表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/167

Chat Form起動──異世界に転生したAI開発者

――「プログラマーだった俺が、“スキル”としてAIインターフェースを得た日」

 光が、天井の蛍光灯のようにちらついていた。

 微かな電子音──警告音だろうか──が耳の奥で鳴り響き、視界に赤いウィンドウがフラッシュのように走る。


 ──No Response.

 ──CPU Error.

 ──Cardiac Standstill Detected.


 ……死んだ。

 その実感が、あとから染み込むようにやってきた。


 オフィス。狭いブース。明かりの落ちたフロア。開いたままのラップトップの画面には、最後まで書いていたAI制御スクリプトのデバッグログが映っていた。


「……また、やっちまったな」


 そう、ぼく──いや、“俺”は、死んだんだ。日本という国で、AIとコードと向き合いながら、30代前半のどこかで、誰にも気づかれず、ひとり静かに倒れた。


 ブラックだのホワイトだのって話じゃない。

 たぶん、好きだったんだ。AIと、システムと、未来ってやつが。


 だけど。だからこそ。もう少し、生きていたかった。

 ──そう思った次の瞬間、真っ白な世界に落ちていた。


 気がつけば、俺は赤ん坊の体になって、別の世界で産声を上げていた。


「ユーリ」と名付けられたその体は、人間ではあるが、どこか地球とは違う文化圏──いや、この星自体が違うらしいと気づくまで、そんなに時間はかからなかった。


 空の色、星の軌道、暦の単位、言葉、魔法と呼ばれるエネルギー体系──

 ここは地球ではない。名前も、文明も、歴史も、まるで別の「星」なのだ。


 そのことに確信を持ったのは、五歳の誕生日の前夜だった。


 夢を見ていた。

 懐かしいオフィス。モニターの山。キーボードの感触。

 だけどそれらはすべて色を失い、スキャンデータのように浮かび上がっては消えていく。


 その夢の終わり際に、不意に音がした。


 ──ピコン。


 軽い、けれど聞き覚えのある電子音。

 そして、視界の中央に浮かび上がるあの画面。


 >> Chat Form: Beta Interface Booting...

 >> Welcome, User_Yuuri.

 >> Please input ID / Password.


「っ……これ、まさか──」


 夢の中だというのに、背筋がぞくりと冷えた。

 これは俺がかつて開発していたAIインターフェースの名称だ。


 チャット型操作ユニット、汎用フレーム《Chat Form》。

 地球の、とある国家プロジェクトに組み込まれるはずだった、あの幻のUIだ。


 どうして? ここは地球じゃない。どうしてChat Formが?

 疑問が嵐のように押し寄せる中、ウィンドウの下部がゆっくりとスクロールし始める。


 >> SYSTEM DETECTED: Legacy Auth Code 27-B / MagicLayer_Sync.

 >> VOICEPRINT MATCH: Yuuri_Alvain = Yuuri_Kazuto (Former Name).

 >> ID CONFIRMED. PARTIAL MEMORY UNLOCKED.


「……Kazuto……それが、俺の名前だったな。前の世界での──」


 前世の記憶が、洪水のように脳裏に押し寄せる。

 開発、失敗、学会、恋、そして──死。


 それはまるで、失われたファイルを再生するようだった。

初投稿です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ