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最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第12章「森の中心と目覚めの番人」

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汚染領域突入──“静かな異常”の森

 変異魔物との戦闘を終えたあと、第二小隊は小休止を取りながら森の奥へと進んでいた。


 空はすでに高く、陽は差しているのに──森の中はまるで夕暮れのように薄暗い。


 木々は異様に大きく成長し、幹の表面には本来生えないはずの苔や寄生植物がびっしりと張り付いていた。根は地面を押し上げ、道は歪にせり上がり、湿った空気が重く淀んでいる。


「……音が、少ないな」


 カイが低くつぶやく。


「風がない。鳥の声もしないし、虫の音すらない。生き物が、この区域を避けてる」


 エフィも耳をすませながら、警戒を緩めない。


「魔力の流れが乱れてるんだ。動物たちはそれを感じ取って、離れてるんだろうな」


 グレンが前を歩きながら言う。




 その後ろで、ユーリはホログラムに浮かぶ魔力濃度の数値を見つめていた。


「ルシア、この数値……周囲にあるのは自然の魔力じゃない。人工的な“圧縮痕”だよね?」


「そう。自然界ではありえない密度。過去に何か“大きな魔導機構”が稼働していた痕跡……か、今も何かが“起動しつつある”のか」


 ルシアの声は落ち着いていたが、どこかに緊張の気配があった。


「この区域に入ってから、私の演算処理にも断続的な干渉が入ってる。パルス的な魔力波──間違いなく“送信系統”が生きてるわ」


「つまり、遺跡の一部がまだ動いてるってことか……」


 ユーリは魔導書を開き、構文ウィンドウのログを確認する。


 ページの隅に、自動生成された古代語の断片コードが走っていた。




 >> signal.ping()

 >> echo.response(verified: [ID_Fallback])

 >> link.request: [Node_07.local]

 >> status: LOCKED / verification pending




(やっぱり……“ノード07”って単語、出た)


 ユーリは目を細めた。




 そのとき、エフィが手を挙げて前を制した。


「止まって」


 全員の足が静かに止まる。彼女は森の影に身を滑り込ませると、ひそかに前方を覗き込んだ。


「……視認。あれ、祠?」


 小声の報告に、ヘルムが身を乗り出す。


「おお……こいつは……間違いない。外観の損傷具合、位置……地図と一致してる。“祠”と呼ばれてた古代端末設備のカバーシェルだ」


 草木に半ば埋もれるようにして、半球状の石造りの建物がそこにあった。入口らしき部分は土と根に覆われていたが、その一部が最近になって開かれたような跡がある。


「……誰かが入った?」


「あるいは、中から“開いた”か、だな」


 ヘルムは浮遊ドローンを先行させ、祠内部の構造をスキャンさせる。


「中に空洞あり。階段、そして魔力障壁の痕跡。……典型的な、地下遺構型の“ノード接続区画”だ。やはりここはノード07か、その一部のはずだ」


「魔力障壁が“痕跡”ってことは、今は解除されてる?」


「何者かによってか、あるいは内部装置の異常で自動解除されたか……まあ、どちらにせよ好都合だな。入れるぞ」




 全員が無言で頷いた。


 森の外縁部とは違い、この地点では確かに何かが“うごめいている”──そんな気配が、空気に溶けていた。




「行こう」


 ユーリが先頭に立ち、祠の入口へと歩を進めた。


 足元の土が、ぎしりと音を立てる。


 木々のざわめきはない。代わりに聞こえるのは、魔力の振動が生む、機械の鼓動のような低音。


 ──その奥で、何かが待っている。






 祠の内部は、ひんやりとしていた。湿った石の匂いが漂い、階段は地下へと続いている。


 魔導ランプなどの明かりはなかったが、壁の一部に残る古代の紋章がわずかに発光しており、一定間隔で導線のような線を描いていた。


「照明機能、部分的に生きてるみたい」


 ユーリが魔導書から投影した簡易スキャナを確認しながら進む。


 カイとグレンが剣と斧を構え、エフィが後方警戒。ヘルムは浮遊ドローンで記録を続けている。


 階段を下りきった先に、ドーム状の大空間が現れた。


 そこには金属光沢のある柱が何本も立ち並び、床面には魔導陣にも似たリング構造が刻まれている。


 空間の中央──そこに、一際大きな装置が存在していた。


 半透明のカプセルに包まれたその構造体は、人型に近いフォルムをしている。だが、明らかに生物ではなく、装甲と関節、人工筋繊維で構成された“兵器”のような姿。


 そして──胸部には、浮かぶように文字が表示されていた。


 [Guardian Protocol: STATUS = SLEEP]

 (番人機構:ステータス=スリープ)


 [Unit_Designate: Unknown]

 (ユニット指定:不明)


 [Auth Code: Unverified]

 (認証コード:未確認)


 [Auto-Recovery Protocol: Standby]

 (自動復帰プロトコル:待機中)



「番人機構……!」


 ヘルムが息を呑んだ。


「まさか……これが……“本物の番人ユニット”か!?」


 ルシアが低く告げる。


「ユーリ。あれは──生きてる。稼働状態ではないけど、“意識”が戻りかけてる。反応波が……脈動してる」


「まるで、心臓の鼓動みたいに……」


 そのとき。


 カプセルの上部に、赤い警告灯が灯った。


 表示が変わる。


 [Authentication Failed]

 (認証失敗)


 [External Magic Signature: Hostile Entity]

 (外部魔力反応:敵対対象)


 [Protocol 7: Combat Mode Initiating]

 (プロトコル7:戦闘モード起動)



「まずい……っ!」


 誰かが叫ぶより早く、機構の中のユニットがカプセルを破って起き上がった。


 その動作は、まるで人間のように滑らかで、だが冷酷だった。


 番人機構が、ユーリたちに視線のようなセンサーを向ける。


「――Target Identified. Engaging Hostiles.」

 (対象確認。敵対行動を開始します)


 静かな、だが決定的な声が、空間に響いた。

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