さらば、優しき日常──旅立ちの春に
家の手伝い。
「遊び」と称した鍛錬。
時折、村の周囲に現れる魔物の掃討。
──それが、ユーリ・アルヴェインの変わらない日常だった。
誰よりも早起きし、薪を割り、水を汲み、家の掃除と畑の手入れを欠かさない。
日中は村の子どもたちと遊ぶ“ふり”をして裏山で訓練。
夜は自室で密かにChat Formを展開し、魔法と技術の統合テストを続ける。
そのすべては、いつか“旅立つ日”のために──
そして、15歳の春。
その日はとうとうやってきた。
村に、交易のキャラバンが来た。
外の街と村を繋ぐ数少ない定期往来。
このキャラバンは、次に来るのが半年以上先になる。
それはつまり──
「……今日、出るよ」
その朝、ユーリはアネリスの前に立ってそう告げた。
「……そう。……そうなのね」
アネリスは、泣かなかった。
けれど、その手は少し震えていた。
「お父さんも……お母さんも、きっと見てるわ。立派になったものね、ユーリ」
「……ありがとう。行ってきます」
抱きしめられたのは、いつぶりだったろう。
言葉の代わりに、ただ優しく、強く、背中を押してくれた。
キャラバンは、村の中心で準備を整えていた。
獣に引かせた荷台、街道用に補強された車輪、警備役の傭兵たち。
隊商長がユーリに声をかける。
「坊主、道中一緒に行くって話だったな? 一日だけなら無料でいいぜ。俺たちも途中まで護衛が増えるのは助かる」
「感謝します」
ユーリは、荷馬車の後部に軽く飛び乗った。
その横では、淡い光をまとった小粒子──ルシアが静かに漂っていた。
「今日から、だな」
彼は、小さく呟いた。
そして、そのままキャラバンは出発した。




