稼ぎ方の模索──遊びと商いの狭間で
冒険者ギルド・エインクレスト支部。
朝の喧騒もひと段落し、受付カウンター前にはちらほらと人が並んでいた。
「金貨百枚超え……やっぱ、そう簡単には出てこないか」
ユーリが依頼掲示板前でこっそり溜息をつく。
その隣で、カイルが腕を組んでいた。
「短期間で終わって、大金が入る依頼ってのは、そもそもそうそう無いもんだ。ギルドとしても割に合わないしな」
ユーリは、受付でカリナに声をかけた。
「おかえりなさい、ユーリくん。何か忘れ物?」
「いや……その、カリナさん。高額依頼って、今なにかありますか?」
カリナは少し目を細め、後方の書類棚から何枚かの依頼票を取り出す。
「高額、というと……金貨百枚を超えるレベルね?」
「うん、できればそれくらい」
カリナは依頼票を数枚机に並べながら首を横に振る。
「今ある高額依頼は、魔物討伐と物資運搬が中心ね。どれも移動だけで三日以上かかる。いま受けると、王都への出発には間に合わなくなるわよ」
ユーリはカリナの言葉に顔をしかめた。
「なるほどな……出発前にもう一稼ぎってわけにはいかないか」
「まあ、王都で稼げばいいだろ。あっちは規模が桁違いだし、依頼も質も段違いだ」
カイルが軽く肩をすくめて言った。
その口調に少し苦笑するような響きが混じっていた。
「商業ギルドってのもあるぜ? 遺跡で拾った素材やアイデアを商品化して、売り込むって手もある」
「商品化か……」
ユーリは考え込む。自分にとって“使える”と判断した物は、それなりにある。だがそれを他人にどう売るかとなると、また別の話だ。
ふと、カリナが鋭い目つきでカイルの方を見た。
「王都での稼ぎもいいけど……気をつけてよね、カイル」
「……へ?」
カリナの視線は冷たく、どこか刺すような鋭さを帯びていた。
「私、忘れてないから。前にカイルが持ち込んだ“商売話”、大騒動になった件」
「ま、まってくれよカリナ、それは誤解ってもんだろ? 俺はただの仲介で――」
「はいはい、弁解はいいです。ユーリくんを巻き込んだら、私が許しませんからね」
「……りょ、了解しました……」
明らかに縮こまるカイルに、ユーリが思わず笑いをこらえる。
ルシアは興味深そうにそのやり取りを見つめていた。
ギルドの空気が少しだけざわつく中、ユーリは少し離れた窓の外──市場通りを眺めた。
石畳を行き交う人々、露店に並ぶ小物や食品。
そして通りの脇に、子どもたちが集まり、手遊びや石を使ったゲームをしている姿。
──ああ、そうか。
「……そういえば、みんな何して遊んでるんだろ?」
思わず漏れたユーリの独り言に、カイルが振り返る。
「ん? 遊び?」
「いや……前に、X-Runnerの改造の時に話してたんだ。旅の途中って、移動が長いんだよ。退屈だって」
ユーリは窓の向こうを見つめたまま呟く。
「そういう時に、誰でも遊べて、持ち運びできて、飽きがこない……そんなもんがあったらいいのになって」
「ほう、なるほどな。で? あるのか?」
「…………ある。前の世界には」
カイルが片眉を上げた。
「そりゃ気になるな。なんて名前のもんだ?」
ユーリは口を開きかけて──すぐに閉じた。
(……危ねぇ。また前世のことを言いそうになった)
ルシアが後ろから静かに肩を叩く。彼女の優しげな笑みに、ユーリは小さくうなずいた。
「ま、とにかく。ちょっと……試してみたいものがあるんだ」
そう言ってユーリは背伸びをし、ぱん、と手を叩いた。
「よし、薬草舗に戻ろう! アリエルに相談してみる」
「……なんか嫌な予感がする」
カイルがぼそりと漏らすと、カリナはそれにかぶせるように呟いた。
「嫌な、というより……面倒くさい予感ね」
「聞こえてんぞ、ふたりとも!」
ユーリの抗議が、静かなギルドの空間に響いた。




