魔法という名のコード──始まりの火球
それから数年が経った。
ユーリ・アルヴェイン──十歳。
彼は今も、「遊び」と称した訓練を続けていた。
ガンスラッシュの素振り、シールドリングの展開操作、重い荷物運びによる筋力強化。
だがそれだけではない。
家では薪を割り、水を汲み、畑を耕す日々。
表向きは“村の子ども”として、ごく普通に暮らしている。
けれど、心の奥ではいつも燃えていた。
──強くなる。
──いずれ旅立つその日のために。
そして、十歳の春。
ユーリは「魔法」の訓練に着手した。
きっかけは、小さな異変だった。
ある日の訓練中、Chat Formに小さな通知が表示されたのだ。
Chat Form Module: MagicLayer Sync Level = 3%
Suggestion: Initiate Basic Spell Structure Test
「魔法……いけるのか?」
興奮しつつ、ユーリは《Chat Form》を展開し、粒子状の光──ルシアに話しかけた。
「ルシア。魔法、教えてくれ」
その光はふわりと漂い、ゆっくりと反応した。
「……基礎属性評価……完了。ユーリ・アルヴェイン:最適適性属性『熱変換/干渉型』。
小規模火球術式──起動許可」
「マジで……!」
画面には簡潔な術式モデルが浮かび、タッチ可能なレイアウトとして表示されていた。
昔のプログラミング言語に似ていた。
Syntax(構文)、Trigger(発動条件)、Output(出力形式)──
全てが、かつてのコードと重なって見えた。
「よし……じゃあ、遊ぼうか」
その日から、ユーリは“魔法”という名のコードを書き始めた。
地面に描いた構文陣、反応時間の短縮試行、属性出力のチューニング……
遊び、実験、失敗、成功、観察、改良。
まさに“開発者”としての血が騒ぐ毎日だった。
しかし──
その平穏は、思ったより早く破られる。




