた。

「思考の伸びはすごいけど、危ないからまっすぐ帰って来て。」

僕は妻の髪をドライヤーで乾かしながら言った。

「あなたが私を心配してくれたことがよく伝わったから、私は私のあなたへの愛情を自ら示すためにドラッグストアに行く必要があったの。賢者の贈り物と同じ、自らの愛を自らの手で示す必要があるの。」

そう言うと妻は鼻にティッシュを詰めた状態で、にかっと笑ってお茶を飲んだ。

ティッシュの先端がお茶に浸かり、慌てて蒸せた妻の鼻からティッシュが発射されるのを見て、僕は妻の愛に心打たれ、この人と一生一緒にいようと改めて心に決めた。


「#一言で表せない感動」

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