科学という名の魔法──ルシア起動
神殿を出たとき、太陽はすでに傾きかけていた。
今日、洗礼を受けた子どもたちは皆、笑顔で家族に迎えられている。
だが俺は一人きりだった。
誰かが遠巻きに、俺を見ているのを感じる。
「呪われたスキルだって……」
「精霊の言葉も読めないなんて、変だよね」
ささやき声が、背後から風に乗って届く。
──けっこう、しんどい。
けれど、昔からそうだった。
俺は、普通じゃなかった。
前世では、人の心よりもコードを理解するほうが早かった。
この世界では、英語の文字が出た時点で「異端」扱いされる。
でも構わない。
「俺には、“これ”がある」
古びた家の屋根裏、埃をかぶった木箱の中。
それは、祖父が遺したという装飾の施された金属の本──魔導書
いや、魔導書というにはあまりに異質な”装置”だった。
指を滑らせると、ページに見える部分に幾何学模様が走り、淡く光る。
>> Accessing LogBook_Archive#1...
>> Voiceprint Detected: Yuuri_Alvain
>> Chat Form Support Terminal: Active
また、あの音が聞こえた。ピコンという電子音。
そして、ページの端がスライドし、まるでスクリーンのように英語のUIが浮かび上がる。
そこに現れたのは、昨日夢で見た“Chat Form”と全く同じインターフェースだった。
中央には、小さな光の粒が浮かんでいる。
やがてそれは言葉を紡ぐように振動し、機械的な女性の声が響いた。
「Support AI “Lucia”... Online. You are the registered user. Welcome back, Yuuri.」
「っ……」
鳥肌が立った。
まさか、この世界で──AIに、再会するなんて。
「Your access has been restored. MagicLayer linked. Preparing environment reconstruction protocol.」
「……マジかよ……」
思わず笑ってしまった。
だって──この世界は、魔法で動いてると思われていた。
でもその“魔法”の裏側にあるのは、俺の知っているシステムだったんだ。
つまり……
この世界の遺跡や神の奇跡は、きっと全部、かつて存在した科学文明の遺産だ。
「……なら、やってやろうじゃねぇか」
最弱の村人だなんて言われてる俺でも、やれることがある。
この世界で、“Chat Form”を起動できるのは──たぶん俺だけだ。