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白鳥さんの黒歴史  作者: 夢水四季
しずかとしょかん
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星空の下で

 


数日後。


僕と浅羽さん、大久保君は僕の父の車に乗って、ある所に向かっていた。


時刻は午後九時。


遅い時間だが、この時間でないと意味がない。


 二人の両親には父が責任を持って預かると言って、連れてきたのだ。


「本当に何処に行くんですか?」


「う~ん、あとちょっとで分かるよ」


 二人には行き先をまだ告げていない。




 数分後、目的地に着いた。


「……ここって、天文台?」


 父が通っていた大学のサークル仲間が働いている天文台だ。


「皆、こっちだよ」


 父が丘の上の一番、見晴らしのいい所へ案内する。


 丘の上に着くと、一気に視界が開けた。


「わあっ‼」


 浅羽さんが感嘆の声を上げる。


 僕たちの目の前に、満天の星空が広がっていた。


「すげー。俺、こんなに星を見たの初めてだ」


「私も。……すごく綺麗」


「いやぁ、感動してもらえてなによりだよ」


「連れて来て下さって、ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 二人が父にお礼を言った。


「君たちの嬉しそうな顔が見られて、僕は嬉しいよ。……じゃあ、僕は天文台で友人と話をしに行くから、後は若い者同士、星空の下、語り合っておくれよ」


 父はそう言って、天文台の中に入っていった。


 僕は草むらの上にビニールシートを敷いた。


「良かったら、寝っ転がってみない?」


「おぉ、いいな」


「うん、ロマンチックで素敵だね」


 僕達はビニールシートの上に寝っ転がった。


「おおー、やっぱすげーな。……この感動を上手く言葉で言い表せねえ」


「うん、ただ単純に感動したよ」


「この広い星空を見ていると、自分がとても小さいように感じる。悩みなんてちっぽけなものに思える。……それに、ありのままの自分を出せる気がするんだ」


 無理に笑うこともない、自分に素直になれる。


「僕は、自分のことがあまり好きじゃなかった。大久保君みたいに頭も顔も性格も良くないし、運動も得意じゃない。浅羽さんみたいに素敵な物語を作ることも出来ない。……卑屈で器の小さい、ちっぽけな人間だ。名前と全く正反対で、本当に自分が嫌になる」


 これが本当の僕だ。全然、ピュアなんかじゃない。


「……俺だって、皆が思ってるほど、完璧な奴じゃないさ。皆の期待が辛いって思うことがよくある。……でも、期待には応えなくちゃいけないと思って、作り笑いをしてでも平気であるように見せてる。……本当はもっと楽に生きたいと思う」


 大久保君だって僕と同じように悩んでる。


 完璧であろうと必死で努力してるんだ。


「……私は、自分の将来が怖いの。自分のなりたいもの、小説家になれるか不安で不安で仕方がないの。……人生は一度きりしかなくて、今の私が死んだら、きっと私の書きたい世界、私の思っていることは全部消えてしまう。そうしたら、私というものがなくなって、小説家になりたいっていう思いも全部消えちゃう。……自分の将来なんてなにが起こるか分からないから、怖くて怖くて仕方がないの」


 人は死んだら、どうなるのだろう。


 父の言うように星になるのだろうか?


 皆、悩んでる。皆、苦しんでいる。


 こんなちっぽけな僕に何が出来る?


「……確かに僕達は、ちっぽけで完璧になんてなれないし不安なことだってたくさんある。……でもさ、誰かに話せばきっと楽になれる、不安を皆で分かち合うことも出来る。辛いことがあったら、ちょっと逃げたっていいじゃないか。幸いにも、逃げるのにぴったりの所を僕たちは知っている」


 僕達の大切な場所―――――――。


「……しずかとしょかん」


 浅羽さんが呟く。


「辛いことがあったら、しずかとしょかんの談話室に三人で集まって、少し休もう。少し休んで、また頑張っていけばいい」


 一人が倒れそうになったら、残りの二人が支える。


「素直に自分の気持ちを打ち明けられる関係……。僕は、君たちとそういう関係になりたい。……だから、僕と友達になってくれませんか?」


 僕が欲しかったもの。


 強がって、なかなか欲しいと言えなかったもの。


「……もう、とっくに友達だよ」


「何をいまさら」


 それは、とっくに僕の手の中にあった。


「ごめん、言葉にしないと不安だったんだ」


「じゃあ、改めて……」




「「「これからもよろしく」」」


 


 本当に、僕に友達が出来た。






 それから僕達は暫く星空を見ていた。




「あっ、僕、ちょっとトイレ行って来る」


 そう言って、僕は天文台の方へ向かった。


 その時に、真斗君に目で合図を送った。


 星空の下っていう告白には最適のシチュエーションをあげたんだ。


 絶対に、成功させろよ。




 その後、家に帰るまでの間ずっと、真斗君と満月さんは手を握っていた。


 どうやら、告白は大成功のようだった。




 帰宅後。


「で、僕は来年も宇宙達をあの天文台へ連れていけばいいんだね」


「まあ、誰かが車の免許を取るまではね」


「大切な約束だもんね」


 帰り際、僕達はこんな約束をした。




「これから毎年、ここでこの星空を見に来よう」

ここの満月の思いは作者と同じ思いです。

少しでも読んでくれる人の心に残る物語を書いていきたいと思っています。

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