訓練開始──遊びじゃない遊びをしよう
その夜、俺は布団の中でずっと目を閉じていた。
アネリスの言葉が、何度も頭の中で反響していた。
「──あなたの父さんも、母さんも、遺跡に関わって、命を落としたのよ」
「──もう、誰かの『代わり』にはなれないの」
彼女にとって、俺は「息子」であり、そして──「二度と失いたくない存在」なんだろう。
それは、痛いほどわかっている。
だからこそ、こんなふうに思ってしまう。
(……それでも、諦めきれない)
祖父の残した技術。Chat Form。ルシアの存在。
俺だけがこの世界でそれを“起動”できる。
そして──それは、ただの偶然じゃないはずだ。
(この力は、何かの意味があって俺に渡された)
そう信じたい。信じなければ──前世で孤独に死んだ意味すら、なくなってしまう。
「よし……強くなろう」
ぽつりと、自分に言い聞かせるように呟いた。
母を安心させるために。
自分自身がこの世界で生きていくために。
そのために、まずは──力が要る。
誰かに護られる子どもじゃなく、自分の足で立てる強さを。
翌朝、俺は裏山の小道にひとりで向かった。
村の子どもたちは、広場で鬼ごっこをして遊んでいる時間だ。
だけど俺は、その“遊び”を別のものに変えることにした。
「……訓練、開始」
口に出して言うと、自然と気持ちが切り替わる。
まずは昨日確認した“ガンスラッシュ”を取り出す。
収納カードを軽くスライドすると、青白い光が広がり、片刃の剣が現れた。
握った瞬間、手のひらが少しだけ熱を帯びる。
「重さよし。バランスも問題なし。じゃあ……素振りからだな」
草をかき分け、人目のつかない場所で──
俺の、“遊びという名の訓練”が始まった。