干ばつの村──小さな希望の訪問者たち
X-Runner Variaはゆるやかな丘を越え、街道沿いに広がる小さな村へと滑り込んでいった。
道沿いの畑は土が固く締まり、表面には細かいひび割れ。ところどころに枯れた茎だけが残り、新芽は見当たらない。
木造の家々には生活の痕跡はあるものの、人の姿はほとんど見えなかった。
「……静かね。誰もいないわけじゃないのに、活気がない」
ルシアが窓の外を見ながら呟く。
ユーリも同じ印象を抱いていた。村は荒れていない。誰かがきちんと手を入れている。けれど、どの家も扉を閉ざし、人々は顔を見せようとしない。
そんな中、一人の中年の女性が畑の道からこちらを見つけた。
X-Runnerから降りたユーリが、丁寧に挨拶する。
「こんにちは。突然の訪問で失礼します。旅の途中なんですが、このあたりに泊まれる場所があればと思って……」
女性は驚いたように目を見開いた後、少しだけ緊張を和らげた。
「泊まり……あんたたち、冒険者かい?」
「はい。正確には調査と交易を兼ねた旅なんです。……あの、もしよければ少しだけ、お話を聞かせてもらえませんか?」
女性はためらいながらも、ぽつりとこぼした。
「……去年の干ばつで、作物がぜんぶダメになったのさ。今は備蓄をちびちび食いつぶしてる状態だよ。冬を越したはいいが、夏までもつかどうか……」
セラが息を呑み、ユーリは静かに頷いた。
「……もしかしたら、僕たちがお手伝いできるかもしれません。村長さんにお会いできますか?」
女性は驚いたように眉を上げ、しばらく黙ってユーリの顔を見ていたが、やがてうなずいた。
「……こっちだ。村長の家に案内するよ」
通されたのは、村の中央にある小さな家だった。室内には古びた書棚と暖炉があり、年配の男性が一人、椅子に腰かけていた。
ユーリは改めて挨拶をし、簡潔に名乗ると、牛の肉と食料コンテナ、そして種子の話を始めた。
村長は最初こそ慎重な顔をしていたが、説明が進むにつれて目を見開き、やがて震えるように頷いた。
「……信じられん。そんなものが……」
「皆さんに少しでも役に立てればと思って……村の皆さんにも話してもらえますか?」
村長はすぐに村人を集めるよう人を走らせた。
数十分後、広場に十数人の村人たちが集まり、不安と期待の入り混じった視線がユーリたちに注がれていた。
◇ ◇ ◇
集まった村人たちの前に立ったユーリは、深呼吸してから静かに語り始めた。
「僕たちは、街道の途中で野生の獣を狩りました。その肉を、皆さんで分けてください」
手をかざすと、アイテムボックスから冷却処理された肉のコンテナが出現する。真空パックに整えられたそれは、村人たちの目を釘付けにした。
「……こんなきれいな肉、見たことない……」
「え、保存してたのか? 魔法か?」
どよめく声の中、アリエルとルシアがそれぞれ調理方法を説明する。
「この肉はすでに処理済みです。焼いても煮ても大丈夫。火力さえあれば、誰でも扱えます」
「脂身が多い部位は煮込み料理に、赤身は炙って塩を振るだけで十分美味しいわ。こっちのレシピは、端末に入ってるから印刷して渡すわね」
村人たちは驚きと戸惑いの入り混じった表情でそれを聞いていたが、その顔には次第に光が戻り始めていた。
だが、それで終わりではなかった。
ユーリは次に、少し大きめの金属コンテナを転送した。
中を開くと、保存食・栄養食・調理器具などが整然と並び、乾燥野菜や濃縮スープ、さらには多機能鍋まで含まれていた。
「これは……?」
「祖父が残してくれた災害用の支援物資です。エネルギー効率がよくて、水さえあれば簡単に調理できます。……いざというときのために取っておいたものですが、今使うべきだと思いました」
村人の一人が小さくつぶやいた。
「まるで……神様の使いじゃ……」
ルシアがそれを聞いて小さく笑いながら言う。
「神様じゃなくて、ただの“旅人”よ。少しだけ、手の届く力を持っただけ」
そして、最後にユーリが取り出したのは――一見すると何の変哲もない、小さな種の入ったカプセルだった。
「……これ、見た目はただの種ですが、実は“Replicator Seed”といって、環境に適応して自動的に発芽・成長するように設計されているらしいです」
村人たちは目を見合わせた。半信半疑の空気の中で、アリエルが一歩前に出て補足する。
「この種は、干ばつにも高い耐性があります。極端な痩せ地でなければ発芽し、一定期間で食用作物に成長します。ただし、最初の数日は水を絶やさず、成長管理を定期的に行ってください」
「記録端末があれば、育て方のマニュアルも転送できます。紙がいい場合は印刷します」
村の人々は、もはや誰も声を出せなかった。ただ静かに、それでも確かに、希望の芽が宿るような表情で、ユーリたちを見つめていた。
そして、ユーリは深く頭を下げた。
「……すみません。僕たちは王都に向かっていて、今すぐには長く滞在できません。なので、今日はこの食料と種、それと――」
小さな袋を取り出し、中から数枚の金貨を差し出す。
「ほんの少しだけですが、これも置いていきます。必ず、いずれ戻って復興のお手伝いをします。それまで、どうか頑張ってください」
村長は両手でそれを受け取り、声を震わせた。
「若いの……名前を、教えてくれんか」
「……ユーリ・アルヴェインです」
「アルヴェイン……忘れんよ。その名は、この村の祈りの中に残るだろう」
出発の準備を整えた一行が村を発とうとすると、子どもたちが道の両脇に並び、小さな手を振っていた。
「ありがとうー!」
「また来てねー!」
その声を背に、X-Runner Variaはゆっくりと街道へと戻っていく。
それは、確かに小さな出会いだった。
けれど確かに、未来へと繋がる出会いでもあった。




