異世界に刻まれたコード──英語で語られるスキル
翌朝、目が覚めた時──
俺の中には、前世の記憶が完全に戻っていた。
地球。日本。職場。AI。プログラミング。
そして、最期に倒れたあの静かなオフィス。
まるで本物の再起動のように、記憶は正確に積み上がっていた。
けれど、それよりも気になることがある。
昨晩の「Chat Form」は夢だったのか?
それとも──この世界の何かが、本当にそれを再現したのか?
そんな疑問を胸に抱えたまま、俺──ユーリ・アルヴェインは、村の広場へと向かった。
今日は五歳の誕生日、そして「神の洗礼」の日だ。
リェン村は、山あいにある小さな村だ。
外界との往来は少なく、数年に一度、交易のキャラバンが来るかどうか。
そのぶん、自然と“神の教え”への信仰は強く、子どもたちは五歳になると「洗礼」を受け、その適性と加護を得るのが通例だった。
「……ユーリ、頑張ってくるんだよ」
小さな手で背中を押してくれるのは、育ての母──アネリスさん。
本当の両親は俺が赤子のころに病で亡くなったらしい。
丘の上に建てられた神殿は、白く、古く、美しかった。
だが、その中に入った瞬間、俺は空気の違いを感じる。
──ここには、何か「回路」に似たものがある。
床に刻まれた模様。壁に埋め込まれた石版の列。
すべてが古代遺跡に似た構造でありながら、宗教的な意味を与えられている。
「次、ユーリ・アルヴェイン」
神官の声が響き、俺は祭壇の前へと歩み出る。
足元の魔法陣が淡く発光し、空中に文字列が浮かび上がった。
他の子どもたちは「火魔法:Lv1」や「癒しの祈り:初級」などと表示されていたが──
俺の前に現れた画面は、英語だった。
>> User: Yuuri_Alvain
>> Status: Locked
>> Skill: Chat Form [Passive Module]
>> >> Awaiting System Sync
その瞬間、神官の顔色が変わった。
文字が読めなかったのか、それとも──何か知っているのか?
「な、なんだこの……この文字は……?」
「神官様……“精霊の言語”ではないようです」
「これは……古の神々の呪いか?」
周囲がざわめき、俺は視線を伏せる。
そうだ。これだ。昨晩、夢で見た“Chat Form”と同じ画面。
これは偶然じゃない。
俺の中の何かが、この世界と接続されている──!
だが、まだ誰にも話すわけにはいかない。
「……記録不能のスキル、ですね」
長老がぽつりとそう呟いた。
「神意は時に試練を与える。ユーリよ、精進せよ。いずれ、その意味も明らかになるだろう」
……うまく、流された。
けれど俺の中では、確信が生まれていた。
この世界の「魔法」や「神託」は、きっと──この世界の何かとどこかで繋がっている。