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最弱村人の異世界成り上がり 〜AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るまで〜  作者: Ranperre
第11章「迫る森の脅威とギルドの決断」

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それぞれの夜──出発前の静けさ

 宿の窓から、静かに夜風が入り込む。


 ユーリはその風を頬に感じながら、机に広げた地図とにらめっこしていた。

 ギルドから受け取った調査用の地形図には、《緑深域》の大まかな構造が記されている。


(この辺り……“禁域”の旧境界線近く。祖父が残した遺跡の記録と、一致する場所がある)


 ユーリは懐から、いつも携えている魔導書を取り出した。祖父・エルドが遺した、古代言語とスクリプトが刻まれた一冊。


 ページをめくると、かすかに反応するように、文字列が淡く光った。


「……ルシア。おまえ、やっぱりこれと繋がってるんだよな」


「うん。私の“初期定義”は、この魔導書の中の記述と一致してるわ」


 部屋の隅で浮かぶ、淡い紅の粒子。ルシアの声は、やさしく静かに響いた。


「この記述、普通の魔導書じゃない。……これは“制御構文”を埋め込んだリンクキー。演算命令と、アクセス認証、それに……デバイスのアクティベート用コマンドまで入ってる」


「やっぱり、じいちゃんは……」


「ええ。おそらくこの世界に残された最後の“調律士”だった」


 その単語に、ユーリは肩をすくめた。


「いまいちピンと来ないけど、つまり“選ばれた人”ってこと?」


「選ばれた、というより、残された……かもしれないわね」


 ルシアの声はどこか遠くを思うような響きを帯びていた。




 ふと、宿の窓から見える星空を見上げた。


 夜の静けさが、街を優しく包んでいる。灯りはほとんど消え、人々の話し声も聞こえない。明日からの“異変の森”の調査に備えて、街そのものが呼吸を潜めているようだった。




「ユーリくん。起きてる?」


 ノックと共に、扉の向こうから声がした。カリナだった。


「……あ、はい。起きてます」


 扉が開く。そこには、ギルドの制服ではなく、

 やわらかい生成りのチュニックにロングスカートという、私服姿のカリナが立っていた。

 いつものきちんとした雰囲気とは違う、どこか家庭的で落ち着いた印象。


 彼女は手にトレイを持っていた。


「明日のために、少しでも栄養取っておいたほうがいいと思って。簡単なスープと、パンだけど……よかったら」


「あ……ありがとうございます」


 机の上にトレイが置かれる。香ばしい香りと、暖かい湯気がふわりと広がった。


「ねえ、ユーリくん」


「はい?」


「怖くないの?」


「……正直、ちょっとは、怖いです。でも、それ以上に──行かなくちゃ、って思うんです」


「そっか」


 カリナは微笑んで、椅子に腰をかけた。


「……昔ね、私の兄も、似たような顔してたことがあったの。まだ若くて、力も経験も足りないって自分でわかってて、それでも“行く”って言った」


「……」


「帰ってきたとき、全身ボロボロだったけど、笑ってた。『やりきった』って。でもね……そのときの背中が、すごく大人に見えたの。……あなたも、そんな顔をしてるわ」


「……そう、ですか?」


 照れくさくて目をそらすユーリに、カリナは優しく笑った。


「大丈夫。あなたには、ちゃんと“戻る場所”がある。ここでも、薬草舗でも。セラちゃんだって、あなたの帰りを心から信じてる。……だから、行ってきなさい。全力で、ね」


「……はい」


 その言葉は、心の奥まで届いた。


 温かさと、少しだけの寂しさと──そして、見送る者の強さ。




「じゃあ、おやすみなさい。スープ、冷めないうちにね」


「はい。カリナさんも、ちゃんと休んでください」


 カリナが出ていったあと、扉の前でひとつ、足音が止まる。


 ──そのまま、何も言わずに立ち去っていった。


 静かな、見えないエールがそこにあった。






「ふふ、モテるわねぇ」


「……誰が?」


 ユーリがむすっとした顔で天井を見上げる。


 そこには、淡く瞬く薄紅の光──ルシアが浮かんでいた。


「“守るもの”があると、男の子は強くなるって言うでしょ? その通りね。あなた、顔つきが変わったわ」


「そうかな……」


 窓の外、星々が瞬いていた。


 明日、自分は森へ向かう。汚染の中心地、変異の渦。その奥には──“過去の遺構”が眠っている。


 祖父が追い、たどり着けなかったもの。自分が、その続きを見届けるために。




「ユーリ」


 ルシアの声が、そっと響く。


「私はあなたの“演算核”であり、最初のリンク先。どんな深層でも、どんな領域でも、あなたの呼び声に応えるわ」


「ありがとう。……心強いよ」


 スープの湯気が、静かに立ち上っていた。


 夜は深まっていく。明日の朝が、新たな試練を連れてくるとしても──今はただ、静かにこの夜を受け止めていた。




 ユーリはベッドに横になり、魔導書を胸に置いたまま、目を閉じた。


 遠く、ルシアの光が瞬いている。

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