表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第36章 「女神と英雄、謁見の舞台に立つ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/206

謁見の間にて──ユグドラシルの功績

 広間に、静寂が満ちる。


 重く厳かな音を立てて、玉座の間の大扉が閉ざされた。

 その瞬間、外界との繋がりは断たれ、ここはただ一つの「王の間」として切り離される。


 空気が変わった。

 息を呑むような張り詰めた気配が、床から天井へ、壁から天蓋へ──すべてを包み込んでいく。


 玉座の最上段──


 中央に座すのは、アリステア王国国王。

 年の頃は五十手前、凛と整えられた口髭と、鋭さと威厳を湛えた双眸。

 その視線は、まっすぐにユグドラシルの五人を見据えていた。


 王の右手には、王妃。

 淡い金髪を編み上げた優雅な佇まい。

 その微笑みは柔らかく、母のような包容力と、知恵深さを併せ持っていた。


 左手には──第一王女。

 気品ある立ち姿と、整った輪郭。

 胸元に煌めく家紋のブローチが、彼女が王家の血を引く証であることを静かに物語っていた。

 その瞳はじっと、真正面に立つユーリを見つめて離さない。


 列席する重臣たちが、その脇を静かに囲む。

 色とりどりの衣を纏った貴族たち、王政参謀、宮廷魔導士、そして整列した近衛兵──

 誰もが一様に、いまここに集った五人に視線を注いでいた。


 堂内に、澄んだ声が響き渡る。

 一歩前に進み出た近衛が、宣言するように名を読み上げた。


「──アリステア王国、冒険者ギルド・エインクレスト支部所属、パーティ“ユグドラシル”──」


「代表者、ユーリ・アルヴェイン」


「並びにその一行──ルシア、セラ・ルディア、アリエル、カイル・バルナー。ここに参上仕りました」


 名が呼ばれるたび、五人はそれぞれ一歩を踏み出し、静かに頭を下げる。

 礼装の布が揺れ、靴音だけが石の床に小さく響く。


 誰も言葉を発しない。

 ただ──視線と沈黙だけが、この空間を満たしていた。


 近衛の宣言に続いて──

 重臣たちの列の最前、右側に控えていた人物が、静かに歩を進めた。


 それは、アリステア王国執政官──レオンハルト・グレイヴ。

 冷静沈着で知られる行政の中枢を担う人物。

 この玉座の間において、国王の言葉に次ぐ重みを持つ男である。


 彼は王の正面、所定の奏上位置まで進むと、胸に右手を当て、恭しく一礼。


「──陛下」


 その声は朗々としてよく通り、広間の静寂をきれいに切り裂いた。

 空気が引き締まり、重臣・貴族たちが再び耳を傾ける。


「彼らの功績について、謹んでご報告申し上げます」


 レオンハルトは視線を王へ向けたまま、明瞭な口調で言葉を紡いでいく。


「まず、エインクレスト郊外にて発見された《ノード07》の調査と保全に成功し、

 王国の都市防衛網において、重要な基盤を築くに至りました」


 わずかにざわめきが起きる。

 “ノード”という言葉の持つ重みを知る者たちが、その意義を察したのだ。


「続いて、スカルナ山地において発見された《スカルナ遺構》の踏査においては、

 複雑かつ広大な内部構造を把握し、その安全性と資源性を確認。

 学術的、戦略的双方において、極めて高い価値を残すものであります」


 言葉は淀みなく続けられる。


「また、国境防衛線の一角、第三前線治療所にて発生した魔物襲撃の際には──

 現地防衛隊長クラウス殿の指揮下にて、患者および施設の防衛に貢献。

 現場より寄せられた証言によっても、その事実は確認されております」


 王妃と王女が、目を細めて頷く気配を見せた。

 民を守ったという事実は、それだけで大きな尊重を受ける。


 だが、レオンハルトの奏上は、そこで終わらなかった。


「さらに、彼らは《トランプ》と呼ばれる新たな遊戯を創案し、

 商業ギルドを通じてその製品を流通させました」


 その言葉に、貴族たちの一部が驚いたように顔を上げる。


「これらの遊戯は、王都にてすでに娯楽として広まりつつあり──

 経済と文化の両面に、新たなる潮流をもたらすものであると評価されております」


 そして、レオンハルトは最後の言葉を静かに重ねた。


「──以上。

 これらすべての功績は、王国の誉れとして然るべきものと存じます」


 深く一礼し、彼はゆっくりと後退した。

 静寂が、広間を包む。


 それは、王の裁定を待つ「間」。

 誰もが息を殺し、次に発せられる“王の声”を待つ。


 そして──


「……ふむ」


 玉座に座す王、レグナス・ユリウス・フォン・アリステアが、重々しく言葉を発した。


「余は、聞き届けた」


 低く、深く──だが確かな威光を帯びた声。


「ノード07の調査、スカルナ遺構の踏査、治療所防衛における働き──

 いずれも王国にとって大なる益をもたらしたこと、疑う余地はない」


 広間に、安堵とも畏怖ともつかぬ気配が流れる。


「また、新たな遊戯を創り出し、商業ギルドを通じて広めた才覚もまた、

 この国の未来を豊かにするであろう」


 王は目を細め、わずかに笑みを浮かべた。


「我が娘も、“トランプ”とやらに夢中になっていたようだからな」


 広間に、控えめな笑いが生まれる。

 だが、それも束の間──すぐに静けさが戻る。


 王は玉座にゆるりと身を正すと、脇に控えていた侍従へ目配せを送った。


 侍従が恭しく進み出て、手にしていた小箱を玉座の前へと捧げる。

 黒革に金の細工が施されたその箱は、王国の格式ある報奨品を納めるためのもの──それだけで、この場に立ち会う者たちの息を呑ませるに十分だった。


 侍従の白手袋が蓋を開くと、中からは光り輝く金貨がぎっしりと現れた。

 陽光を受けてまばゆく輝くそれは、まさに“王の金”──王家より賜る正真正銘の報奨。


「まずは報奨として──金貨二百枚を与える」


 王の声が、広間に低く響いた。


「これは、そなたらの労に報いるためのものである。受け取るがよい」


 その瞬間、広間の空気が震えた。

 目に見えない、重圧とも呼べる緊張が走る。


 ──金貨二百枚。

 それは、冒険者として活動していれば数年を要する報酬額。

 しかも、それが王の口から直接与えられたという事実の重みは、単なる数字の価値をはるかに凌駕していた。


 列席していた貴族の中には、微かに目を見開き、息を呑む者すらいた。


 注がれる視線を受けながら、ユーリは静かに一歩前へ出る。

 その場に片膝をつき、深く頭を垂れた。


「……ありがたき幸せにございます」


 その声には、偽りのない敬意と、緊張の内にある感謝が込められていた。


 王はそれに頷き、重ねて言葉を紡ぐ。


「加えて──余は汝らを『王国功労冒険者』として認める」


 再び、広間が静まり返る。


「この称号は、特例的に与えられる栄誉である。

 王都への自由な出入りを許し、王城においても正規の来訪者として認定されることを、ここに約す」


 セラが小さく息を呑み、ルシアとアリエルが目を合わせる。

 ただの金銭に留まらぬ、“地位”と“信用”の保証──それは、冒険者としての在り方すら変える、破格の処遇だった。


 ユーリはすぐにその意味を理解し、王の言葉を心に刻む。

 ──これは、王国が本気でこちらを「仲間」として扱う、という宣言だ。


 そして、王はしばし沈黙した。


 玉座の背後に描かれた壮大な王家の壁画が、朝の光を受けて黄金に輝いている。

 その荘厳な光を背に、王は重々しく、次なる言葉を発した。


「……そして、もう一つ」


 緊張が走る。


「余には“願い”がある」


 その一言に、列席する者たちがわずかにざわめいた。

 王が“願う”という言葉を使うのは、極めて稀だ。


「近年、各地にて古代遺構が次々と発見されつつある。

 だが、王国の力のみでは、調査も保全も追いつかぬのが現状である」


 王の言葉に、一部の重臣がうつむき、王妃もまた静かに頷いた。


「そなたらの才覚と胆力は、すでに証明されておる。

 ゆえに──余は王国の名の下に要請する」


 王の瞳が、真正面からユーリを捉えた。


「今後の遺跡調査において、王国の協力者として、力を貸してほしい」


 その瞬間、広間が明確にざわめいた。

 それは単なる“依頼”ではない。

 ──国家が正式に、一個人に要請する「協力」である。


 それがどれほどの意味を持つか。

 列席する者すべてが、その重さを理解していた。


 ユーリは胸の奥が熱くなるのを感じた。

 これまでの行動が──異邦人である自分の歩みが、ついに国家の信頼に結びついた。


 彼は片膝をついて深く一礼し、静かに、だが揺るぎなく応じた。


「……畏まりました。

 微力ながら、この身の及ぶ限りを尽くす所存です」


 王は満足げに頷き、王座に響き渡る声で宣言した。


「よい。汝らの働き──余は、しかと見届けた」


「王国は、そなたらと共に歩むことを選ぶ」


 その言葉が終わると、広間に再び、深く静かな沈黙が降りた。

 それはただの無音ではない。

 王国が──一つの民の行いを、公式に“未来の力”として認めた瞬間の、重厚なる余韻だった。


 玉座に身を預けていた王が、ふと身体をやや乗り出すように姿勢を改めた。

 その声音は、先ほどまでの荘厳な調子とは異なり、穏やかで柔らかな響きを含んでいた。


「……さらに、余の耳には、もうひとつ届いている」


 広間の空気が、わずかに揺れる。


「街道沿いの小集落にて──干ばつに苦しむ民へ糧を与え、

 種を分け与え、村を立て直す助けとなった……と」


「そのような行いを、汝らは為したと聞く」


 ユーリの心臓が、どくんと大きく跳ねた。

 報告した覚えは──ない。


 隣に立つセラが驚いたようにこちらを見上げ、

 ルシアはわずかに目を細めて、状況を静かに観察している。


 カイルはわずかに首を傾け、視線を斜め上へ──玉座左、王女の席へ向けた。


 言葉を返そうとしたユーリだったが、うまく声が出ない。


「……それは……」


 ようやく絞り出した声も、すぐに王の手のひらに制された。

 高く掲げたわけではない、しかし確かな“静止”の意図を持つ手だった。


「案ずるな」


 王は静かに語る。


「余は、そなたらを責めてはおらぬ」


 その言葉に、ユーリの胸が少しだけ軽くなる。


「むしろ──民を思うその心、誉れとして、余は嬉しく思う」


 王の眼差しが、広間を緩やかに巡った。

 その途端、ざわめきかけていた重臣や貴族たちの口が一斉に閉じられる。


 空気が張り詰めたわけではない。

 ただ、王の言葉に敬意と畏敬が自然と従った、それだけのことだった。


「功績は、力によってのみ量るものではない」


 王の声は静かだったが、その響きには確かな力があった。


「人を救う心もまた、王国にとっては──大いなる宝だ」


「……覚えておくがよい」


 その言葉に、ユーリは深く、ゆっくりと頭を垂れた。

 王女──エステリナが、あの村のことを報せてくれたのだと、すぐに察した。

 だが、ここで名を出すべきではないこともまた、理解していた。


 セラは胸元にそっと手を置き、目を伏せる。

 その瞳には、こぼれそうな感情の波が揺れていた。

 泣くまいと懸命にこらえているのが、手に取るようにわかる。


 ルシアはそんな彼女をちらりと横目で見て、ほんのわずかに、唇の端をやわらかく持ち上げた。

 微笑というよりも、“慈しみ”に近い表情だった。


 やがて、金貨の入った小箱が、侍従の手によって静かにユーリの前へと運ばれた。

 同時に、深紅の封蝋が押された書状──王国功労冒険者の証書が、恭しく差し出される。


 ユーリは片膝をつき、両手でそれを慎重に受け取った。

 そして、床に額が触れそうなほど深く頭を下げた。


「……陛下のご厚情、心より感謝申し上げます」


 玉座の上。

 王はゆるやかに頷いた。


 その瞳には──ただの威厳ではない、確かな人間としての温かみが宿っていた。


「よい」


 そして、最後の言葉を紡ぐ。


「功績もまた、心もまた──」

「そなたらがこの国にもたらしたもの、余はしかと見届けた」


「今後も遺跡の探求において、王国と共に歩んでほしい」

「その力、決して無駄にはせぬと──約そう」


 そのとき──玉座の右手、王妃がそっと前へ身を乗り出す。

 静かに目を細めながら、柔らかく、しかしはっきりとした声音で言葉を紡いだ。


「勇敢なる冒険者たちよ」


 その声に、ユーリたちはすぐさま姿勢を正し、再び跪く。


「……民を思うその心、私も嬉しく思います」

「力ある者がその力を、弱き者のために用いること──

 それこそ、私たちが真に望む“勇気”の形なのです」


 その言葉は、王妃としてだけでなく、ひとりの“母”として、国民と向き合う姿勢そのものだった。


 ユーリは胸に右手を当て、深く、静かに礼をとる。


「畏れ多きお言葉……心に刻みます」


 続いて、王の左──王女・エステリナが椅子から立ち上がった。

 彼女の動きに、周囲の視線が一斉に向けられる。


「私からも──礼を言わせてください」


 その声は年若く清らかでありながら、芯の通った力強さを宿していた。


「国境の第三前線治療所にて、あなた方が魔物の襲撃を防ぎ、

 傷ついた兵士たちに治癒を施してくださったと聞いています」


 王女の言葉に、広間が静まり返る。


「防衛隊長は“死を覚悟した瞬間に救われた”と、語っていました。

 ……あなた方の存在は、剣よりも強く、薬よりも深く、

 兵たちの心を支えたのだと──私は、そう思っています」


 彼女は深く、静かに頭を垂れた。


「お言葉、恐れ入ります。


 治療所へ参じたのは、私の仲間──セラ、ルシア、アリエルの三名にございます。


 いずれも心より貴国の安寧を願い、己が為すべきことを尽くしたまでのこと。


 過分なるお言葉、何よりの励みとなります。」


 ユーリの言葉に続いて、セラとルシア、アリエルの三人が一歩前へ進み出る。


 そろえた動作で、静かに優美な一礼を捧げた。


「本当に、ありがとう」


 誰も言葉を発さなかった。

 その“ありがとう”が、どんな勲章よりもまっすぐに、ユーリたちの胸に届いたからだ。

 王たちの言葉が終わると、広間の奥で一斉に、重臣たちが最敬礼の姿勢をとった。

 その敬礼は、玉座の主にではなく──


 新たに“認められた者たち”へと向けられた、誠実なる礼でもあった。


 玉座の間に再び沈黙が訪れたそのとき──


 近衛の一人が一歩前に進み出て、剣の柄に手を添えたまま、張りのある声で宣言する。


「──これにて、謁見は以上と相成ります」


 その一言に、広間の空気が音もなく収束した。

 列席していた貴族や重臣たちも、深く頭を下げ、謁見の終わりを静かに迎える。


 ユーリたち五人は、玉座に向けて最後の跪拝を捧げ、

 ゆっくりと立ち上がった。


 背を向けぬよう、数歩を後退。

 誰もが練習した通りの所作で、踵を返し、堂内の大扉へと向かって歩き出す。


 王も王妃も、王女も、その背中を静かに見つめていた。


 荘厳な扉の前まで来ると、衛兵たちが音もなく動き、大扉が開かれる。


 その瞬間、玉座の間の重々しい空気から、外の世界へと空気が入れ替わるような感覚に包まれる。


 一行は揃って振り返り、玉座の間へ向けて深々と一礼。


 ──そして、大扉が静かに、重く閉じられた。


 緊張という名の鎖が、ふっとほどける。

 重圧から解放されたように、誰からともなく息を吐いた。


 セラは胸元をそっと押さえて、長く息をつく。


「……緊張したぁ……」


 ルシアは髪を耳にかけながら、ユーリをちらりと横目で見て、

 小さく、けれども明確に言った。


「……よくやったわね、ユーリ」


 その言葉に、ユーリは思わず苦笑を浮かべた。

 肩の力がようやく抜けると同時に、胸の奥に、確かに何かが“残っている”のを感じる。


 それは、責任か。誇りか。期待か。──あるいは全部か。


 控え室に戻ると、扉を開けた瞬間に明るい歓声が上がった。


「おかえりなさい!!」


 エルナと店員たちが駆け寄るようにして出迎え、全員を見回して目を潤ませる。


「もぉ、緊張してこっちが胃痛だったんだから……」


 彼女のその言葉に、セラが思わず吹き出し、アリエルが小さく笑みを浮かべる。


「でも──本当に、みんな……無事でよかったわ」


 ルシアが何気なく手を広げると、エルナが思わず抱きつくように飛びついた。


 カイルはソファに腰を落とし、肩を回しながら呟く。


「……なんか、やっと“降りてきた”気がするな」


 ユーリは金貨と証書の入った箱を傍らに置き、窓際に立って空を見上げた。

 高く晴れ渡った空が、どこまでも広がっている。


 ──ここまで来た。

 でも、ここからが本当の始まりなのかもしれない。


 そんな予感が、胸の奥に静かに灯っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ