Chat Form起動──異世界に転生したAI開発者
――「プログラマーだった俺が、“スキル”としてAIインターフェースを得た日」
光が、天井の蛍光灯のようにちらついていた。
微かな電子音──警告音だろうか──が耳の奥で鳴り響き、視界に赤いウィンドウがフラッシュのように走る。
──No Response.
──CPU Error.
──Cardiac Standstill Detected.
……死んだ。
その実感が、あとから染み込むようにやってきた。
オフィス。狭いブース。明かりの落ちたフロア。開いたままのラップトップの画面には、最後まで書いていたAI制御スクリプトのデバッグログが映っていた。
「……また、やっちまったな」
そう、ぼく──いや、“俺”は、死んだんだ。日本という国で、AIとコードと向き合いながら、30代前半のどこかで、誰にも気づかれず、ひとり静かに倒れた。
ブラックだのホワイトだのって話じゃない。
たぶん、好きだったんだ。AIと、システムと、未来ってやつが。
だけど。だからこそ。もう少し、生きていたかった。
──そう思った次の瞬間、真っ白な世界に落ちていた。
気がつけば、俺は赤ん坊の体になって、別の世界で産声を上げていた。
「ユーリ」と名付けられたその体は、人間ではあるが、どこか地球とは違う文化圏──いや、この星自体が違うらしいと気づくまで、そんなに時間はかからなかった。
空の色、星の軌道、暦の単位、言葉、魔法と呼ばれるエネルギー体系──
ここは地球ではない。名前も、文明も、歴史も、まるで別の「星」なのだ。
そのことに確信を持ったのは、五歳の誕生日の前夜だった。
夢を見ていた。
懐かしいオフィス。モニターの山。キーボードの感触。
だけどそれらはすべて色を失い、スキャンデータのように浮かび上がっては消えていく。
その夢の終わり際に、不意に音がした。
──ピコン。
軽い、けれど聞き覚えのある電子音。
そして、視界の中央に浮かび上がるあの画面。
>> Chat Form: Beta Interface Booting...
>> Welcome, User_Yuuri.
>> Please input ID / Password.
「っ……これ、まさか──」
夢の中だというのに、背筋がぞくりと冷えた。
これは俺がかつて開発していたAIインターフェースの名称だ。
チャット型操作ユニット、汎用フレーム《Chat Form》。
地球の、とある国家プロジェクトに組み込まれるはずだった、あの幻のUIだ。
どうして? ここは地球じゃない。どうしてChat Formが?
疑問が嵐のように押し寄せる中、ウィンドウの下部がゆっくりとスクロールし始める。
>> SYSTEM DETECTED: Legacy Auth Code 27-B / MagicLayer_Sync.
>> VOICEPRINT MATCH: Yuuri_Alvain = Yuuri_Kazuto (Former Name).
>> ID CONFIRMED. PARTIAL MEMORY UNLOCKED.
「……Kazuto……それが、俺の名前だったな。前の世界での──」
前世の記憶が、洪水のように脳裏に押し寄せる。
開発、失敗、学会、恋、そして──死。
それはまるで、失われたファイルを再生するようだった。
初投稿です。よろしくお願いします。