ギルドの決断──汚染調査隊の編成
ギルドホールに貼り出された名簿には、少しずつ名前が書き加えられていった。
ユーリの名を皮切りに、若手の冒険者数名、それに様子を見ていた中堅どころが続いた。
「……思ったより、志願者が増えてきたな」
「やっぱり、誰かが先に名乗り出ると変わるもんだな……」
そう呟く者たちの視線の先には、まっすぐ名簿を見つめる少年──ユーリの姿があった。
「では、集まった冒険者たちは一旦前へ。小隊を組む必要がある。個人での行動は禁止だ」
壇上のガンゾーが言うと、数名の冒険者が前に出る。中には、初めて顔を合わせる者も多い。
ユーリのすぐ隣に並んだのは、長身で快活そうな青年だった。片手に斧を持ち、背中には小さな盾。風のように軽やかに動く雰囲気がある。
「ユーリくんだよな? 俺はグレン。斧と風魔法が専門だ。よろしくな」
「よろしくお願いします、グレンさん」
「さん付けはやめとこうぜ。せっかく同じ小隊なんだし、気楽にいこう」
そう言ってにかっと笑うグレンに、ユーリも肩の力が少しだけ抜けた。
そのあと、双剣を背負った無口な青年 《カイ》、そして敏捷な身のこなしを見せる斥候役の少女 《エフィ》もチームに加わった。
「……このチーム、意外とバランス取れてるかもな」
グレンが呟いた通り、前衛 (グレン・カイ)、中距離魔法支援 (ユーリ)、偵察と索敵 (エフィ)という構成だ。
「各小隊の編成はそのまま。名称はそれぞれ《第一小隊》《第二小隊》《第三小隊》とする。お前たちは《第二小隊》だ」
ガンゾーが名簿を確認しながら言う。
「第一小隊は汚染境界線の確定。第三は周辺村の避難誘導。……そして、お前たち《第二小隊》は──」
ガンゾーは一拍置いて、低い声で続けた。
「森の“内部調査”を担当してもらう」
空気が一瞬、凍りついた。
「おいおい、マジかよ」「汚染の中心部って話じゃなかったか?」「新人のガキも混じってんだぞ?」
周囲のざわめきが強くなる中、ユーリたち四人は沈黙を保っていた。
「不安なのは分かる。だが、今回の異常は“拡大している”」
ガンゾーの声に、冒険者たちが黙る。
「明確な原因が掴めなければ、いずれこの街にも届く。そうなれば、もう誰にも止められん」
「……ですが」
思わず声を上げたのは、受付嬢のカリナだった。
彼女は前に出て、壇上のガンゾーを見上げる。
「本当に、この子たちに任せて大丈夫なんですか? ……特にユーリくんは、まだ十五歳で……」
静まり返る場内。
その中で、カリナは毅然と立っていた。
ガンゾーはその視線を受け止め、やや考えるように視線を落としたあとで言う。
「……あの少年の“魔力量”と魔法構成、俺も確認した。確かに未熟だが、扱う魔術の質は規格外だ。基準から見れば、すでにランクB相当の力がある」
「……!」
その言葉に、場の空気が再びざわつく。
だがガンゾーは続けた。
「それでも不安が残るなら、支援を一人つけることにした。《調律者》──エンジニア兼魔道士として名高い者を」
扉が開いた。
現れたのは、長いマントを羽織ったひとりの人物。目元にゴーグルをかけ、肩に小型装置を乗せている。
「よう。間に合ったか?」
ルーズな口調の中年技師──その名は《ヘルム・グラード》。魔道工学の分野では名の知れたメカニックであり、古代遺物の修復も行える専門家だった。
「こいつが第二小隊に同行し、記録と分析を担当する。戦闘は不得手だが、遺跡に関する知識と汚染検知には長けている」
そう言うと、ヘルムは指を鳴らし、肩の小型装置から浮遊ドローンを数機展開した。
「こいつらでフィールドスキャンもできるぜ。よろしく頼むよ、坊主たち」
「じゃあ、決まりだな」
ガンゾーが手を叩くように言った。
「明朝、日が昇った直後に出発する。各自、準備は今夜中に済ませておけ」
こうして──
ユーリたち《第二小隊》は、汚染の中心部へ向かう任務を担うことになった。
森に潜む“何か”が、彼らを待ち受けている。




