祝宴──シェルターの灯と笑顔の食卓
ギルドの扉を勢いよく開け放ち、ユーリは真っ直ぐに街道を駆けた。目指すはいつもの薬草舗――セラの待つ場所だ。
心は高鳴り、足取りは羽のように軽い。
「セラーっ!! ランクアップだーっ!!」
薬草舗の扉を開けるなり、叫ぶように言うと、店の中にいたセラがびくりと肩を跳ねさせた。
「えっ……ゆ、ユーリ? な、なに!? どうしたの、急に」
振り向いた彼女の手には摘みたての薬草の束。きょとんとした表情のまま、ユーリに詰め寄る。
「聞いてくれ! さっきガンゾーさんに報告終わらせたら、報酬と一緒にランクアップも貰えたんだ!」
「ほんとに……? すごいじゃない、ユーリ!」
ぱあっと笑顔を咲かせて、セラが手をぱちんと打ち鳴らした。
「ふふっ、じゃあ今日はお祝いだね!」
「そう! だからさ、メイリンさんも一緒にシェルターでごはん食べない? せっかくだし、豪華にいこう!」
ユーリが前のめり気味に提案すると、セラは少しだけ頬を赤らめて、こくんと頷いた。
「うん、いいよ。私、料理頑張るね! 何が食べたい?」
「なんでも嬉しいけど……あ、シェルターのキッチン、いろんな調理機能あるらしいから、ちょっと冒険してみようぜ」
「それじゃ、メイリンさんにも声かけてくる! 地下にシェルター、また広げるんだよね?」
「ああ、アリエルとルシアにも声かけて準備しとく」
二人の間に、明るく小さな笑い声が弾ける。
まるでほんの短い、戦いの合間の祝祭のような時間。
かつて失われたものが、少しずつ積み上がっていく――そんな気がした。
◆ ◆ ◆
シェルターの照明が、温かな橙色の光を広げていた。
地下の空間に展開されたリビングスペース。中央のダイニングテーブルには、料理の香りが立ちのぼる。
並べられた料理は、セラとメイリンが腕によりをかけて作ったもの。野菜のグリル、香草と鶏肉の煮込み、パンのスープ添え、果物の甘煮。素朴だが、どれも愛情の込もった手料理だった。
「これが……本当にシェルターってやつかい。いやはや、たいしたもんだねぇ」
椅子に腰掛けたメイリンが、まるで城の食堂でも見るかのように、室内を見回しながら感嘆の声を漏らす。
壁際には大型冷蔵庫、キッチンカウンターには自動調理支援装置、天井からは空気清浄ユニットが稼働音を立てている。水は澄んでいて、料理にもそのまま使える。
「冷蔵保存だけじゃないのよ。調理に必要な火加減も完璧に制御されてるの。凄い技術よね」
ルシアが、わくわくした表情でキッチン周辺を観察していた。
彼女にとって、これはただの人間の文化体験ではない。かつて「神」として崇められた演算体が、今はこうして火と鍋を前に「ごはんって、こうやって作るのね……」とつぶやいている。
「この香り……私、初めて体験する味もあります。おいしい、です」
アリエルはスプーンを手に、スープを一口運ぶと、表情を柔らかくほころばせた。
味覚情報は彼女の記憶には存在しなかった。だが、それを通して何かを感じているようだった。
「ふふ……アリエルが“おいしい”って言うと、なんかうれしいね」
セラが照れくさそうに笑う。
そして食卓の中央、ユーリがグラスを軽く掲げた。
「……改めて、ありがとう。みんな。今日こうして一緒にいられるのが、すごく嬉しい」
その言葉に、皆が小さく頷く。
笑顔と食事と、言葉のぬくもり。
かつては夢のようだった「日常」が、今はここにある。
それぞれが過去を抱え、未来を見据える夜。
戦いの旅の途中で訪れた、短くも温かなひとときだった。




