母の涙──遺跡に近づかないで
翌日、家の裏で朝食の後片付けをしていたとき、俺はふと思った。
(遺跡を探すって言ったら、……母さん、怒るだろうな)
昨日、祖父の装置を見つけ、異世界転生としては“無双”の道具を手に入れた。
でも、それを使って何をするのか──目的がなければ意味がない。
俺は決めていた。
「この世界の遺跡を探す」。
かつての科学文明──祖父のような技術者たちの痕跡を辿る。
けれどそれは、この村では“禁忌”に近い。
古代遺跡は「神々の墓場」とも呼ばれ、触れてはならないものとされていたからだ。
(理由が必要だ。説得できる……何か……)
悩んだ末に、俺は“嘘を混ぜた本音”で行くことにした。
「母さん……ちょっと、じいちゃんの家にまた行ってもいい?」
皿を拭いていたアネリスの手が止まった。
少しだけ、冷たい空気が流れる。
「……ダメです」
静かに、だがはっきりと、彼女は言った。
「えっ……まだ、中見てないところがあるかもしれないし──」
「ダメです。……あの場所には、もう“近づかない”と約束したはずですよね?」
怒鳴るわけではない。けれど、胸に突き刺さる言い方だった。
アネリスは、少しだけ俯きながら、言葉を続けた。
「……あなたのお父さんも、あなたのお母さんも、遺跡に関わって、命を落としたのよ」
初めて聞いた。両親の死の真相。
「“ただの病”なんかじゃなかったの?」
「……そう言うしかなかったのよ。あの頃、まだあなたは赤ちゃんだったから」
アネリスの声は震えていた。
「お願いだから、ユーリ……同じことを繰り返さないで。
私は……もう、誰かの『代わり』にはなれないの」
目元が少しだけ赤くなっていた。
「あなたは、家族なの。血のつながりなんて関係ない。
どうか、自分の命を粗末にするような真似はしないで……」
その言葉が、胸に刺さった。