表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第37章 「契約の重みと誓いの剣」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

189/206

白鷲亭の朝──心でつながる仲間たち

 朝霧が薄く漂い、王都アリステリオの空が徐々に黄金色へと染まり始める。白鷲亭の窓から射し込む陽光が、やわらかく室内を照らしていた。


 そんな静かな朝の中──


 ユーリは、ふと目を覚ました。


「……ん、もう朝か……」


 シェルターの寝室ではなく、王都の宿で迎える朝。しばし天井を見上げた後、ユーリは身体を起こし、宿のシンプルな洗面台で身支度を整えた。


 廊下を抜けて階段を降り、白鷲亭の食堂に入ると──すでに仲間たちの姿があった。


 窓際のテーブルでは、ルシア、セラ、カイル、そしてアリエルがそれぞれ湯気の立つマグを手にしていた。


「おせぇぞ、ユーリ」


 カイルが顎をしゃくりながら声をかける。テーブルの上には既に人数分の食器とコーヒーが並び、香ばしい香りが漂っていた。


「お腹すいちゃった……」


 セラが不満げに小さく呟きながら、膝の上で手を握る。少女の瞳は、どこか期待に満ちていた。


 ふと、ユーリはその横顔を見て首を傾げた。

「……あれ、セラ。髪、いつもと違う?」


 髪をかんざしでまとめたハーフアップスタイル。光を受けてきらりと輝くそのかんざしには、《リリィ・アリア》の小さな白百合が咲いていた。


「セラ、よく似合ってる」


 その言葉に、セラはぱっと頬を染め、照れくさそうに微笑んだ。


「おはよう、ユーリ。さあ、早くだしてちょうだい」


 ルシアが頬杖をつきながら、マグを小さく揺らし、まるで当然のように促してくる。


「おはようございます。今朝は何が出てくるのか、楽しみですね」


 アリエルは静かに笑みを浮かべながら、ぴしりと整った制服の袖を直す。光を受けて黒髪がきらめいていた。


「……はいはい、今出すよ」


 ユーリは苦笑しつつ、腰に下げたポーチから銀色に輝く《BX-7》を取り出した。そのカード型デバイスの裏面に指を触れると、空中に淡いホログラムが展開される。


 ──Shelter Memory_Storage:Last Registered Meal《ロイ・ファルガレン作/夕食セット》


 浮かび上がったメニューを確認しながら、ユーリはひとつずつリストをタップしていく。するとテーブルの上に、まるで魔法のように次々と料理が再構成されていった。


 スープにはふんわりと香るハーブが漂い、肉料理は肉汁をたたえたまま、まだ湯気を立ち上らせている。サラダの瑞々しさも損なわれておらず、パンは焼きたてのような温かさを保っていた。デザートは果実のタルト。


「うわぁ……昨日と同じ香り……」


 セラがうっとりと鼻を近づける。


「見た目だけじゃないのね。温度も、香りも、食感もそのまま……」


 ルシアが感心したように料理を見つめ、フォークを手に取った。


「この保存技術……一般技術とは思えませんね」


 アリエルもひとつひとつの料理を興味深そうに観察していた。


「……まじで、あったけぇままだ」


 厨房から姿を現したロイ・ファルガレンが、思わず唸るように声を漏らす。


「オレが昨日作ったやつだろ、これ。味も落ちちゃいねぇ。ほんと、すげぇよ……」


 彼は腕を組んで感心した様子で頷くと、にやりと笑った。


「これなら、店が忙しくても仕込みだけやっときゃ回せそうだな。なあ、ひとつオレにも分けてくれよ、そのカード」


「無理言わないでください、ロイさん……これは特殊すぎますから」


 ユーリが苦笑しながら返すと、ロイは肩をすくめた。


「まあそうなんだけどよ。何かと便利な技術だよな。夢が広がるぜ」


 そんな軽口を交わしながら、朝食の準備が整う。


「いただきます!」


 セラが笑顔で手を合わせる。それを合図に、みんなが手を伸ばし──白鷲亭の朝食が始まった。


 気が付けば、テーブルの上には笑い声と湯気、そして幸せな香りが満ちていた。


(……こうしてみんなで朝食を囲めるの、なんだか久しぶりだな)


 パンをちぎりながら、ユーリはふと思う。この日常が続けばいいと願う心と、これからの“非日常”に向けた決意が胸の中で交差していた。


 そして──朝食の後、ユーリたちは今日一日の予定を確認し始めることになる。


「さて、今日の動きだけど──まずは冒険者ギルドに顔を出すことになるな」

 カイルがパンを頬張りつつ、指を折って予定を数えていく。


「ランクアップの手続きと報酬の受け取りですね」

 アリエルが頷きながら、手元の端末で簡易メモを呼び出した。


「それから、王都技術展示館にも行くんでしょ?」

 ルシアがカップを置きながら、さらりと続けた。「あの、マナ・リアクターってやつの解析」


「あ、グラードさんっていう技術者の人に会うんだよね」

 セラは嬉しそうに身を乗り出す。「ちょっと緊張するかも……」


「そのあと、商業ギルドで商会の立ち上げに関する説明を受けて……」

 ユーリは指で空中に予定をなぞるようにしながら、最後の項目を口にした。

「夕方には仕立屋のエルナさんのところ。パーティの件で、報告と支払いをしなきゃ」


「ふふ、きっちり請求されるのね」

 ルシアが肩をすくめながら微笑んだ。「女神モードの費用込みで」


 テーブルの上には、自然と一枚の“行動予定メモ”が置かれていくような感覚だった。朝から晩まで、まるで旅程のように詰め込まれた一日。


「……今日も予定でいっぱいだなあ……」


 ユーリは食後のコーヒーを啜りながら、ややげんなりと呟いた。


「たまには、ゆっくり休みたい」


「無理ね」

 ルシアは即答した。からかうような笑みを浮かべて、マグを傾ける。


「商会を立ち上げたら、休みなんてないかもね。管理、運営、仕入れ、販売、報告──おまけに会合もあるかもしれないし」


「……なにそのブラック企業」


 ユーリが思わずむくれた顔をすると、セラがきょとんと首をかしげた。


「ブラック……? 黒いの?」


「いや、そういう意味じゃなくて……」

 ユーリは少し考えてから、なるべくやさしく説明する。


「“ブラック企業”っていうのはね、すごく働かせるのに、休みもなくて、待遇も悪い会社のこと。前世の言葉だけど、要するに“超大変”ってこと」


「わ、わたしたち……そんなのになっちゃうの……?」

 セラが不安そうにユーリを見上げる。


「ならないように頑張ろうな、みんな」


 カイルが最後にフォローを入れ、皆が笑いながらうなずいた。


 ひと通り今日の行動予定を確認し終えると、ルシアがふとカップを置きながら口を開いた。


「そういえば……商業ギルドでは、昨日“念話”で話してた例のお酒の件も、説明を受けておきたいわね」


「お酒の件……?」

 セラが首をかしげる。


「えっ、私が寝てる間にそんなこと話してたの?」


 小さな声に、ユーリは気まずそうに笑いながら肩をすくめた。


「いや、起こしちゃ悪いかなって思ってさ」


 セラはぷくっと頬を膨らませ、すぐに視線を外してから──目をキラキラと輝かせた。


「……私も“念話”したい!」


 その言葉に、ユーリは「ああ」と笑みを浮かべながら、腰のポーチからカードサイズの《BX-7》を取り出した。


「わかった。セラも使えるようにしよう」


 ホログラムインターフェースを展開し、ユーリは念話用の通信装置──イヤーカフ型デバイスを一つ、掌に転送する。


「これを耳に付けて。左耳のほうが反応が安定すると思うよ」


「うんっ!」


 セラは両手でそっとイヤーカフを受け取ると、鏡も使わず手早く左耳に装着する。細くて透明な機構が、ピタリと耳に沿って収まった。


 少しドキドキしたように、セラは目を閉じる。


「声に出さずに、心で会話するイメージで話すんだ。強く思い浮かべる感じで」


 ユーリのアドバイスに、小さく頷いたセラは、深く息を吸って──ゆっくりと意識を集中させた。


(……ユーリ、聞こえる?)


 可愛らしく慎重なその“声”が、直接ユーリの思考に届いた。すぐに、彼は優しく微笑みながら念話で返す。


(うん、聞こえるよ。これでセラとも話せるね)


(ふふっ、なんか不思議な感じ……でも、すごく楽しい)


 セラの心の声には、弾むような喜びが滲んでいた。


 だが──その会話の輪の中に、もう一人、当然のように割り込んでくる者がいた。


(これで、内緒話もできなくなるわね)


 それは、ルシアの声だった。どこか“にやり”と笑っている気配すら感じられる。


(ちょ、聞いてたの!?)


(聞こえるわよ。共通回線で話してるんだから)

(まったく……気が抜けないんだから)


(セラに内緒のことなんて、ないよ)


 ユーリがそう返すと、セラが照れくさそうに笑う声が、また念話で届いた。


(……えへへ。ありがとう)


 不思議な静けさの中で交わされる“心の会話”。言葉を発さずとも伝わる感情の余韻が、白鷲亭の朝に、優しい温もりを添えていた。


 こうして、王都での新たな一日が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ