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最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第10章「詠唱コードと白百合の覚醒」

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制御区画E-17──目覚める旧時代の回路

 地下は、静かだった。


 まるで時間そのものが封印されていたかのような空間。灰色の石壁に囲まれた施設には、遠い時代の匂いが染みついていた。


 その中心にあるのが、《第3同期拠点:補助演算区画E-17》──かつてこの世界に存在した高度演算網の、枝のひとつ。




「……ここを“再起動”できれば、この街がどういう場所だったのか、もっと掴めるはず」


 ユーリは、魔導書とルシアの粒子を照らし合わせながら、ホログラム化された回路図をじっと見つめていた。


「でも、本当に動くの? ここ、ずっと閉ざされてたんでしょ?」


 セラが不安そうに後ろから覗き込む。その手には、彼女の相棒──《リリィ・アリア》が抱えられていた。


 白百合型の先端は閉じたままだが、魔力回路はかすかに光を放ち、今にも目を覚ましそうだった。


「動かすさ。……じいちゃんなら、間違いなくここも調べてた」




 ユーリは魔導書のページをめくる。


 そこには“災害時緊急起動手順”の一文とともに、手書きの注釈が添えられていた。


『E系列拠点の演算炉は、外部入力型。通常の魔力供給では起動せず。

 コード生成炉を使い、詠唱構文に接続せよ──歌に乗せろ、命令を』


「つまり、《リリィ・アリア》を通して“歌=コマンド”を送れば、起動信号に置き換えられるってことか」


「それ、私がやるの?」

 セラがきょとんとする。


「うん。君しかできないと思う」




 ユーリは台座の前に座り、クリスタルソケットに仮接続されたエネルギーコアを取り付ける。

 ルシアの粒子がその上に集まり、解析フレームを起動した。


『臨時動力ルート確保。演算炉:スタンバイモード突入』


「よし、セラ。お願いできるか?」


「……うん」




 セラは深呼吸し、胸に手を当てた。

 そっと目を閉じて、詠唱を──いや、“歌”を紡ぎはじめる。




 ♪──ひかりのゆり、ねむれるまほう ときのはざまをこえて いま めざめて──♪




 その瞬間、杖のクリスタルが脈打ち、先端の白百合がふわりと開く。


 演算補助モード、起動。




『音声波長、詠唱コード認証。コマンド群転送中──演算炉、起動開始』




 ゴゥン……ギュルルル……カチカチッ……ギイィン……


 地下に響き渡る重低音。中央の台座に光が走り、ホログラム画面が次々と展開されていく。


「……動いた」


 ユーリは息を飲む。


「これが……かつての研究拠点。まだ、残ってたんだな」




 ルシアが淡く光を放ちながら言う。


『E-17制御中枢に接続完了。私の粒子群が構造認識を進行中。現在、施設の31%が解析済み』


「31%でこれだけの制御……?」

 セラが目を見開く。


「いや、むしろそれだけ“遺されてる”ってことだよ」

 ユーリは、台座の端末に触れながら、データの洪水をじっと見つめた。




 だが、その中に──一つだけ、妙なものがあった。




『警告:管制サブノードより送信信号あり』

『格納ユニット内エラー発生中。識別:防衛機構……?』




「防衛……機構?」


 ルシアの光が、かすかに震えた。


「この拠点……何かを、守ってる?」




 地下の空気が、ひとつ震えた。




 今、長く眠っていた施設が目を覚まし、

 それに反応する何かが──こちらに気づいた。

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