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最弱村人だった俺が、AIと古代遺跡の力で世界の命運を握るらしい  作者: Ranperre
第23章「壊れた旋律と目覚めた扉」

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時を忘れて──現実に戻る声

 金属の軋む音と、空気のざわめき。

 壊れたピアノの前で、ユーリはしゃがみ込んだまま指先を鍵盤に沿わせていた。


 指が触れた鍵盤はすでに反応することもなく、いくつかは完全に外れていたが──

 それでも、そこに確かに“音楽”が存在していたことだけは、はっきりと感じ取れた。


「……これ、直せたら……また音、出るかな」


 小さく呟く声に、ルシアがふっと笑う。


「ユーリ、本気で直すつもり?」


「うん。……少しずつでいい。素材はあの工房にあるかもしれないし、部品も探せば何とかなるだろ」


 彼は立ち上がり、ピアノに手を当てたまま振り返った。


「こういうの、好きなんだよ。壊れたものを、もう一度“生き返らせる”のって」


 言いながら、目の前のアコースティックギター風の楽器にも目をやる。

 ボディの損傷はひどく、弦はすべて切れているが──


「こいつも、一緒に直そう。できたら……セラにも聴かせてやりたいし」


 そのときだった。


「ユーリ」

 背後から、アリエルの冷静な声が響いた。


「……そろそろ、冒険者ギルドに向かう時間です」


「っ……!」


 ユーリの肩がピクリと跳ねた。


 しばしの沈黙のあと、彼はバッと腕を振り上げる。


「あっ……やばいっ! 完全に忘れてた!」


 楽器に集中しすぎて、時間の感覚が吹き飛んでいた。


 ユーリは慌ててピアノから身を離れ、上着を整えながら出口に向かう。


「ギルドの約束、昼までだったよな!? 間に合うかこれ!?」


「まだリミットまでは二十七分あります。通常速度であれば十分到着可能です」

 アリエルは淡々と答えるが、ユーリはすでに駆け足気味だ。


 その姿を見て、ルシアがくすりと笑う。


「ほんと、もうちょっとで工具持ち出して作業始めるところだったわね」


「彼が夢中になると、時間を忘れるのは……よくあることですね」

 アリエルも静かに同意しながら、二人の後を追う。


 研究区画を後にするその背に、もう一度ピアノが沈黙の中に佇んでいた。

 壊れたままのそれは、今にも声を取り戻すのを待っているかのように。


 ──いつかまた、音が鳴る日が来るのかもしれない。

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