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最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第26章「赤髪の訪問者と奪われたカード」

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それぞれの印象──赤髪の背中を見送って

カイルが去った後、バーの中には静けさが戻っていた。

 淡いランプの光がゆらゆらと揺れ、誰もいないカウンター席に彼が残していった煙の匂いが微かに漂う。


 ルシアはくるりとユーリの方へ向き直ると、腰に手を当ててため息をついた。


「……ったくもう。やり方がめちゃくちゃなんだから」

「ごめん、ルシア。でも、あの人……たぶん悪い人じゃない」


 ユーリが苦笑混じりにそう返すと、ルシアは不満げな顔をしながらも、どこか納得したように頷いた。


「確かに、完全に敵ってわけじゃなさそうだったけど……でもね、ユーリ。最初に盗むのは減点ポイントよ?」

「……うん、そこは同感」


 そのやり取りを聞いていたアリエルが、感情を抑えた穏やかな声で口を開く。


「彼の言動は一定の規範から外れてはいましたが、敵意はなかったと判断できます。少なくとも、この場では」

「でもアリエル、君が珍しく言葉を選んでるね」

ユーリがそう問うと、アリエルはほんの少しだけ視線を落とした。


「……私、彼の目を見た時、感じました。過去に多くのことを経験してきた人の、複雑な迷いと……覚悟」


 言葉の尾に、ふっと影が落ちる。


「過去に、似た目をしていた研究者がいました」


 それ以上は語らず、アリエルは静かに視線をバーの出口へ向けた。


 ──そして、ユーリもまた、去っていったカイルの背中を思い返していた。


(力、知識、金、権力──持ってない奴は食われる……)


 それは、前世の社会でも幾度となく耳にした言葉だった。

 だが今のユーリは、それを自分のものとして飲み込むには、まだ若かった。


「……でも僕は、持っているもので誰かを“食う”ような人間にはなりたくない」


 小さな決意を噛みしめるように呟いたその言葉に、ルシアとアリエルはそれぞれ微笑んだ。


 そんな三人の会話を背に、カウンターの奥にいたバーのマスター──白髪の小柄な老人が、グラスを磨きながらぽつりと呟いた。


「まったく……やさしいな。カイルは……」


 その声は誰に聞かせるでもなく、ただ静かに酒場の空気に溶けていった。

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