変身解除──目立たぬ装いへ
エインクレストの街外れにある石造りの教会。その古びた扉が音を立てて開かれると、光の中からユーリたちが姿を現した。
「お若いご夫婦、どうかお健やかに──」
「またお会いできるのを楽しみにしていますよ」
老司祭と老シスターの温かな言葉に見送られながら、ユーリとセラ、そしてアリエルとルシアは石畳の小道を歩き出す。
「ルシア様って……本当に女神ルシア様だったんだね」
セラが少し遠慮がちに、けれど嬉しそうに言う。
「ちょ、やめてってば! “様”なんてつけないでよ。今まで通り、ルシアでいいの。ね?」
肩の上からふわふわと浮かんだまま、ルシアが半ば照れたように応える。
そのルシアの姿──淡紅色の長髪がなびき、純白と金を基調とした神聖な衣装、背には光の翼。そして後光のように漂う粒子の光。
どう見ても“ただの少女”には見えない。
「ルシア。その姿で街に戻るつもりか?」
ユーリが立ち止まり、真顔で問いかけた。
「……うん?あぁ、さすがに目立つわよね」
ルシアは自分の姿を見下ろし、ふむふむと考え込んだ。
その視線が、セラに向けられる。
「え? な、なに……?」
戸惑うセラの返答を待たずに、ルシアの身体が淡い光に包まれた。
少女アニメのような華やかな変身エフェクト──輝く輪が重なり、衣装が入れ替わる。
光が晴れたとき、ルシアはセラとほぼ同じ形のワンピース姿になっていた。ただし色は淡い桃色。スカートをふわりと翻し、軽やかに一回転する。
「ふふーん。これでどこから見ても普通の街娘よ☆」
胸を張って決めポーズ。
……とはいえ、そのプロポーションは隠しきれず、通りすがりの人々が一瞬、振り返っている。
「……またやってる」
ユーリが呆れたようにため息をついた。
「私も、服装を合わせた方がいいですか?」
アリエルが首を傾げながら問う。
「うん、無理にとは言わないけど、違和感は減るかも」
ユーリが頷くと、アリエルも光に包まれ、同様にセラ風のワンピースへと変身。色は淡い水色。
「うん、似合ってるよ」
ユーリがそう声をかけると、アリエルはほんのわずかに表情を緩めた。
「ありがとう、ございます。……ちょっと、照れます」
そんな様子を見て、ルシアがまた悪戯っぽく笑う。
「ふふっ、女の子三人も侍らせてるなんて、ユーリはモテモテねぇ☆」
「やめてくれ……」
ユーリは頬を引きつらせ、視線をそらした。
こうして、神降ろしの大事件から一転、まるで何事もなかったかのような姿で、彼らは薬草舗へ向けて歩き出すのだった。




