推薦任務──信仰を越える実力
街エインクレストの朝は早い。
市場には香草や燻製肉の匂いが立ち込め、通りには冒険者たちの声が飛び交っていた。
そんな中、冒険者ギルドの受付で一人の少女が登録を終え、ほっとした顔で振り返る。
「ふう……これで私も、正式な冒険者だね」
──セラ・ルディア。薬師見習いにして、調律神ルシアを信仰する“祈り手”。
「おめでとう、セラ」
入口のそばに立っていたユーリがにっこり笑って手を振る。
すっかり見慣れた黒装束に銀のガンスラッシュ。そして、肩には淡く発光する粒子のルシア。
「これで、一緒に依頼に行けるね」
「今までは“同行者扱い”だったからな。これで正式にパーティだ」
二人は並んで掲示板に目を向ける。依頼書の中に、ひときわ目立つ一枚があった。
《【推薦】Bランク魔物「トレント」討伐任務》
──依頼主:東エインクレスト警備団
──場所:西の迷いの森・境界域
──報酬:金貨5枚
「……推薦依頼?」
ユーリが眉をひそめる。
通常、Bランク以上の依頼は、推薦や実績がないと受けられない。
しかしこの依頼の受付欄には、すでに名前が記載されていた。
【推薦者:ギルド受付嬢カリナ】
【対象:ユーリ・アルヴェイン&セラ・ルディア】
「俺たち……推薦されてる?」
「びっくり……でも、昨日の薬草採取の時の魔物退治、見られてたのかな?」
ギルドの奥から現れた女性が、やや苦笑気味に声をかけてきた。
「驚いたかしら? あのときの戦い、ちゃんと報告受けてるの。少なくともBランク下位程度の実力はあると判断したわ」
受付嬢カリナ。冷静で鋭い眼差しを持つ女性だが、セラには優しい。
「冒険者は“結果”が全てよ。君たちは“信仰”で見られることもあるでしょうけど、それを実力で跳ね返せばいい」
そう言って依頼書を差し出す。
「──挑んでみる?」
ユーリとセラは顔を見合わせ、静かにうなずいた。
「やってみるさ」
「私も、君となら行ける気がする」
こうして二人は初のBランク任務へと挑む。
だがその先に、“ただの魔物退治”では済まされない出来事が待っているとは、まだ知らなかった──。




