決意──そして次の遺構へ
夕方の薬草舗。
裏庭の木陰で、ユーリは旅装の準備を進めていた。ベルトにポーチを付け、ブーツの留め具を確認し、魔導書の防護ケースを肩にかける。
その様子を、木戸からそっと覗いていたセラが意を決して声をかけた。
「ユーリ……。ねえ、私も、一緒に行っていい?」
不意を突かれたユーリは手を止め、振り返る。
「セラ……」
「薬も道具も持っていけるし、回復魔法も少しなら使える。だから、きっと……力になれると思うの」
その目はまっすぐで、不安もあるはずなのに、それ以上に決意がにじんでいた。
だが、すぐ隣から、ゆっくりと紅のローブが揺れる。
メイリンだった。
彼女は口元に微笑を浮かべ、セラの背に手を添える。
「行きたいなら、行ってきな」
「えっ……!」
「薬草舗のことなら、あたし一人でもなんとかなるし、あんたの覚悟が本物なら止めはしないよ。……でもね」
メイリンは、まるで母親のようにやさしい目で言った。
「命を投げ出すつもりなら今すぐやめときな。誰かの役に立ちたいって気持ちと、自分の命を粗末にするのは、まるで違うからね」
セラは小さく目を伏せた後、顔を上げて深く頷く。
「うん……大丈夫。私は、ちゃんと帰ってくるよ」
その横で、ユーリも静かに微笑んだ。
「ありがとう、メイリンさん。……セラ、一緒に来てくれるなら心強いよ」
「うんっ!」
そのやりとりを見届けるように、ルシアの淡い粒子の光が空中を舞った。
「いい関係ね。どちらも、自分の足で立っている」
ふわりとユーリの肩へと降り立ち、光が背中に沿って流れた。
「この世界はまだ、目覚めの途中。スカルナは、次の“鍵”を持つ地。……そして、あなたたちはすでに選ばれている」
ユーリが魔導書を手に持ち、軽く頷く。
「なら、進むしかないな。──俺たちで、未来を繋ぐために」
その言葉に、セラが隣で小さく拳を握った。
そして、その夜。
宿の部屋に戻ったユーリは、窓際に立って空を見上げていた。
夜の帳が降りる中、月明かりに照らされた街は穏やかに眠っている。
その景色の中に、旅立ちを前にした静かな決意が滲んでいた。
「……じいちゃん。俺、ちゃんと見えてきたよ。この世界の仕組みが、少しずつ」
呟きながら、そっと魔導書を胸に抱く。
背後から、ルシアの囁くような声が届く。
「……次の“扉”が、開くわ」
ユーリは目を閉じて、その声を受け止めるように頷いた。
――旅は、再び始まる。
そして、新たな遺構の謎が、待っている。




