高村君はもう手遅れだけれど
次の日、おれ達三人は某有名テーマパーク近くの水族館で、弟たちと昼に落ち合うことになっていた。
「お前、テーマパーク嫌いなくせに、水族館は好きなんだな」
「だって、涼しいじゃない」
「そうか。じゃあ、海の生物で何が好き?」
「わいは、ジンベイザメやな」
「今、目の前で泳いでるやつか」
「そや。サメやのに、獰猛やないとこがええね」
他の魚と仲良く泳いでるからな。
「私は、ペンギンが好きね。鳥なのに、飛べない所とか、とてもチャーミングだと思うわ」
「それ、褒めてねえよ」
「で、どうでもいいけど、高村君は?」
「どうでもいいなら、聞くなよ。まあ、おれは、イルカだな。あいつら、頭良くてカッコいいじゃん」
「もしかしたら、彼らは高村君をバカにしているかもしれないわよ」
「嫌なこと、言うな。どうせ、おれ達はエサをくれる存在でしかないってことか」
「話は変わるのだけど。高村君って、全然、名前に合った人間じゃないわよね。優秀の秀じゃなくて、優劣の劣を取って、高村劣に改名した方が良いんじゃない?」
何で、いきなり、おれの名前の話になるんだよ。
海の生き物談義はどうしたよ?
というか、こいつはおれの粗探しが趣味なんじゃねえのかと思う。
「高村烈とかやったら、かっこええんやけどね」
でも劣だからな。
「自分の子どもに劣ってるとか付ける親はいねえよ」
ちゃんと、願いを込めて名付けてくれているはず。
「まあ、そんな親はいないでしょうけど。……高村君はもう手遅れだけれど、あなたの弟たちは名前通りの、優れた勝者で、恵まれる子になって欲しいわね。高村君は手遅れだけれど」
確かに、秀才なんて言われたことは一度もねえよ。
「お前だって、全然、和やかじゃねえだろ。美和子のくせに」
必死の反抗。
「あら、美しいことは認めてくれるのね。ありがとう」
撃沈。
「でも、まあ宇宙って書いて、ソラって読むよりはマシよね」
「はあ? 突然何だよ。誰か知り合いにいるのか」
あだ名は「ウチュウジン」とかだろうか。
「最近は凄い名前が多いのよ。光宙って書いて、ピカチュウよ。もう、日本人の名前じゃないわね。これからの日本が心配よ」
「で、親は宇宙にどんな願いを込めたんだ?」
すごく、まともな願いだったら、その親に土下座してやる。
「確か、宇宙の帝王とかになってくれみたいな感じだったと思うわ」
「ただの中二病じゃねえか!」
「いや、そんなんじゃなかったと思うで……」
おれ達の目の前をジンベイザメが悠々と泳いでいる。
何でこんな場所で、日本の未来を憂いているのだろうか……。
ロケ地は某有名な水族館です。
ここでも宇宙君の名前が!
高村君は宇宙父に土下座しないといけないですね。




