昼の街道──野生牛と一億リヴェル
昼下がりの太陽が照りつける中、X-Runner Variaは街道を滑るように走っていた。運転席ではユーリがハンドルを握り、その隣にはアリエルが静かに座っている。彼女は時折ディスプレイを操作しながら、周囲の状況を監視していた。
荷台のシェルター内部では、ルシア、セラ、カイルがそれぞれ寛いだ様子で座っている。シートは柔らかく、振動もほとんど伝わってこない。まるで走る高級宿のような快適さだった。
車内通信を開き、ユーリが問いかける。
「なあ、ルシア。商業ギルドとの契約って、結局いくらになったんだ?」
数秒の沈黙の後、ルシアの声が通信から響いた。
「ふっふっふう、聞いて驚け! 金貨にして――一万枚。一億リヴェルよ!」
その瞬間、X-Runnerはギュッとブレーキをかけて減速し、舗装された街道に軽くタイヤを鳴らす。
「いっ……一億ぅ!?」
運転席と荷台で声が重なった。ユーリとセラがほぼ同時に叫び、カイルが肩をすくめて笑う。
「落ち着け、二人とも」
シートに寄りかかりながら、カイルが冷静に言う。
「一億リヴェルってのは確かにすごいが、王都と交易を継続すればそれ以上になる。これはあくまで“初回納品分”と“トランプ”っていう発明への対価ってだけだ」
「本来なら白金貨千枚分で一括だったが、ルシアが……」
「だって、王都でドレス買うんだから白金貨なんて出したらお店の人困るでしょ?」
通信の向こうで得意げに言うルシアに、ユーリはため息をつきながらハンドルを握り直す。
「……とりあえず、近くの村まで行こう。今日は、いろいろ考えることが多すぎる」
次の集落までの距離を確認したアリエルが、ナビゲーション画面を指差す。
「直進約二十キロ先に、小規模な村落を確認。その手前の街道に――」
彼女の言葉が終わるより早く、ユーリは視線を前方にやった。街道の先、ゆるやかな丘の影に、大きな影が群れている。ナビゲーションに拡大画像が表示される。
「……牛?」
いや、正確には牛“のような”野生獣たち。十数頭はいる。がっしりとした体躯に厚い皮膚、角も立派だ。だが、周囲に人影はない。どうやら家畜ではなさそうだった。
ユーリはクラクションを軽く鳴らす。が、群れは動かない。
再びクラクション。そして、今度は小さくエンジン音を吹かしてみる。
無反応。
「……完全に無視かよ」
少しだけ笑ってしまいそうな状況に、ユーリはふとあるアイデアを思いつく。
「よし、こいつら……今日の晩御飯にしよう」
軽く冗談交じりに言ったつもりだったが、車内が一瞬静まり返る。
「本気なの?」
セラとルシアの声が重なる。
「食べきれなくてもアイテムボックスに保管できるし、大丈夫だろ」
「なら――俺が仕留める」
そう言ってカイルが立ち上がった。口元に笑みを浮かべながら、シェルターのドアを開き、地面に降り立つ。
「ユーリがやると、爆発して炭になるだろうしな」
「……否定できねぇ……」
荷台の扉が閉まる音と同時に、カイルは愛用の銃を構えた。腕は確かだ。数秒で狙いを定めると、ゆっくりと引き金を引く。
小さな破裂音とともに、一頭の獣がその場に崩れた。
他の牛たちは驚き、街道を外れて一斉に走り去っていく。
「……な、きれいにできたろ?」
銃を懐に戻しながら振り返るカイルに、車内から自然と拍手が起こった。
「おー!」
「すごい……!」
「ナイスショットね」
思わず笑みがこぼれた。初めての狩猟とは思えぬ鮮やかな手並みに、誰もが感心した。
旅の初日から、早くも今夜のメニューが決定したようだった。




