開かぬ扉──スカルナの果てに
静まり返るスカルナ地下の通路。
まるで遺構そのものが、息を潜めて次なる来訪者を待っているかのようだった。
ユーリたちは、補給区画を後にし、アリエルの案内でさらに奥へと足を進めていた。
「ここが……地下空間への接続口です」
アリエルが淡々とした声でそう告げ、目の前の巨大な隔壁を指し示す。
金属質の扉には幾重もの錠前と認証装置が備えられており、その中央には淡い赤のリングライトが脈動していた。
「最深階層……ここから先に、何があるんだろうな」
ユーリが独り言のように呟いたその時、隣から小さな声が上がった。
「……ねぇ、ユーリ」
それはルシアだった。肩のあたりに浮かぶ粒子の姿は、いつもより少しだけ揺らいで見える。
「何だ?」
「……ユーリが人型の私を見て、がっかりしないかなって思って」
「え?」
「アリエルみたいに実体化できるのよ、私も。でも……スカルナの中じゃ、ちょっとタイミングが悪い気がして。だから、私も外に出たらにするわ」
ユーリはその言葉に思わず笑った。
「何言ってんだよ。がっかりするわけないだろ。……楽しみにしてるよ」
「ふふっ。じゃあ、期待に応えないとね」
短いやり取りのあと、アリエルが認証パネルの前に立つ。
「アクセスを試みます。演算キー:スカルナ・コア接続コード/ID:ALV-04付属認証にて照合」
ホログラムが広がり、複数の認証手順が高速で走査されていく。
やがて──
《ACCESS DENIED:AUTHORIZATION LEVEL INSUFFICIENT》
《扉は封鎖されています。追加認証情報が必要です》
機械的なアラート音と共に、赤いリングライトが一度だけ強く明滅し、静かに消えた。
「……ダメか」
ユーリが魔導書を取り出し、同じように端末にかざしてみる。
しかし、浮かび上がる文字列は同じだった。
次にセラが、長杖を構えてアクセスを試みた。
彼女のペンダントも淡く光を放ったが――結果は変わらない。
《ACCESS DENIED:AUTHORIZATION LEVEL INSUFFICIENT》
その事実に、誰もが息を呑んだ。
しばらくの静寂のあと、ユーリがそっと魔導書を閉じ、低く呟いた。
「……スカルナ遺構。今回は、ここまでだな」
ルシアも、アリエルも、何も言わずに彼の言葉を受け止めた。
セラは少し残念そうに、それでも前を向いて言った。
「でも……今はこれだけのものを得られたし。きっと、また来られるよね」
「ああ。絶対に、また来よう」
ユーリはそう約束するように言い、閉ざされた扉に最後の視線を送りながら、背を向けた。
――新たな力を手にした仲間たちと共に、静かに地上への帰還を始める。
それは、次なる旅への序章でもあった。




