初陣──遊びじゃない、命を守る戦い
ある日の午後、裏山の高台で火球の術式をテストしていたユーリは、不意に違和感を覚えた。
風が止まった。
空気が張り詰める。森の音が、消えた。
まるで何かが、近くに潜んでいるかのような──そんな気配。
「……ルシア、何か来てる?」
粒子の光はゆっくりと揺れ、その中から音声が再生された。
「Warning:探知範囲内に“不明生命体反応”。移動速度緩慢、複数接近中。位置──村の南東林道より」
「不明……生命体?」
ユーリは咄嗟にChat Formのマップ表示を展開した。地形スキャンは簡易的なものだが、点滅する赤い反応が3つ、村に向かって進んでいるのがわかる。
「……これって、村に向かってきてる?」
その瞬間、背筋に冷たいものが走った。
──このままだと、村が襲われる。
動くべきか。それとも大人たちに知らせるか。
ほんの数秒の逡巡。
だが、ユーリは決めた。
「俺が行く。いける範囲で止める!」
祖父の遺した装備を呼び出す。
腰にガンスラッシュ、腕にシールドリング。ブーツにはサバイバルパックから出した軽補強装具。
「ルシア、支援を頼む」
「Acknowledged. Support AI 'Lucia' Standby-mode Activated.──指示プロトコル開放」
森を駆け下り、ユーリは反応地点の先回りを目指す。
草をかき分け、息を整えながら、彼はもう一度だけ心の中で呟いた。
(“遊び”じゃない……これは、初めての“実戦”だ)
その瞳には、迷いはなかった。
やがて木立の間から、姿を現したのは──
腐敗した皮膚。よろめく足取り。人ではない何か。
──魔獣。いや、“アンデッド”の類だ。
「くっそ……来やがったな……!」
ユーリは剣を構えた。
風が吹く。
村を守るための、最初の戦いが──始まる。




