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最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第34章「女神の降臨と王都に響く噂」

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意匠会議──オセロと職人の手

 冒険者ギルドでの謁見書面の記入と紹介状の受け取りを終えたユーリ、カイル、ルシアの三人は、その足で王都の中心部にある商業ギルド本部へと向かっていた。


 荘厳な石造りの建物の中に足を踏み入れると、室内はすでに朝の交渉や来訪者で賑わいを見せていた。

 それでも昨日顔を合わせたマルビスとの約束を告げると、受付の対応は迅速だった。


「マルビス様と、オセロの意匠についてのご相談ですね。──こちらへどうぞ。応接室でお待ちください」


 案内されたのは、内装の落ち着いた木張りの部屋。壁には商標登録に関する各種賞状や、過去の商談成立案件の記念品などが並んでいる。


 数分後、扉がノックされ、マルビスが数枚の書類を抱えて現れた。


「おはようございます、みなさん。お待たせしました」


 にこやかに挨拶しながら入ってきた彼の背後に、もうひとりの人物が続いた。


 ──女性。


 年齢は三十五歳前後。長めの橙色の髪をバンダナでまとめ、日焼けした褐色の肌が健康的な印象を与える。

 引き締まった体つきには職人としての重みがあり、鍛えられた腕は作業服の袖からはっきりと見て取れた。

 身長はカイルより少し低いが、存在感は一歩も引けを取らない。


 上から紺色のエプロンを巻いたその姿は、“現場の女傑”そのものだった。


「紹介します。当ギルドの工房責任者──ディアナ・バルドロスです」


 マルビスの紹介に続いて、女性は気さくに手を上げた。


「よっ。よろしくな」


 短く、しかし力強い挨拶。


 その眼差しは、すでにユーリたちを“依頼人”ではなく“共にものを作る相手”として見据えていた。


 ディアナ・バルドロスは、腕組みを解き、腰に手を当てたままじろりと三人を見渡す。


「で、誰だ? ──あの面白いもんを考えたのは」


 その声は低くも響きがあり、まさに職人の現場声といった風格だった。


 ユーリは少し気後れしながらも、素直に手を挙げる。


「……僕です」


「はぁ?」


 ディアナは驚いたように目を見開いた。


「おまえ……まだ子どもじゃねぇか」


 そう言いながらも、じっとユーリを見つめ、ふっと小さく笑った。


「……でも、そうか。納得した」


 そして、自分で言って自分で納得したように頷く。


「このへんの大人連中からは出てこねぇ発想だ。ああいうのは、“常識の外”から投げ込まれてくるもんだな。おまえ、すごいな」


「ありがと……ございます」とユーリが戸惑いながら返す横で──

 なぜかルシアがドヤ顔で胸を張っていた。


「ね? ユーリはやるときはやるのよ」


「お前じゃないからな」とカイルが小声で突っ込みかけるが、空気は穏やかで和やかだった。


 ディアナは楽しげに話を続ける。


「試しにな、作ってみたんだよ。“オセロ”ってやつ。そしたら職人連中が夜遅くまで夢中になってよ。『白で勝ったー!』とか『角取られたぁ!』って……もう、工房が昼の遊技場かって騒ぎでな」


「職人が夢中になるほどなら、可能性はありますね」とルシアが口を挟むと──


「……あの、そろそろ“意匠”の打ち合わせを始めてもらえますか?」


 傍らに控えていたマルビスが、申し訳なさそうに口を挟んだ。


「おぉ、そうだったな。すまねぇマルビスさん」


 ディアナは頭をかきながら席につき、他の三人もそれに続くように椅子へ腰を下ろす。


 木製の円卓には、すでにいくつかの図案やサンプルが用意されていた。


「さて……ここからが本番だな」


 ディアナの目が真剣な職人のそれに変わる。


 応接室のテーブルに置かれた図面や素材サンプルを前に、ユーリが口を開いた。


「まず、基本のルールに関わる部分だけは、絶対に変えたくありません」


 手元の紙に描かれた簡易スケッチを示しながら、はっきりと伝える。


「盤面は八マス×八マス──計六十四マス。その配置は固定です」


「石の数も六十四枚。裏表で白黒、またはそれに準ずる対色で、裏返して使う形式」


「でも、裏と表は“同系色”にはしないようにしてください。視認性の問題もあるし、ゲームの本質にも関わるので」


 そこまでは明確に“変えてはいけない”線として伝えた。


 その上で、ユーリは続ける。


「それ以外の部分──たとえば盤面の装飾とか、石の縁とか、素材なんかは、自由にアレンジしてもらって構いません」


 それを聞いたディアナは、口元にニッと笑みを浮かべて頷いた。


「ふむふむ。なら、盤面は象嵌風の木製パネルにして……石は黒曜石と白磁を使ったら豪華になるな。枠に金糸の細工とか入れてさ」


「おお……それ高級感ありますね」とルシアが嬉しそうに頷いた。


 だが──


「……ディアナさん。期日は“明日”の夕方なんですよ」


 横からマルビスがそっと釘を刺すように言った。


「……へ?」


 ディアナの顔が一瞬で固まった。


「明日? 明日って……十八日の、明日!?」


 ぐわっと椅子にのけぞり、両手で頭を抱える。


「おいおい……材料の選定どころか、加工工程まで組み直しだぞ!? 使う素材によって研磨の時間も焼き入れも変わるし……無理じゃねぇか!?」


 ディアナの額には本気の職人としての焦りが浮かぶ。

 応接室の空気に、やや重い沈黙が漂った。


 マルビスは申し訳なさそうに資料を直しながら、小さく肩をすくめる。


 ユーリも少し考え込むように沈黙していたが──


 そのとき、カイルがぽつりと口を開いた。


「ユーリ。昨日、おまえ言ってたよな」


「“発想を伝える”って」


 ユーリは「うん」と頷く。


 カイルは、目を細めて続けた。


「なら、別に“豪華に作る”必要はないんじゃないか?」


「見た目がすごいのもいいが、“どう遊ぶか”“どう楽しむか”……その発想こそが伝わればいい」


「そいつを形にできるなら、見た目はあとでいくらでも盛れる。そうだろ?」


 その言葉に、ユーリもルシアも、そしてディアナも──ふと、顔を上げた。


 カイルの一言で流れが変わった応接室。


 ユーリは静かに頷きながら、前世で遊んでいた「オセロ」の記憶をたどる。


「──僕が知ってるオセロは、もっと簡素なものでした」


 そう言って、彼は手元の紙にさらさらとスケッチを描き始める。


「盤面は木製。表面には緑色の布地が貼ってあって……その布に黒い線でマス目が引かれてます」


 四角く仕切られた八マス×八マス。


「石」は円型。白と黒で裏表に色分けされた単純なものだ。


「……あとは、盤面の端に石をしまう“くぼみ”があって、使ってない石はそこに収まるようになってました」


 スケッチが完成するのと同時に、ディアナとマルビスが身を乗り出す。


「……なるほど。これなら……材料もすぐ用意できる」


「加工も最小限だ。布地の貼り込みに手間はかかるけど……うん、間に合う!」


 ディアナがポンと手を叩いて立ち上がった。


「よし決まりだ!」


 彼女は満面の笑みでユーリの前に立つと──


「おまえ、すげぇな!」


 そう言って、がっしりと握手の手を差し出す。


「ありがとよ! こっちは責任もって作るからな!」


 ユーリが驚きつつも握手を返すと、ディアナは次にカイル、そしてルシアにも順番に力強い握手を交わした。


「ね。ユーリってすごいでしょ」

 ルシアはなぜか再びドヤ顔で胸を張っていた。


「……うん、まあ、そうなんだけどね」とカイルがぼそっと返す。


 ディアナは資料と図面をまとめると、勢いよく扉へと向かう。


「じゃ、工房に戻る! 今日徹夜で仕上げるぜ!」


 そう叫んで、彼女は嵐のように去っていった。


 後に残されたマルビスが、静かに一礼する。


「それでは──明日の夕方、またお会いしましょう」


 一同が頭を下げると、応接室を後にし、商業ギルドの建物をあとにする。


 外に出た瞬間、澄んだ青空の下、街のざわめきが耳に戻ってきた。


 その通り沿いで、ユーリは歩を緩め、カイルの方へ顔を向ける。


「ありがとう、カイル。助かったよ」


 素直な声だった。


 カイルは口元をゆるめて片手を軽く振った。


「気にすんな。おまえが一人で抱え込むより、ちょっと背中押してやっただけだ」


「……でも、あの一言で流れが変わったよ」


「まあな」


 ぶっきらぼうだが、どこか照れ隠しのようにも聞こえる声だった。


 そのやり取りの横で、ルシアが再びドヤ顔で頷いていた。


「ふふん。ユーリって、やっぱりすごいのよね」


「だから、それお前の手柄じゃないからな……」


 そう呟くカイルに、ユーリは苦笑しながら歩き出す。


 次なる目的地──執政庁へ向けて。

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