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ドラちゃんと王女達 ~ドラゴンが育てたのは男の娘でした~  作者: へるきち


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13. ドラゴンの里帰り

「 ひさしぶりだな、元気だったかっ!?」


 実家に帰ると姉さんが出迎えてくれた。

 ぎゅーっと抱きついてくる。

 ドラゴンの体は柔らかくて、いい匂いがする。


「先週も会っただろ、姉さん」

「この前家に行ったら、お前もアンも居なかったから2日も待ったぞ」


 ドラゴンは悠久の時を生きるというのに、案外せっかち。

 1万年前をつい最近と感じる一方で、3日以上は待てなかったりする。

 

「なんか怪しいのが来たから追い返しておいたぞ」

「そうなの? ありがとう姉さん」


 僕とアンが王国に行っている間に、姉さんが家に来てくれていたらしい。

 そういえば、猫がそんな事を言っていたよ。

 研究所が無事だったのは姉さんのお陰だったんだね。

 追い返したのは新聞の勧誘かも知れないけど。


 ニンゲン形態の姉さんは、おっとり美人という感じ。

 いつも、ぽやーっとした柔らかい表情をしている。

 ニンゲンとしては20代前半に見える。


 髪は黒で毛先だけが赤く、長さは僕と同じで腰くらいまで。

 前髪は、まっすぐパツッと切り揃えている。自分で切っているからね。 

 小豆色のシャツとジャケットに、ロングスカート。

 フリフリ多めで、生地もサラサラで上等なものだ。

 黙っていれば、公爵令嬢に見える。

 口調はちょっと荒いので、ギャップがある。


 姉さんの種族名は、フレイム・ディストーション・ドラゴン。

 ドラゴン形態の時は、母さんとそっくり。

 母さんの実の娘で、フレイム・ドラゴンの亜種だからね。 

 母さんは全身が赤い鱗だけど、姉さんには何枚か黒い鱗がある。

 

「アタシはアンを風呂に入れるから、あんたはサクラを散歩させてやりな」


 背中から僕達を下ろした母さんはニンゲン形態になった。

 いつも通りの幼女。

 大きさはニャア先生と変わらない。

 ニャア先生と違って、大きなパッチリとした瞳に長いまつ毛。

 将来美人になるんだろうなという雰囲気。

 このまま成長しないけどね。

 

 アンは、パンツをぐっしょり濡らしてのびている。

 確かに早く悪魔の湯に漬けた方が良さそうだ。


 ここまでドラゴン形態の母さんの背中に乗って飛んで来たのだけど。

 アンは高所恐怖症なのだ。


 アンは子供の頃に初めて母さんの背中に乗った時も漏らした。

 漏らした挙げ句に落ちてしまった。

 アンはその時の事を記憶から消し去っている。


 今日も一人だけ自力で飛ぶと言っていたのだけど。

 音速を軽く越える母さんと違って、アンは時速80キロ程度しか出ない。

 時間がかかり過ぎるので、母さんが半ば無理やり背中に乗せた。


 アンが飛行魔法でスピードを出せないのは防御魔法が使えないから。

 スピードを出すと、風圧に耐えられない。

 音速を越えようものなら衝撃波で粉々になってしまうだろう。


「ワシも一緒に風呂に入るのじゃ。悪魔の湯は久しぶりじゃな」


 ニャア先生も、アンを抱いた母さんについて行った。

 どこで悪魔の湯に入った事があるのだろうか?

 ドラゴン山にしか無いのかと思ってた。


「アタシはユニコーンに乗ってみたいです」

「サクラなら、こっちに居ると思うぞ。最近は、こっちの草がお気に入りらしい」


 スズメと姉さんは僕についてきた。

 サクラもボンジリと同じで、その辺の草を勝手に食べてくれる。

 サクラは草食で沢山食べるから、帝国に連れて行くと大変かも。

 ボンジリは雑食だから肉でもいいけど。

 

「でも、乗れるのはオレの妹だけだぞ」


 そう言う姉さんはヘタレなのでユニコーンに乗ろうとした事すらない。


 ユニコーンは純潔な乙女しか乗せない。

 

 アンはサクラに嫌われているので近づく事すら出来ない。

 母さんは姉さんを産んでいるので乗れない。

 ストラト姉さんは魂が腐っているので乗れなかった。

 薄い本が大好きで掛け算の前後に拘る貴腐人という奴だ。


 ちなみに、姉さんが男の僕を妹と呼ぶ件については放置だ。

 今更訂正しても無駄だし、ドラゴンは細かい事に拘らないのだ。


「ほらな? 言っただろ。あ! おい大丈夫か!?」


 スズメはサクラに後ろ脚で蹴られてしまった。

 これは初めて見る反応だ。

 アンですら蹴られた事はない。

 スズメは乙女かも知れないけど、邪悪なのかも。

 

「げ、げふっ。うひひっ」

「なんで嬉しそうなんだ!? こいつおかしいぞっ!? 頭を打ったんだな」


 姉さんは重傷を負ったスズメを抱えて風呂へ走った。

 スズメの右脳が損傷してなければいいのだけど。


「僕は、ちょっと重くなったかい?」


 僕の事は、相変わらずあっさり乗せてくれた。

 乙女どころか女の子ですら無いのに。


「むしろ軽くなってる? ニンゲン界で苦労してるんじゃないかって? んー、そうでもないよ」


 僕はサクラに乗って、最近あった事なんかを会話しながら、ドラゴンの巣の中をうろうろと巡る。

 

 僕の実家とストラト姉さんの家は、ドラゴンの巣と呼んでいる空間にある。

 ドラゴン山の頂上付近、フジツボの貝殻というか、天辺の開いたドームのような形状。

 岩の壁にぐるっと囲まれた、天然の要塞とも言うべき空間。

 外に出るにはオーバーハングの壁を越えるか、迷路の様な洞窟を抜ける必要がある。

 逆も然り、ニンゲンの身で踏破するのは非常に困難。


 ここにドラゴン研究所を建てれば襲われる心配は無いなあ。

 でも、世の中と関わりを持ったままここで暮らすのは厳しい。

 電気もないし、携帯の電波も届かない。

 母さんとの連絡は、ここと街を行き来している姉さん任せだ。


 ストラト姉さんの家に来てみた。

 きれいに掃除されて片付いているけど、誰かが住んでいる気配がない。

 姉さんは、まだ実家に居るのかな?

 でっき出迎えてくれた時も、実家から出て来たし。


「おっちゃーん」

「ここに居たのか」


 ニャア先生と姉さんがやって来た。

 湯上がりでほかほかしている。


「先生が、ここの本を見たいと言うから連れてきた」


 先生は本が大好き、僕と一緒だ。

 ここにはストラト姉さんが生まれ故郷かた持って来た本が沢山ある。

 僕は、実家に住んでいた頃、本を読むためにここに入り浸っていた。


「ほげー!? これは日本語じゃ!? いや、ダモン語!?」


 先生は、ここの本が読めた。

 驚くべき事だけど、先生なら十分にあり得るなあ。

 僕も子供の頃にストラト姉さんに読んで貰って、ここの本の言語を憶えた。


「マンガもラノベも沢山あるーっ! ワシここに住みたい!」


 ニャア先生のテンションが上がっている。

 その気持は、とても良くわかる。

 本が無ければ下剋上を起こすしかない、と言うくらいだもんね。

 

「ダメだよ、ここは姉さんの家なんだから」

 

 というか主治医がドラゴン山に引き籠もっては困る。

 

「何言ってんだ? ここはお前の家だぞ」

「え?」


 ストラト姉さんの領地は姉さんが引き継いだじゃん。

 だからこの家も姉さんのものでしょ?


「ストラトは最後に、後はお前に任せる、って言ってただろ? 立ち会ったオレが言うんだから間違いない」


 いや? 姉さんへの引き継ぎに僕が立ち会ったのでは?

 そういえば、最後の時のストラト姉さんは終始「お前」と僕に向かって話していた。

 姉さんの事は「フレイムの娘」か種族名で「ディストーション」と呼んでたもんな。


「なんじゃ、ここはおっちゃんの家なのか? ほいじゃあワシここに住むぞ」

「だからお前がここに住め。オレは帝国のお前の領地に住んでやるよ」


 先生は勝手にここに住まないで欲しい。何が、ほいじゃあ、なんだ。

 姉さんは、街で買えるたい焼きやおはぎが目当てなのだろうか?

 

 僕が、ここに住む?

 検討する価値はあるのかも知れない?

 

 そんな事を、ぼんやりと考えながら悪魔の湯にひとりで浸かる。

 他のみんなは夕食の準備をしてくれているはずだ。


「こらー! 尻尾出せてめーっ!」


 僕がお風呂から上がると、お酒を飲んだアンが暴れていた。


「あほかー! 王女に尻尾があるかー!」

「オレにはあるぞっ。ただし触ったら殺す」

「うはー、怪獣大対決じゃー」

「あはははっ」


 スズメも暴れている。

 奴隷契約をしているのは僕なので、アンには逆らえるのだ。

 ただし攻撃だけはするなと僕が命令している。

 ニャア先生の期待する怪獣大対決は起こらないはず。

 

「ドラちゃんも尻尾出せ」

「出すのです、お嬢様」


 僕にまで絡んできた。

 スズメの奴隷契約は聖国式だから、主人には逆らったり迫ったり出来ないはずなのに。

 こいつも、アンと同じどすけべいさんなのか?

 王女ってこういう生物なのだろうか。


「僕のは、尻尾じゃないぞ」


 ここでは僕もドラゴンという事になっている。

 ドラゴンの尻尾は、さっきも姉さんが言っていた通り、触ってはいけない。

 もちろん、僕の尻尾も触ってはいけない。

 尻尾じゃないし。


「わ、私はドラちゃんの尻尾をペロペロしゅりゅっ!」

「あ、アタシは、お嬢様の尻尾をぶっ刺してもらいましゅっ!」

「こいつら意味分かって言っとるんじゃろうか?」


 荒ぶる王女達に先生が呆れている。


「先生、どういう意味なんだ?」

「いや、実はワシも分からん。母に聞け」

「え? ワタシも分かんないよ」


 姉さんは先生と初対面だったはずなのに、もう先生と呼んでいる。

 さっきお風呂でどんな会話をしたのだろうか。


 しかし、僕の身の回りは、ちんちんの事を知らな過ぎるなあ。

 母さんはドラゴンで単体生殖するから無理もないが。 

 

 僕を拾って来て初めてお風呂に入れた時。


「ありゃ、この子もドラゴンか。尻尾があるよ」


 と、そう言ったくらいだから。

 お陰で、僕は自分をドラゴンだと思い込んで成長した。

 ストラト姉さんには種族名まで貰った。

 ドラゴンスレイヤー・ドラゴン、それが僕の種族名だ。

 どうかと思うネーミングセンスである。

 不満は無いし、気に入っているけどね。


 ドラゴンはひとつの種族につき一頭しか存在しない。

 だから名前を持たない。

 アンが僕をドラちゃんと呼ぶのなら、それが僕の名前だ。

 

 王女達は、大暴れしたのも束の間、全裸で寝てしまった。

 全裸になった何をしたかったんだか。

 襲いかかる王女からは姉さんが守ってくれた。

 姉さんも酔ってたら地獄だったな。

 母さんは面白がって止めないし。

 

「ほっといて大丈夫かな?」

「朝になったら悪魔の湯に沈めればよいじゃろ」


 外なんだけどな。

 ここなら変質者が来るわけもないし、居た所で彼女達を襲うのは無理だけど。

 帝国最強の魔女と、王国最強の女騎士だからね。


 僕達は庭で焼き肉をしているのだ。

 ドラゴン・ブレスによる直火焼き。

 ちなみに、バーベキューと呼ぶと先生が嫌がる。

 ブラック企業のサバトなのじゃー、とか言って。


 ドラゴン研究所でも時々、庭で焼き肉をする。

 魔女の魔法で起こした火をみんなで囲むのだ。

 うちも、ブラック企業なのかも知れない。

 深夜も休日も、ずっと研究している。

   

 母さんと先生は一滴も飲んでない。

 幼女だからね。中身はともかく。

 僕も飲んでない。

 僕まで泥酔すると何が起こるか分からないからね。


 帝国や王国の法律では18歳から飲酒は合法だけど。

 アンもスズメも見た目は18歳未満だからなあ、大丈夫かなあ。

 合法であればいいというものではない。


「成長期が終わっておるのじゃから大丈夫じゃろ」


 先生がそう言うなら、大丈夫だろう。

 ほっぺたがタレでべたべただ。

 食べ終わったら、またお風呂に入った方がいいだろうね。


 僕も、お肉をモシャモシャと食べる。

 うまい。

 これは何の肉だろうか。

 ドラゴン山には、ニンゲンが大金を出して欲しがる食材が沢山あるのだ。


 こうして実家での楽しい夜は過ぎていった。

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