覚醒戦闘──ルシア、君に意思はあるか?
扉の奥へと、ユーリは一歩を踏み出した。
そこは想像以上に広い空間だった。
無音。無風。だが、ただの闇ではない。
周囲の壁は滑らかで、時おり微かに光が脈動している。
「これ、完全に地下施設だな……」
天井は高く、数十メートル先には何かの装置群らしきシルエットも見える。
──そして、その中央。
何かが動いた。
低い唸り声。金属のきしみ。
そして、暗闇の奥から──獣のような姿をした機械生命体がゆっくりと姿を現した。
体高は2メートルほど。
四足の骨格に似た機械脚。甲殻のような外装。
だが、目にあたる部分には明らかに“カメラ”と“赤外線センサー”が装備されていた。
「……マジで、ロストテクノロジーじゃねぇか」
その瞬間、背後で粒子が輝いた。
「脅威指数、クラスC。戦闘推奨──準備完了」
ルシアの声が、いつもより一段強く響く。
声とともに、彼女の粒子が強く発光し始めた。
これまでただ浮遊していた光の粒が、花弁のように展開し、ユーリの周囲に広がる。
中心核に位置する粒は、まるで“目”のように回転しながら淡く輝いた。
「ルシア……君、意識あるのか?」
《まだ全機能は覚醒していません。でも──ユーリの危機には対応できます》
明確な意志を帯びた返答だった。
粒子はユーリの背後に集まり、ふわりと宙に浮いたままシールドを展開する。
Chat Formのホログラムが起動する。
>> Support AI “Lucia” - Active Sync: 37%
>> Combat Protocol Alpha - Assist Mode Enabled
>> Auto-Block: Enabled
>> Reaction Overlay: ON
「……やれるってわけか。頼もしいな、相棒!」
ユーリは腰のガンスラッシュを抜いた。
その瞬間、敵が動いた。
金属脚を鳴らしながら、猛然と突進してくる獣型機械。
目から赤いスキャン線を照射し、まっすぐにユーリへ狙いを定めていた。
「来るっ!」
その牙が迫る直前──ルシアの粒子が反応した。
カシン!
光の盾が展開され、突進の軌道を逸らす。
敵の身体がスライドしながら壁に激突した。
「ナイス、ルシア!」
《ガンスラッシュ射撃モード、推奨。弱点、背部エネルギータンク。》
すかさずユーリはガンスラッシュを構え、
セミオートの射撃モードへスイッチする。
「撃てる──なら!」
トリガーを引く。
魔力と粒子が同期し、青白い閃光が走る。
──着弾。
爆ぜる火花。
機械獣の背が破れ、スモークが噴き出した。
《一撃での無力化には至らず。追加ダメージを推奨。》
「もう一丁……!」
そのとき、敵の尾が鞭のように襲いかかってきた。
しかし、今度はルシアの粒子が反射壁を形成。
青い網目状のバリアが出現し、尾の一撃を受け止めた。
「くっ、……今の防御、完全に意思があるな……!」
《はい。あなたを守る。それが、私のプライオリティです》
その言葉に、ユーリは思わず笑みを浮かべた。
「……だったら、俺も応えないとな!」
再度の一撃。
跳躍し、空中から敵の背へ剣を振り下ろす。
刃がコアを穿つ。
機械獣が呻くようなノイズを発し、その場に崩れ落ちた。
沈黙が戻る。
ユーリは息を整えながら、ゆっくりとガンスラッシュを納めた。
「……はぁ。終わった、か」
《敵性個体、排除確認。安全域、50メートル内確保。》
光の粒はゆっくりと落ち着き、再びふわふわとユーリの周囲を漂いはじめた。
ルシアの声は変わらず機械的だ。だが、確かな“感情の芽”が、その裏に宿っていた。
《ありがとう、ユーリ。……まだ、全部思い出せないけど──私は、ここにいる》
ユーリは小さく頷いた。
「十分だよ。……ここまで来れたのも、君のおかげだ」
まだ、遺跡の奥には謎が残っている。
この世界に何があったのか。
なぜ、“地球”とは異なる歴史を歩みながら、こうした構造体やAIが存在しているのか──
それを知るために、ユーリは歩き続ける。




