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最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第15章「森の迷路と旧時代の影」

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はじめての食卓──遺跡の家で、ただいま

 吹き抜けの広場を後にし、ユーリとアリエルは、崩れかけた柱の間を縫うようにして歩いていた。足元には細かな瓦礫が散らばり、かつてここに人の手が入っていた痕跡を静かに物語っている。


 背後の《Shelter Unit_C》では、セラとルシアが夕食の準備を始めていたが──


「……気になる扉が、いくつかあったんだ」


 ユーリは腰のホルスターに《GunSlash_Type-1》を携え、手に懐中型の照明装置を構えていた。進む先、やがて壁面に並ぶ三つの扉が現れる。


 それぞれの扉には複雑なロック機構が取り付けられており、古びた操作パネルが壁に埋め込まれていた。


「こっちのパネル……通電してるな。タッチ反応あり」


 ユーリがそっと指先を近づけると、淡く青い光が点滅した。


 アリエルがそれを確認すると、すぐに周辺をスキャンし始めた。


「旧式ロック認証。アクセスキー不明。内部構造の解析は可能ですが、解除には時間を要します」


「やっぱり……一人で突っ込むのはよくないな。こういう時、セラの“何かを察する力”って役立つし、ルシアの魔法支援も心強いし」


 ふと、ユーリはひとつ大きく息を吐いて、扉の前から一歩下がった。


「やっぱり……行くなら、みんなと一緒にしよう」


 どこか、前よりも自然にそう思えるようになっていた。


 旅は“ひとり”じゃない──それを、この短い時間で改めて実感したのだ。


 そうして広場へ戻る途中のことだった。


 ──ぐぅぅぅ。


 静寂の遺構に、妙に間の抜けた音が響いた。


 ユーリがぴたりと足を止め、恥ずかしそうにお腹を押さえる。


「……お腹すいた」


「……」


 アリエルがその横顔を見上げ、しばらく黙ってから問う。


「質問。……ヒトというのは、機能的に食料を補給しないと、正常に動作しなくなる構造体なのですか?」


「……まあ、ざっくり言えばそうなる」


「非効率ですね」


「やかましいわ」


 くすりと笑いながら、ユーリは足早に歩き出した。


 《Shelter Unit_C》の明かりが遠くに見える。その中には、きっと温かい匂いが待っている。


 小さな笑いと共に、二人は再びその灯りのもとへと向かっていった。


 ◆   ◆   ◆


 《Shelter Unit_C》の中。キッチンとダイニングが一体となった空間では、セラがエプロン姿で手際よく調理を進めていた。


「ルシア、次はこのソース……で、いいのよね?」


「うん、タイミングばっちり。火加減はそのままで……あっ、そうそう、香草は最後に入れるのがポイントよ」


 ルシアは小さな羽をふわふわと揺らしながら、上空から的確な指示を出していた。まるで空中を飛ぶ料理指南書である。


 セラは鍋の中をかき混ぜながら、目を輝かせていた。


「ふふ……まさか遺跡の中で、こんなにちゃんと料理できるなんて……」


 天井のライティング、空調、換気装置、そして温度調整付きのコンロ。かつての文明の快適性は、薬草舗の台所とは比べものにならなかった。


 完成した料理は順にダイニングテーブルに並べられていく。


 ハーブ風味のローストチキン、グリル野菜の彩りプレート、濃厚なスープに、柔らかく炊き上がった穀物パン。小さなデザート用の果物の盛り合わせまで添えられた。


 セラは腕まくりをして、テーブルを眺めてからそっと首をかしげた。


「……ちょっと、やりすぎちゃったかな……?」


 テーブルには、二人分とは思えない品数の料理が彩りよく並んでいた。


 ルシアはふよふよと浮かびながら微笑む。


「ユーリもセラも、育ちざかりなんだから。きっと全部食べられるわよ。たぶん……ね?」


 そんなやりとりの中──


 ポン、ドア開錠のシグナルが鳴り《Shelter Unit_C》のドアが開き、ユーリとアリエルが戻ってきた。


「ただいま──」


 と、同時に、鼻をくすぐる香ばしい匂いがユーリを包む。


 ぐぅぅぅぅ……


 またしても、静寂を破ってユーリのお腹が主張した。


 セラが驚いてこちらを振り向きユーリたちを迎える。


「おかえり、ユーリ。アリエルさんもおかえりなさい」


 アリエルが目を瞬かせて一言。


「……非効率」


「お前、またそれか……!」


 ユーリは顔を赤くしながら、にやけを隠せず、テーブルを見て思わず息を呑んだ。


「……これ、晩ごはんだよな? なんか……ごちそうじゃない?」


「ふふっ。作ってたら楽しくなっちゃって……つい」


 セラは少し頬を染めながら、エプロンの裾を握った。


 ルシアがすっとユーリの肩に乗って、耳元で囁く。


「ほら、立ってないで席に座りなさい。“おいしい時間”が始まるわよ」


 ユーリは笑って頷き、空いた席に腰を下ろす。

 こうして──古代遺跡の静寂の中、温かな夕食の時間が始まろうとしていた。


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