表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第15章「森の迷路と旧時代の影」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/206

封鎖区画へ──道なき森を往く

 朝霧が残る草原を、黒銀の車体が静かに走っていく。

 エンジン音はなく、粒子駆動の唸りさえほとんど聞こえない。代わりに、足元の地面を踏みしめるようにタイヤが草を撫でていく音だけが、周囲の静けさに溶け込んでいた。


「予定ルート、進行良好。右前方に迂回推奨区画。距離、二百メートル」


 後部座席──左側から、淡々とした女性の声が響く。


「うわ、私の役目取られた……」

 後部右に浮かぶ光の粒子──ルシアが、少し不満そうに唇を尖らせた。


「アリエル、それ……ナビゲーション、私の仕事だったんだけど」


「音声出力を優先制御。事前に合意済み。目的:精度向上およびユーリ様の運転支援」


 彼女の瞳には淡い青の光が揺らぎ、前方視界をホログラムでスキャンしている。


 ユーリは、運転席で思わず苦笑した。


「まあまあ。どっちも助かってるから、取り合いしなくていいって」


「ふん、じゃあ私の出番は料理と突っ込みね」


 ルシアが浮遊しながら視界の隅へ移動した。


 助手席ではセラが、窓の外に広がる森の影をじっと見つめている。


「……ほんとに、こっちの森って感じが違うね。いつもの薬採りの森より、空気が重たい」


「地形データ解析によると、元々この一帯は“エネルギー供給ノード”が集中していた区域の模様。周辺の植物構造にも異常が散見される」


 アリエルが答えた。


「うん。言いたいことは分かるけど……普通に怖いよ、この森」


 セラの指先が、無意識に膝の上で握られていた。

 ユーリはハンドルを握る手を少し緩めて、優しく言った。


「無理しなくていい。様子を見ながら進もう」


「……うん」


 X-Runnerのディスプレイには、スカルナ区画外郭までの距離──『17.6km』と表示されていた。

 だが、その直線距離に意味はない。


 森の中には倒木、崩落、霧の発生箇所、さらには地盤の変化など、走行ルートを阻む障害が数多くある。

 現地に到達するには、想定ルートの数倍の距離と時間がかかるのが常だ。


「そういえば……」

 セラが、ぽつりと声を漏らした。


「こうやって誰かと旅するの、初めてだなって……ふと、思って」


 助手席からそっとユーリを見上げる。


「俺もだよ」

 ユーリも微笑みながら応じる。

「前は一人で歩いてたから。だからなんだろうな、今の時間って──なんか、すごく不思議で」


 言葉にするには少し照れくさい。けれど、あたたかい沈黙が流れた。


「次の分岐まで──三百メートル。推奨ルート:左」


 アリエルの冷静な案内が、空気を引き締める。


「了解。左だな」


 ユーリがハンドルを切ると、タイヤがぬかるんだ地面にわずかに沈み込んだ。


 車体が傾くたびに、後部のルシアがひょいっと浮かびながら言った。


「この森、ほんとに人が来なくなって久しいのね。魔素の流れも歪んでる」


「このあたりの気配、なんだか……呼吸がしづらい」

 セラが胸に手を当てる。


「汚染値、常時上昇──レベル2相当。防御膜展開を推奨」


 アリエルが前に出て、ホログラム操作で車体の防御シールドを再展開した。


 X-Runnerのボディに淡い光の膜がかかり、外部の微細な粒子を遮断する。


「大丈夫、セラ。しばらくはこれで安心だ」


「……うん。ありがと、ユーリくん」


 ユーリは小さくうなずきながら、森の奥へと車体を進めていく。

 深く静かな森の気配が、じわじわと彼らの周囲を取り囲み始めていた──。



 ◆  ◆  ◆



 道なき森を進む車体の周囲は、やがて薄暗い木々の影に囲まれ始めた。

 幹の太さは人の胴ほどもあり、ところどころで幹そのものがねじれ、ねばつくような蔦が絡みついている。


「……この森、やっぱり普通じゃないよね……」


 セラが不安そうに窓の外を見ながらつぶやいた。


「地形構造に明確な人工的干渉の痕跡あり。複数の地盤隆起、線状伐採面……おそらく、旧時代のアクセスロード」


 アリエルがホログラムに表示された地図を操作しながら、冷静に言った。

 表示された地形には、かすかに直線的な構造物の痕跡──舗装路らしきものが浮かび上がっていた。


「地図上には載ってない道、か……これ、昔の遺構の通路ってこと?」


「推定一致率82%。推奨進行ルートとして上書きします」


「たぶん……昔ここに“何か”があったんだよ。今は森に飲まれてるけど」

 ユーリは慎重にハンドルを切り直しながら、道らしき方向へと車体を滑らせた。


 木々の合間──わずかに空が開け、金属の表面が一瞬、陽に反射した。


「……ん? 今の、何か光った?」

 セラが前方を指差す。


 ユーリはX-Runnerを静かに減速させ、ルシアがすぐに反応する。


「ちょっと待って。今の、たぶん……人工素材。森の中で自然に光を反射するような物じゃない」


 ルシアが光の粒子を飛ばし、ホログラムにその場を拡大表示させた。

 そこには──半ば土に埋もれた金属柱が一本、斜めに突き立っていた。


「分析中……構成材質、チタンクロム合金。用途不明。おそらく旧時代の“センサーポール”」


「ってことは、ここ……完全に遺構の管理圏内なんじゃ……」


「その可能性は高いわ。とりあえず、X-Runnerには記録データを残しておくね」

 ルシアがホログラムの保存アイコンに触れた。


「……そうか、ここからが本番ってわけだな」


 ユーリが息を吐くと、緊張が車内に漂った。


 そのとき──


 車内ディスプレイに、アリエルのシステム通知が表示された。


 >>《ネットワーク反応》検出

 >>旧ノード帯域にて微弱なビーコン信号──形式:PreCollapse_Protocol


「反応──? って、遺構からの信号?」


「詳細不明。識別コードは旧式。アクティブ化条件不一致。現在は未接続状態」


 アリエルは無表情のまま告げるが、その口調にほんの少しだけ興味の色が滲んでいた。


「近づいたら、また何か起きそうだな……」


 ユーリはX-Runnerのメインディスプレイを確認し、進路を再設定した。


「このまま進んだら、間違いなく何かあるってことだよね?」


「うん。でも……」

 セラは小さく微笑んだ。


「ちょっとだけ、楽しみかも。ユーリくんと一緒だから」


 助手席からのその言葉に、ユーリは頬をかすかに赤らめて運転席を見つめた。


「俺も、だよ。セラが一緒なら──どんな道でも、進めそうな気がする」


 その横で、ルシアがふわりと浮かび上がりながら、軽く肩をすくめた。


「なにこの青春劇場。……でも、いいわね。進みましょう、“次の扉”の向こうへ」


 そしてアリエルが、静かに言葉を添える。


「目的地まで、残り16.2キロ。推定走行時間、57分。外部ビーコンの再解析継続中」


 X-Runnerは再び、森の奥へと滑り込んでいった。


 歪んだ木々の向こうに──まだ誰も踏み入れていない世界が、静かにその口を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ