旅路の予感──謁見と王都の装い
X-Runner Variaは、薬草舗へと続く石畳の道を静かに進んでいた。
アイテムボックスに収納する直前、試運転を兼ねて少しだけ走らせたその足取りは重厚ながら滑らかで、まるで鋼鉄の獣が街を歩いているようだった。
「……まさか、これを引っ提げて王都に行くことになるとはな」
助手席にいたカイルがぽつりと呟く。
「変じゃないよな? 変じゃないと思うんだけど」
ユーリが運転席で問いかけると、後ろからセラの声が返った。
「変じゃないよ、すごくかっこいい! ……けど、目立つのは間違いないかも」
「王都で騒がれたりしなきゃいいけどな……」
ルシアが腕を組んでふんっと鼻を鳴らす。
「むしろ見せびらかしてやればいいのよ。“これが未来の冒険者スタイルよ”って」
それを聞いてユーリは苦笑いしながら、ちらりと隣のカイルに視線を向けた。
「なあ、カイル。王都って、どんな感じなんだ? 城下町とか王城とか……俺ら、何すればいい?」
カイルは腕を組んでから、少し真面目な顔になる。
「城下町は、まあ何でもあるって思っていい。商人も職人も貴族もいる。物も人も、多すぎるくらいにいるな」
「じゃあ、俺たちみたいなのが歩いても浮かない?」
「浮くには浮く。お前ら、ちょっと目立つしな。でも、旅人も多いから“変わってるな”くらいで済むだろうさ」
そう言ってから、彼は小さく肩をすくめた。
「ただし、王城での“謁見”は別だ。あれは儀礼だ。相手は王族、いや、王だ。粗相があったら、こっちが恥をかくってより、支部全体の恥になる」
「……なるほど。何も知らずに行ったら田舎者丸出しか……」
ユーリが真顔になった瞬間、ルシアがくすくすと笑い声を漏らす。
「じゃあ、せめて格好だけでも整えた方がいいんじゃない? 王都では素敵なドレスがたくさんあるんでしょう?」
セラもぱっと表情を明るくして、カイルに聞き返す。
「ドレスって……ほんとに? 私、見たこともない……!」
「そりゃああるさ。こことは比べもんにならない。靴も宝飾品も全部な。王都価格だがな」
「う……やっぱり高いんですね……」
セラが眉を下げる横で、ルシアは顎に手を当てて真剣な表情をしていた。
「でも“神の使い”の服装が貧相では、格式が台無しね。やっぱり女神には女神らしい衣装が必要だわ……!」
「誰が女神だよ……」
ユーリが思わず突っ込むと、カイルがにやりと笑った。
「まあ、見繕ってやることはできるさ。俺の知り合いの仕立屋が王都にいる。ちょっと高いけど、間違いない」
ユーリは頭を抱えた。
「……俺の懐、もつかな……。いっそ王都でバイトでも……」
「え、ユーリが働くの? なんか、面白そう!」
「面白がるなよ!」
車内には笑いが広がった。
だがその笑いの中に、ユーリは確かな“期待”と“緊張”を感じていた。
──初めて訪れる王都。
そこには、自分たちの知らない常識と、これから背負う何かが待っている。




